「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「ふっ……ふっ……ふっ……!」

 ソフィアとレナは剣を構え、互いに睨み合う。
 どちらも息が切れていて、体のあちらこちらが傷ついていた。

 全力全開で戦うこと、数十分。
 未だ決着はついていない。

「あははー……ごめんね。ちょっと剣聖を侮っていたかも」
「私なんか、すぐに倒せると思っていましたか?」
「うん」
「……素直に肯定されると、それはそれで頭にきますね」
「ボク、素直なところが売りだから」
「減らず口を」

 イライラとするソフィアは、今すぐにレナを叩き切りたい衝動に駆られる。
 ただ、迂闊に飛び出すことはできない。

 とっておきの切り札は温存しているものの……
 現状、ほぼほぼ全力を出している。
 それなのに、レナを仕留めることはできず、互角。

 もしも、レナが力を温存していたら?
 自分と同じように、とっておきの切り札を隠し持っていたら?

 その危険性を考えると、無闇に斬りかかることはできない。

「まさか、ここまで強いなんてなー、ちょっと予想外。仲間は、剣聖なんて大したことないよー、っていうから侮っていたんだ。ごめんね?」
「余裕がありますね?」
「いや、そんなことはないよ? ぶっちゃけ、ほぼほぼ全力を出していたからね」

 ほぼほぼ、ということは、全てを出し切っていないということだ。
 ソフィアと同じように、切り札を温存しているのだろう。

 やはり、迂闊に飛び込むことはできない。
 ソフィアは、レナに対する警戒度をさらに上げた。

「んー……ボク、君にも興味が出てきたかも」
「えっ」

 ソフィアは顔を青くする。

「わ、私はそういう趣味はないのですが……」
「ボクだってないよ!? そういう意味じゃないからね!?」

 レナが慌てて否定した。

「恋愛的な意味じゃなくて、ライバル的な感じ。ボクと全力で戦って、生き延びた人なんてほとんどいないからね」
「なるほど、そういう意味ですか」
「ボク、戦うことも好きなんだー。だから、ここで決着をつけておきたいんだけど……」

 レナの殺気がさらに鋭くなり、ソフィアは自然と構えを取る。

 しかし、次の瞬間、レナの殺気が消えた。
 そのまま剣を鞘に収めてしまう。

「ひとまずの目的は達成したから、それはまた今度の機会にしておくね」
「目的を達成した……?」

 そこで、遅れながらソフィアは気がついた。

 魔剣を持った暴漢達が暴れ、街は混乱に飲み込まれていたが……
 さらに様子がおかしくなっていた。

 街の中心から巨大な圧を感じる。
 同時に、獣の雄叫びも聞こえてきた。

 レナを警戒しつつ、視線をそちらに向けると、巨大な獣が見えた。

「あれは……?」
「ふふ、うまくいったみたいだね」
「あなたがなにかしたのですか!?」
「そういうこと。ごまかしても意味ないし、素直に認めるよん」

 レナは得意げに語る。

「ボクらの目的は、アレさ。魔剣をばらまいて、負の感情で街を満たして、封印を崩壊させる。それと同時に神獣を暴走させて、後で、ぱくりとおいしくいただく。うん、そんなところかな」

 ソフィアは混乱した。

 レナの語る内容が半分も理解できないこともあるのだけど……
 なぜ、そんなことをわざわざ口にする?
 本当の目的だというのなら、どうしてわざわざ教える?

 こちらの疑問を察した様子で、レナがニヤリと笑う。

「君とフェイト……それと、あの獣人の女の子は、けっこう重要な立ち位置にいるからね。色々と本当のことを知れば、ボク達の仲間になってくれるかもしれない。だから、知るべきことは知っておいてほしいんだ。まあ、全部語るのはサービスが良すぎるから、こうしてヒントを与えるくらいにしておくけどね」
「こんなふざけたことをする、あなたの仲間になるなんて、本気で思っているのですか?」
「思っているよ? 本当のことを知れば、きっと心が揺らぐと思うからね」
「……」

 いったい、レナはなにを知っているのか?
 本当のことというのは、どのようなものなのか?

 ソフィアは考えて……

 そして、思考を放棄する。
 代わりに、聖剣を強く握りしめた。

「ヒント程度と言わず、ここで全部、語ってもらいましょう。無理矢理にでも!」
「えっ、そういう考えになるの? もしかして、脳筋?」
「失礼ですね。ますます、斬りたくなりました」

 とっておきを使おう。
 ソフィアは、レナを鋭く睨みつけるが……

「ホントは戦いたいけど、でも、ごめんねー。こうなったら、ボクも色々とやらないといけないことがあるんだ。じゃあね」
「待ちなさい!」

 ソフィアは、音速に近い速度で剣を振る。
 しかし、刃はレナを捉えることはなく……
 幻だったかのように、レナの姿は消えていた。

「逃しましたか……」

 ソフィアは軽く唇を噛んだ。

 ただ、いつまでもぼーっとしているわけにはいかない。
 すぐに気持ちを切り替えて、巨大な獣がいる街の中心へ向かった。