「再生能力だ!」
「しかも、なんてデタラメな速度……自然治癒というレベルではありませんね」

 ソフィアが険しい表情に。
 その理由はよくわかる。

 世界には色々な魔物がいて、中には自然治癒という特殊能力を持つ個体がいる。
 その名前の通り、自然に傷が治ってしまうという能力だ。

 ただ、どれだけ強力な力を持つ魔物でも、足を斬られれば、その治癒に数日はかかると言われている。
 今、スノウが見せたように、十秒足らずで治ってしまうなんてありえない。

「規格外すぎますねっ!」

 ソフィアは剣を振り、スノウの突撃を防いだ。
 その間に、僕はもう一度、スノウの足を斬りつける。

 今度は刃が通る。

 しかし、その後の結果は変わらず。
 ソフィアの時と同じく、スノウの傷はすぐに治癒されてしまう。

「これじゃあ、どうやって無力化すれば……」
「時間があれば、罠を作成するのですが、それは難しいですね」
「罠を作れたとしても、うまくかかるかどうか、ものすごい微妙なところだよね」
「まったくです」

 スノウの攻撃をなんとか防ぎつつ、攻略法を探す。

 僕一人だけだったら、一分と保たなかっただろうけど……
 でも、今はソフィアが一緒だ。
 彼女と一緒なら、何分でも耐えられることができそうだ。

 とはいえ、街の被害やその後のことを考えると、早々に決着をつけたい。

「それに、泥棒猫がやらかす前に、なんとかしたいところです」
「レナがなにか企んでいるの?」
「スノウをこのようにしたのは、泥棒猫の仕業です。このままスノウを放置しておくとは思えません。なにかしら、どこかのタイミングでちょっかいをかけてくるはずです」
「……レナ……」

 悪い子には見えなかった。
 常識とか足りないところはあるけど、でも、笑顔の綺麗な女の子だった。

 それなのに、どうしてこんなことを……?
 黎明の同盟って、いったいなんなんだろう?

 思うところは色々とあるのだけど……
 でも、今は考えるのはやめておこう。

 今、最優先に考えるべきことはスノウだ。

「魔法で眠らせるとか?」

 スノウの前足を避けて、カウンターを繰り出しつつ、相談を続ける。

「スノウはそこらの魔物とは違います。魔法に対する高い抵抗力を持っているでしょう。並の使い手では……ふっ!」

 ソフィアも器用にカウンターを放ちつつ、話を続けていた。

 ただ、彼女の場合は、一度に数回の斬撃を繰り出している。
 スノウの治癒能力のこともあって、あまり遠慮はしていないみたいだ。

「リコリスならどうかな?」
「可能かもしれませんが……今、アイシャちゃんの傍を離れてしまうのは、ちょっと困りますね」
「そっか……うーん、そうなると……うわっ」

 スノウがくるっと回転したかと思うと、尻尾を鞭のように薙ぎ払ってきた。

 予想外の攻撃に、少し反応が遅れてしまう。
 危ういところで回避に成功するものの……

「なんか……攻撃速度が上がってきていない?」
「私達の動きに慣れてきたのか、あるいは、自分の体の動かし方を理解してきたのか……」

 スノウがこの状態になって、まだ時間が浅い。
 生まれたばかりの雛のようなもの。
 だから、今までは思うように体を動かせていなかったのだろう。

 でも、時間が経つことで慣れてきて……
 100パーセントの力を発揮しつつある。

 恐ろしい話だった。
 今までが全力じゃなくて、まだまだ余力があったなんて。

 これで全力全開になれば、どうなるか?
 どれだけの被害が生まれるか?

「くっ……」

 本当なら、スノウを討伐しなくてはいけないのかもしれない。
 元に戻す方法はなくて、無駄なことをしているのかもしれない。

 それでも。

 諦めるなんてことはしたくない。
 全力であがいて、あがいて、あがいて……
 ギリギリまで追いつめられたとしても、それでも諦めることなく、みっともなくてもあがき続けたいと思う。

 僕はもう、理不尽なんかに負けたくない!

「スノウッ!!!」

 だから、呼びかけた。

 強く、ありったけの声で。
 みんなで一緒に考えた名前を呼ぶ。

「スノウ! 僕だよ、フェイトだ!!!」
「グルルルゥ……!」
「こんなことをしたらダメだよ! 思い出して、キミはとても優しい子で、アイシャの友達だったじゃないか! 僕達の家族じゃないか!!!」
「グゥ……!」
「だから、戻っておいで……スノウッ!!!」
「ウゥ……」

 それは奇跡なのか。
 あるいは、必然なのか。

 僕の声が届いた様子で、スノウは動きを止めた。