『黒鉄』。
 そう呼ばれている鍛冶屋が僕の実家だ。

 一階が武具の売り場と工房になっていて、二階に生活スペースが並んでいる。
 それと、それなりに広い庭がセットに。

 冬、父さんと母さんと一緒に雪だるまをたくさん作った思い出がある。

 そんな思い出が詰まった家が……

「あれぇ!?」

 思い切り変わっていた。

 二階建てから三階建てへ。
 さらに、家の敷地面積も倍くらいに。

「え? え? ……なにこれ?」
「我が家だぞ」
「我が家といわれても……リフォームをしたの?」
「ああ。ちと、必要に迫られてな」
「?」

 どんな理由があったのだろう?

 以前の家は決して広くないものの、父さんと母さんだけなら問題のないスペースが確保されていた。
 築年数はそこそこ経っているけど、建て直しを必要とするほど古くはない。

 それなのに、なぜ……?

「あらあら。懐かしい声が聞こえるかと思ったら……おかえりなさい、フェイトちゃん」
「あ、母さん!」

 とても懐かしい声。
 その優しい声を聞くだけで、ついつい涙が出そうになってしまう。

 でも、それは我慢。
 男として情けない。

 代わりに笑顔を浮かべて振り返り……

「ただいま、母さうぇえええええ!?」

 笑顔の挨拶は、途中で驚きの声に変わった。

 アミラ・スティア―ト。

 僕よりも背が低い。
 おまけに童顔なので、父さんと並んで夫婦と言われると、ちょっと犯罪の匂いがしてしまう。

 そんな母さんは、赤ちゃんを抱いていた。
 首が座っているから、生後半年は経っているのだろう。

「え? え? え? えっと……その子は?」
「ルーテシアちゃんよ?」

 いや、名前は聞いていないよ。
 名前も大事だけど、今は、それよりも誰なのか、っていうことが気になるんだよ。

 母さんは、相変わらずマイペースのようだ。
 らしいところを見れて安心したのだけど、でも、やっぱり疑問の方が上だ。

「近所の子を預かっている、とか?」
「あらやだ。ダメよ、フェイトちゃん。自分の妹をそんな風に言うなんて」
「ご、ごめん。そんなつもりは……妹?」
「ええ、妹よ」
「その子が?」
「もちろん」
「……」

 たっぷり、一分は思考が停止した。
 そして……

「えええええぇーーーーー!!!?」

 僕の驚きの声が街中に響き渡ったとかなんとか。



――――――――――



「おいおい、そんなに驚くことはないだろ?」
「驚くよ……」

 あれから家の中に入り、改めて事情を説明してもらった。

 僕がスノウレイクを出てしばらくは、父さんと母さんはいつも通りに暮らしていたらしい。
 しかし、子供がいないことは寂しい。

 なら、家族を増やしてしまえばいいのでは?

 そんな極論に達したらしく……
 まあ、色々とがんばったらしい。

 結果、半年くらい前に妹……ルーテシアが生まれたらしい。

 子供が生まれたことで、家の中が手狭に。
 僕が帰ってきたら、とてもじゃないけれど部屋もスペースも足りない。

 なので、思い切って改装したらしい。

「本当に思い切ったことをしたね」
「まあな。でも、こうしてフェイトが帰ってきた。しかも、べっぴんの嬢ちゃん達と一緒に」

 父さんにべっぴんと言われ、ソフィアが照れていた。

「改装して正解だっただろう?」
「そうだけど……はぁ。相変わらず、父さんの行動力はすごいね」

 思いついたことを、すぐに実行してしまうというか……
 父さんは、ほぼほぼ考えないんだよね。
 野生の勘のようなもので行動している。

 それなのに、ほとんど失敗することがない。
 色々な物事において成功を収めている。

 そこは、素直にすごいと思う。

「ねえねえ、フェイトちゃん。色々とお話を聞かせてくれる?」
「どんな冒険をしてきたんだ?」
「あ……うん」

 二人の笑顔は懐かしくて、温かくて……
 今更だけど、ちょっと泣いてしまいそうになった。

 その涙を我慢しつつ、僕は今までのことを話した。

 奴隷にされていたことは心配をかけてしまうから伏せて……
 ソフィアと出会ってからのことをメインに話をする。

 その話は思いの外盛り上がり……
 僕達は揃って夜ふかしをしてしまうのだった。