スノウは見上げるほどに大きい。
 それなのに動きは速く、風のように動いている。

 暴れまわっているだけで、明確な攻撃はしていない。
 それなのに、冒険者と騎士達は蹴散らされている。
 建物が崩れ、噴水などが踏み潰されている。

「これ、どうにかしないと……!」

 こんなところで戦えば、周囲にどれだけの被害が出るか。
 スノウをうまく止められたとしても、街が半壊したら意味がない。

「まずは注意を引きつける!」

 タイミングを図り、前に出た。

 強く強く、剣の柄を握り……

「破山っ!!!」

 一番使い慣れていて、一番威力があるだろう技を繰り出した。

 やりすぎてしまわないか?
 という心配はない。
 ゼロだ。

 むしろ、これじゃあ足りない。
 もっともっと強い攻撃を繰り出さないと、今のスノウに届くことはないと感じている。

 その感覚は正しくて……
 刃はスノウの毛を切ることもできず、鈍器で叩くような結果に終わる。

「グルルルッ……!」

 刃は通らなかったけれど、衝撃は伝わったらしい。
 それなりのダメージも与えられたらしく、スノウが怒りに満ちた目でこちらを睨む。

 よし。
 うまいこと注意を引くことができた。

「こっちだよ!」
「ガァッ!」

 獣や魔物を前にした時、一番やってはいけないのは背中を見せることだ。
 そんなことをしたら、これ幸いと追いかけて攻撃してくる。
 奴隷時代の経験で、そんなことを学んだ。

 スノウも例外ではないらしく、勢いよく追いかけてきた。

 このまま、街の外まで誘い出したいところだけど……

「は、速い……!?」

 歩幅の差が圧倒的に違う上に、風のように速く動くことができる。

 こうして敵を引きつけることは何度もやっていたから、それなりの自信があったんだけど、すぐに追いつかれてしまう。

 スノウが前足を使い、僕を薙ぎ払おうとする。
 体を逸らすようにして、なんとか回避。

 目の前をスノウの前足が通り抜けていって……
 ゴォッ! という風が吹き荒れる。
 直撃していたら……と、ゾッとする。

「このっ!」

 カウンターで剣を叩き込む。
 刃が通らないことは確認済みなので、横にして、鈍器のように使う。

 ギィンッ!

 鉄を叩いたような感触と音。
 毛だけじゃなくて、体も固いらしい。

 ただ、小さいながらもダメージは受けている様子で、スノウは再び怒りに吠えた。
 うまい具合にヘイトを稼ぐことができている。
 それは良いことなんだけど……

「これ、どうやって街の外まで誘い出せば……うわっ!?」

 逃げる。
 しかし、すぐに追いつかれてしまう。

 その繰り返しで、なかなか進むことができない。

 このままだと被害が拡大する一方だ。
 それに、スノウの攻撃はとても強力で速い。
 何度も何度も避けられるかどうか。

「……ううん、ダメだ。弱気になったらいけない」

 泣き出しそうなアイシャの顔を思い出した。

 アイシャにあんな顔は似合わない。
 やっぱり、笑顔が一番だ。

 その笑顔を取り戻すために、僕は、できることを全力でやらないと!
 諦めたり絶望したり、そんなことをしているヒマはない。

「はぁっ!」

 攻撃と撤退。
 それを交互に繰り返しつつ、少しずつだけどスノウを砂浜の方へ誘い出していく。

 今のところ順調だ。
 スノウの注意は僕に向けられていて、街に対する被害も最小限に押さえられている。

 問題があるとすれば、僕の体力だろうか。
 まだ十分も経っていないのに、息が切れ始めていた。
 この状態のスノウと戦うことは、それだけ体力の消費が激しい。

 そして……それがミスを誘う。

「ガァアアアッ!!!」
「しまっ……!?」

 石を踏んでしまい、わずかに動きが止まってしまう。
 その隙は逃さないというように、スノウは吠えつつ、前足を叩きつけてきた。