さっそく、ダンジョンの攻略を開始しようとしたのだけど、それはソフィアに止められた。

 準備をしないといけない。
 情報収集もしないといけない。
 いきなり突撃するなんて無謀の極み……と。

 そこで、二手に別れて行動することに。
 僕とリコリスは、ダンジョン攻略のための準備を。
 ソフィアとアイシャとスノウは、情報収集を。

「やーだー、フェイトと二人きりー? えー、困るー。リコリスちゃん、勘違いされたら困るー。ファンの人が泣いちゃうー」
「……」
「いや、冗談でしょ? そんな冷めた目で見ないでよ。あたし、ちょっと泣くわよ?」

 だったら妙なことをしないでほしい。

 ここは僕の故郷だから、幼い頃からの知り合いがたくさんいる。
 それなのにリコリスのせいで、変な風評被害がついてしまうかもしれない。
 勘弁してほしい。

「それで、なにを買うの?」
「ダンジョンはけっこう広いみたいだから、まずは食料と水。それと、休憩場所を確保するための結界と、ポーションも必須だよね。あとは……」
「おいおいおい!?」

 必要なものを考えていると、それを遮るような大きな声が響いた。

 振り返ると、僕と同じくらいの男性が店に立っている。
 こちらを見て驚いている様子で、あたふたとしていた。

 なんだろう?
 どこか見覚えがあるような……

「お前、もしかしてフェイトか!?」
「そうですけど……」
「おいおい、なに他人行儀な感じ作ってるんだよ。ったく、俺の顔を忘れたのか?」
「……あっ」

 思い出した。

「もしかして……」
「おう!」
「小さい頃、何度もおやつを勝手に食べて、毎日のように怒られていたタイズ!?」
「そんなピンポイントなところ、覚えてるんじゃねえよ!?」

 久しぶりに再会した幼馴染は怒るのだけど、でも、僕は喜んでいた。

 懐かしい。
 奴隷に堕ちた時は、もう二度と会えないと思っていたから……
 なおさら懐かしいと思う。

「え、なになに? 今、フェイトって言った?」
「あっ、本当だ! フェイトだ!」
「わー、すっごい懐かしいわね。おかえりなさい!」

 どこからともなく、たくさんの懐かしい顔がやってきた。
 ラン、レイド、フェリシア……その他、たくさん。

 昔、一緒に遊んだ友達で……
 近所のお兄さんお姉さん的な人もいて……
 たくさんお世話になった、おじさんおばさんもいた。

 みんな、とてもうれしそうにしている。
 その笑顔は僕の記憶にあるものとまったく変わらなくて……

「……ただいま!」

 ついつい、ちょっと泣いてしまう僕だった。



――――――――――



 懐かしい再会を済ませて、それから買い物をしたのだけど……

「うぅー……ぐすっ、ひっく、よがっだわねえええ……」

 リコリスがもらい泣きしていた。
 僕以上に泣いているんだけど……

 適当な性格に見えて、その実、けっこう涙もろいんだよね。

「ほら、もう泣き止んで」
「うぅ……」
「そんな顔をして戻ったら、ソフィア達に何事かと思われるよ?」
「それはわかっているけどぉ、でもでもぉ……」

 苦笑してしまう。

 でも、それだけじゃなくて温かい気持ちになる。
 これだけ泣いてくれるっていうことは、僕の気持ちに寄り添ってくれている、っていう証なわけで……

 うん。
 素直にうれしい。

「あっ、フェイトだぁ」」

 ふと、飛んできた声。
 それはとても懐かしくて、ついつい、また涙が出てしまいそうになるほどで……

「……ミント?」

 振り返ると、ふんわりとした笑顔を浮かべた女の子が。

 背は低く童顔。
 そのせいか、同い年のはずなのに二つ三つくらい下に見える。
 でも、本当はとてもしっかりした子ということを僕は知っている。

 ミント・フラウラウ。
 ソフィアと同じ、もう一人の幼馴染だ。

「わー、わー。本当にフェイトだぁ、帰ってきたってみんなが話していたんだけど、本当だったんだねぇ」
「久しぶり、ミント」
「うん、久しぶりぃ」

 相変わらずというか、ゆるっとふわっとした話し方をする子だ。
 そこは今も変わらないらしく、ほんわりとしている。

「なにをしているのぉ?」
「ダンジョンに潜る予定だから、そのための準備をしているんだ」
「わぁー。ダンジョンっていうことは、フェイト、冒険者になれたんだねぇ。おめでとぉ」
「うん、ありがとう」

 久しぶりの再会を喜んでいると、

「……ちょっと、フェイト」

 そっと、リコリスが耳打ちしてきた。

「なに?」
「どういう関係か知らないけど、あまりそいつと話さない方がいいわよ。早く切り上げなさい」
「久しぶりに再会したのに、そんなことをするなんて……」
「あたしの命令よ! っていうか、そうしないと、あたしまでとばっちりを食う可能性が……」
「とばっちり?」

 よくわからなくて首を傾げていると、

「……フェイト?」
「っ!?」

 びくりと震えてしまう。
 そっと振り返ると……

「確か、色々な買い物をお願いしたと思うのですが……そちらの方は誰でしょうか?」

 にっこり笑顔のソフィアがいた。