「改めて、ありがとう」
念の為、さらに森の奥へ移動して安全を確保したところで、ライラさんがぺこりと頭を下げた。
「リコリス、お願い」
「ほいほーい」
リコリスがふわりと舞い上がり、ライラさんの周りを飛ぶ。
その際、リコリスの羽から鱗粉のようなものが舞う。
ホタルを連想するような光が輝いていた。
「うん、目で見えない怪我とかもなさそうね。このスーパーリコリスちゃんアイで確認したから、確かよ」
「今の光は……?」
「妖精の祝福というか、まあ、そんな感じ。疲労回復とか、心を落ち着ける効果があるのよ」
「え、そんなことできたの?」
「万能無敵妖精リコリスちゃんだもの!」
ドヤ顔を見せるリコリス。
でも、そんなことができるのなら、もっと前からしてほしかった。
ドクトルと戦った時とか。
ついついジト目になってしまうと、リコリスは慌てたように言う。
「い、いつでもできるわけじゃないのよ? しっかりとした軌道で飛ばないといけないから、戦闘中なんて無理だもの」
「そういうことにしておくね」
「そういうこと!? どういうこと!?」
リコリスのことは置いておくとして……
「ライラさんは、しばらくここに隠れていてください。街は危ないので」
「私、自分の家のことしか知らないんだけど……え、まさか、街全体があんな感じになっているの?」
「……はい」
「マジかー」
天を仰ぐようにして、ライラさんは力なく言う。
研究一筋で、他のことはわりと気にしない人だけど……
さすがに、この事態は堪えているのだろう。
「研究のための資料、消失してないといいんだけど……」
訂正。
やっぱり、いつでもどんな時でも、ライラさんはライラさんだった。
ある意味で、とてもたくましい人だ。
その心の在り方が、少しうらやましい。
「君、どうするつもり?」
「街に戻ります。今は、一人でも多く暴漢を制圧しないと」
まとめて一網打尽、っていうのができれば一番だけど、それは難しい。
一人ずつ確実に制圧していくしかない。
「んー……」
「どうしたんですか、難しい顔をして」
「いやね。こんなことを引き起こしたヤツがいるんでしょ? そいつは、なにを目的としているのかな、って」
「……目的……」
「ただの愉快犯で、こんなことはしないと思うのよね。その……黎明の同盟だっけ? 魔剣が原因になっているっていうことは、そいつらの仕業でしょ? でも、話を聞いた限りだと、遊びで街を混乱させることはしないと思う。なにか、本当の狙いが別にあるはずよ」
「そう言われてみると……」
ライラさんの言う通りだ。
黎明の同盟が……レナが、意味もなくこんなことをするわけがない。
適当に見えるところもあるけど、でも、とても計算高い子でもある。
街を混乱させるのは、準備段階。
その奥に本当の目的が隠されているに違いない。
とはいえ、その目的は見当もつかないんだけど。
「暴漢の制圧も大事だけど、敵の目的を突き止めることも大事じゃないかな? 下手したら手遅れ、なんてこともありえるわよ」
「それは……」
「まあ、なにもできない私が偉そうなこと言えないんだけどね、あはは」
場の空気を軽くするためなのか、ライラさんが笑ってみせた。
でも、ライラさんの言う通りだ。
レナの目的をきちんと見抜かないと、手遅れになる可能性もある。
まずは暴漢を倒して、混乱を回復させることを優先するか?
それとも、ソフィアに協力して元凶を叩くことを優先するか?
「……僕は、僕にできることをやるよ」
迷いがないとは言えない。
今の話を聞いて、少し心が揺らいだ。
でも結局のところ、他にできることはない。
それに……
目の前で困っている人がいたら、見捨てるようなことはしたくない。
物事を広い目で見る必要はあると思うけど、でも、襲われている人のことを大事の前の小事と切り捨てたくなんてない。
それが僕の答えだ。
「うん、それでいいんじゃないかな」
ライラさんは、僕を応援するかのように、にっこりと笑った。
「自分で言っておいてなんだけど、君は、そういう方が似合っているよ。とても君らしいと思う」
「ありがとうございます」
「私が背中を押したようなものだから、私も協力しないとだね」
「え? でも……」
「大丈夫。さっきはいきなりのことで、あと逃げ場がなかったから動転していたけど……こう見えて、いくらかの魔法は習得しているよ? サポートくらいなら問題ないさ」
僕と一緒に来る、ということだよね?
でも、それは……
「あと、ぶっちゃけ、一人にされる方が怖いかも。あはは……」
「そういうことなら」
こんな状況だ。
今は森が安全でも、やがて危険地帯になるかもしれない。
アイシャやスノウと同じように、離れないで一緒にいた方がいいだろう。
「じゃあ、お願いします。でも、絶対に無理はしないでください。危ない時はすぐに逃げて。アイシャも、いいね?」
今の僕は、奴隷だった頃の僕じゃない。
それなりの力をつけて……
そして、守るものもできた。
しっかりとやっていかないと。
念の為、さらに森の奥へ移動して安全を確保したところで、ライラさんがぺこりと頭を下げた。
「リコリス、お願い」
「ほいほーい」
リコリスがふわりと舞い上がり、ライラさんの周りを飛ぶ。
その際、リコリスの羽から鱗粉のようなものが舞う。
ホタルを連想するような光が輝いていた。
「うん、目で見えない怪我とかもなさそうね。このスーパーリコリスちゃんアイで確認したから、確かよ」
「今の光は……?」
「妖精の祝福というか、まあ、そんな感じ。疲労回復とか、心を落ち着ける効果があるのよ」
「え、そんなことできたの?」
「万能無敵妖精リコリスちゃんだもの!」
ドヤ顔を見せるリコリス。
でも、そんなことができるのなら、もっと前からしてほしかった。
ドクトルと戦った時とか。
ついついジト目になってしまうと、リコリスは慌てたように言う。
「い、いつでもできるわけじゃないのよ? しっかりとした軌道で飛ばないといけないから、戦闘中なんて無理だもの」
「そういうことにしておくね」
「そういうこと!? どういうこと!?」
リコリスのことは置いておくとして……
「ライラさんは、しばらくここに隠れていてください。街は危ないので」
「私、自分の家のことしか知らないんだけど……え、まさか、街全体があんな感じになっているの?」
「……はい」
「マジかー」
天を仰ぐようにして、ライラさんは力なく言う。
研究一筋で、他のことはわりと気にしない人だけど……
さすがに、この事態は堪えているのだろう。
「研究のための資料、消失してないといいんだけど……」
訂正。
やっぱり、いつでもどんな時でも、ライラさんはライラさんだった。
ある意味で、とてもたくましい人だ。
その心の在り方が、少しうらやましい。
「君、どうするつもり?」
「街に戻ります。今は、一人でも多く暴漢を制圧しないと」
まとめて一網打尽、っていうのができれば一番だけど、それは難しい。
一人ずつ確実に制圧していくしかない。
「んー……」
「どうしたんですか、難しい顔をして」
「いやね。こんなことを引き起こしたヤツがいるんでしょ? そいつは、なにを目的としているのかな、って」
「……目的……」
「ただの愉快犯で、こんなことはしないと思うのよね。その……黎明の同盟だっけ? 魔剣が原因になっているっていうことは、そいつらの仕業でしょ? でも、話を聞いた限りだと、遊びで街を混乱させることはしないと思う。なにか、本当の狙いが別にあるはずよ」
「そう言われてみると……」
ライラさんの言う通りだ。
黎明の同盟が……レナが、意味もなくこんなことをするわけがない。
適当に見えるところもあるけど、でも、とても計算高い子でもある。
街を混乱させるのは、準備段階。
その奥に本当の目的が隠されているに違いない。
とはいえ、その目的は見当もつかないんだけど。
「暴漢の制圧も大事だけど、敵の目的を突き止めることも大事じゃないかな? 下手したら手遅れ、なんてこともありえるわよ」
「それは……」
「まあ、なにもできない私が偉そうなこと言えないんだけどね、あはは」
場の空気を軽くするためなのか、ライラさんが笑ってみせた。
でも、ライラさんの言う通りだ。
レナの目的をきちんと見抜かないと、手遅れになる可能性もある。
まずは暴漢を倒して、混乱を回復させることを優先するか?
それとも、ソフィアに協力して元凶を叩くことを優先するか?
「……僕は、僕にできることをやるよ」
迷いがないとは言えない。
今の話を聞いて、少し心が揺らいだ。
でも結局のところ、他にできることはない。
それに……
目の前で困っている人がいたら、見捨てるようなことはしたくない。
物事を広い目で見る必要はあると思うけど、でも、襲われている人のことを大事の前の小事と切り捨てたくなんてない。
それが僕の答えだ。
「うん、それでいいんじゃないかな」
ライラさんは、僕を応援するかのように、にっこりと笑った。
「自分で言っておいてなんだけど、君は、そういう方が似合っているよ。とても君らしいと思う」
「ありがとうございます」
「私が背中を押したようなものだから、私も協力しないとだね」
「え? でも……」
「大丈夫。さっきはいきなりのことで、あと逃げ場がなかったから動転していたけど……こう見えて、いくらかの魔法は習得しているよ? サポートくらいなら問題ないさ」
僕と一緒に来る、ということだよね?
でも、それは……
「あと、ぶっちゃけ、一人にされる方が怖いかも。あはは……」
「そういうことなら」
こんな状況だ。
今は森が安全でも、やがて危険地帯になるかもしれない。
アイシャやスノウと同じように、離れないで一緒にいた方がいいだろう。
「じゃあ、お願いします。でも、絶対に無理はしないでください。危ない時はすぐに逃げて。アイシャも、いいね?」
今の僕は、奴隷だった頃の僕じゃない。
それなりの力をつけて……
そして、守るものもできた。
しっかりとやっていかないと。