スノウレイクは遥か北にある街だ。
ブルーアイランドからだと、馬車で一ヶ月ほどの長旅になる。
しっかりと準備をして……
ライラさんに別れの挨拶をして……
そして、僕達はスノウレイク行きの馬車に乗り、ブルーアイランドを後にした。
――――――――――
カタカタカタと車輪が回り、ゆっくりと景色が横に流れていく。
「おー」
それを見るアイシャは、尻尾をぱたぱたと横に振っていた。
何度も馬車に乗っているのだけど、流れる景色を見るのは楽しいらしい。
うん、わかる。
僕も子供の頃は同じようなものだった。
普段と違う目線、違う速度で見る景色は、新鮮で楽しいんだよね。
「……む」
剣を抱くようにして仮眠をとっていたソフィアが、パチリと目を開けた。
「どうしたの?」
「魔物です」
「なら、僕が……」
「フェイトはアイシャちゃんをお願いします。それに、今は私の番なので。では、いってきます」
止める間もなく、ソフィは馬車を降りてしまう。
……ややあって、魔物の悲鳴が聞こえてきた。
魔物なんだけど同情してしまう。
ソフィアがいる馬車を襲おうとするなんて、なんて運の悪い。
「いやー、助かりますよ」
荷台と御者台を繋ぐ小さな扉から、御者の声が聞こえてきた。
「剣聖さまがいるおかげで、魔物の心配をしなくてすみますからね。こんなに安全な旅は久しぶりですよ」
「こちらこそ、ありがとうございます。馬車に乗せてくれて、すごく助かりました」
スノウレイクは遠く、馬車の定期便はない。
独自に雇う必要があったのだけど、遠すぎるせいでなかなか引き受けてくれる人がいない。
いたとしても、とんでもない料金を求められることがあった。
困り果てたところで、スノウレイクへ向かう商人と出会うことができた。
彼の馬車を護衛する。
その報酬として、スノウレイクまで乗せてもらう。
そんな契約を交わしたのだ。
「ところで、スティアートさん達は、どうしてスノウレイクへ?」
なにもないとヒマらしく、御者はそう話を振ってきた。
僕もヒマなので、その世間話にのっかる。
「えっと……スノウレイクは僕の故郷なんです」
詳細を説明すると長くなりそうなので、雪水晶の剣の修理の件は黙っておいた。
「へえ、スノウレイクの……じゃあ、大変ですねえ」
「え? それ、どういう意味なんですか?」
「おや、知らないんですか?」
御者の口ぶりからすると、スノウレイクでなにか問題が起きているらしい。
嫌な予感がする。
「私は、こうしてスノウレイクと他の街を行き来している商人なんですが、最近、おかしなことが起きてましてね」
「おかしなこと?」
もしかして、ブルーアイランドのような……
「豊作が続いているんですよ」
「え?」
豊作?
豊作っていうと……野菜とか果物がたくさんとれるっていう、あの豊作?
「ほら。スノウレイクは雪の街でしょう? 栽培できる野菜や果物に限りがある……はずなのに、最近では、どんな野菜や果物も栽培できて、おまけに豊作続き」
「そんなことが?」
「ええ。ただ、人手が足りなくて、てんてこまいらしいですよ。スティアートさんの家は農業を?」
「いえ……鍛冶屋です」
「それなら手伝いをすることは……あ、知り合いが農業をやっているのなら、やっぱり手伝いに駆り出されるかもしれないですね。あの街では今、子供も収穫の手伝いをするほど人手が足りていないので」
「はあ……」
「まあ、うれしい悲鳴というやつですね。私も、取り引きできる商品が増えて、色々と得をさせてもらっていますよ。なので、こうして頻繁に行き来しているんですよ」
ブルーアイランドのような事件が起きているのでは? と気構えたのだけど……
拍子抜けだ。
「……でも」
気になる話だ。
スノウレイクは雪の街で、農業に向いていない。
もちろん、雪の中でも育つ野菜や果物はあるけど、それは限られている。
農家には厳しい環境だ。
だから、父さんは農業ではなくて鍛冶を選んだわけで……
それなのに、豊作が続いている?
色々な野菜と果物が収穫できている?
それが本当なら、喜ぶべきことなのだろう。
でも、理由がわからないのだとしたら、なんだか不気味にも感じられて……
どう受け止めていいか、正直、よくわからない。
「ただいま戻りました」
魔物を掃討したらしく、ソフィアが馬車に戻ってきた。
「おかーさん、おつかれさま」
「はい、ありがとうございます。フェイトとアイシャちゃんを守るため、お母さん、がんばりましたよ」
「ちょっと、ソフィア。あたしは? ねえ、あたしは守ってくれないの?」
「それは……フェイト? どうしたのですか、笑って」
「ううん、なんでもないよ」
スノウレイクでなにかが起きているかもしれない。
でも、みんなと一緒なら大丈夫だ。
ブルーアイランドからだと、馬車で一ヶ月ほどの長旅になる。
しっかりと準備をして……
ライラさんに別れの挨拶をして……
そして、僕達はスノウレイク行きの馬車に乗り、ブルーアイランドを後にした。
――――――――――
カタカタカタと車輪が回り、ゆっくりと景色が横に流れていく。
「おー」
それを見るアイシャは、尻尾をぱたぱたと横に振っていた。
何度も馬車に乗っているのだけど、流れる景色を見るのは楽しいらしい。
うん、わかる。
僕も子供の頃は同じようなものだった。
普段と違う目線、違う速度で見る景色は、新鮮で楽しいんだよね。
「……む」
剣を抱くようにして仮眠をとっていたソフィアが、パチリと目を開けた。
「どうしたの?」
「魔物です」
「なら、僕が……」
「フェイトはアイシャちゃんをお願いします。それに、今は私の番なので。では、いってきます」
止める間もなく、ソフィは馬車を降りてしまう。
……ややあって、魔物の悲鳴が聞こえてきた。
魔物なんだけど同情してしまう。
ソフィアがいる馬車を襲おうとするなんて、なんて運の悪い。
「いやー、助かりますよ」
荷台と御者台を繋ぐ小さな扉から、御者の声が聞こえてきた。
「剣聖さまがいるおかげで、魔物の心配をしなくてすみますからね。こんなに安全な旅は久しぶりですよ」
「こちらこそ、ありがとうございます。馬車に乗せてくれて、すごく助かりました」
スノウレイクは遠く、馬車の定期便はない。
独自に雇う必要があったのだけど、遠すぎるせいでなかなか引き受けてくれる人がいない。
いたとしても、とんでもない料金を求められることがあった。
困り果てたところで、スノウレイクへ向かう商人と出会うことができた。
彼の馬車を護衛する。
その報酬として、スノウレイクまで乗せてもらう。
そんな契約を交わしたのだ。
「ところで、スティアートさん達は、どうしてスノウレイクへ?」
なにもないとヒマらしく、御者はそう話を振ってきた。
僕もヒマなので、その世間話にのっかる。
「えっと……スノウレイクは僕の故郷なんです」
詳細を説明すると長くなりそうなので、雪水晶の剣の修理の件は黙っておいた。
「へえ、スノウレイクの……じゃあ、大変ですねえ」
「え? それ、どういう意味なんですか?」
「おや、知らないんですか?」
御者の口ぶりからすると、スノウレイクでなにか問題が起きているらしい。
嫌な予感がする。
「私は、こうしてスノウレイクと他の街を行き来している商人なんですが、最近、おかしなことが起きてましてね」
「おかしなこと?」
もしかして、ブルーアイランドのような……
「豊作が続いているんですよ」
「え?」
豊作?
豊作っていうと……野菜とか果物がたくさんとれるっていう、あの豊作?
「ほら。スノウレイクは雪の街でしょう? 栽培できる野菜や果物に限りがある……はずなのに、最近では、どんな野菜や果物も栽培できて、おまけに豊作続き」
「そんなことが?」
「ええ。ただ、人手が足りなくて、てんてこまいらしいですよ。スティアートさんの家は農業を?」
「いえ……鍛冶屋です」
「それなら手伝いをすることは……あ、知り合いが農業をやっているのなら、やっぱり手伝いに駆り出されるかもしれないですね。あの街では今、子供も収穫の手伝いをするほど人手が足りていないので」
「はあ……」
「まあ、うれしい悲鳴というやつですね。私も、取り引きできる商品が増えて、色々と得をさせてもらっていますよ。なので、こうして頻繁に行き来しているんですよ」
ブルーアイランドのような事件が起きているのでは? と気構えたのだけど……
拍子抜けだ。
「……でも」
気になる話だ。
スノウレイクは雪の街で、農業に向いていない。
もちろん、雪の中でも育つ野菜や果物はあるけど、それは限られている。
農家には厳しい環境だ。
だから、父さんは農業ではなくて鍛冶を選んだわけで……
それなのに、豊作が続いている?
色々な野菜と果物が収穫できている?
それが本当なら、喜ぶべきことなのだろう。
でも、理由がわからないのだとしたら、なんだか不気味にも感じられて……
どう受け止めていいか、正直、よくわからない。
「ただいま戻りました」
魔物を掃討したらしく、ソフィアが馬車に戻ってきた。
「おかーさん、おつかれさま」
「はい、ありがとうございます。フェイトとアイシャちゃんを守るため、お母さん、がんばりましたよ」
「ちょっと、ソフィア。あたしは? ねえ、あたしは守ってくれないの?」
「それは……フェイト? どうしたのですか、笑って」
「ううん、なんでもないよ」
スノウレイクでなにかが起きているかもしれない。
でも、みんなと一緒なら大丈夫だ。