最初は、街の一角で暴動が起きていた。

 でも、それはどんどん広がっていって……
 今は街全体から悲鳴や怒号が聞こえてくる。

 騎士や冒険者も総動員されているみたいだけど、鎮圧には至っていない。
 むしろ拡大の傾向にあった。

「こんなの、どうすれば……って、弱気になったらダメだ!」

 暴漢を一人一人倒していてもキリがない。
 かといって、全員をまとめて倒す方法なんてない。

 ソフィアなら、あるいはやってのけそうだけど……
 でも、今はレナと戦っているだろう。

 他にレナを抑えることができる人はいない。
 レナのことはソフィアに任せて、僕は僕で、できることをやらないと。

「フェイト、どうするのよ?」
「……おとーさん……」
「今は、とにかく数を減らしていこう」

 暴漢の数は圧倒的で、冒険者や騎士も押されていた。

 でも、敵の数は有限だ。
 魔剣は無限にあるわけじゃない。

 地道な作業になるけど、一人一人、確実に打ち倒していくことが大事だ。
 そうすれば、必ず出口にたどり着くことができる。
 焦ることなく、堅実に前に進むことが大事なんだ。

 そんな結論を二人に話した。

「地味ねー。アイドル妖精のリコリスちゃんからしたら、ばばーっと、一気に倒してしまいたいわね」
「それができれば一番なんだけど、どうしようもないからね」
「敵を一箇所にまとめて、アイシャの魔法で無力化する、っていうのは?」

 アイシャの魔法というのは、光を放つライトのことだろう。
 まともに直視すれば、一時的に視力を奪われてしまう。

 良いアイディアかもしれないけど……

「……ううん、それはまずいかな」
「なんでよ?」
「アイシャを前に出すわけにはいかないよ、いくらなんでも危ない。それに、一箇所に集めるにしても、どうやって? 囮になるとしても、すごく危険だから」
「それは……」
「一気にまとめて、っていう気持ちはわかるけど、欲張らない方がいいと思う。焦らないで、堅実にいくべきだよ」
「フェイトらしい意見ね……ま、そこがフェイトの良いところね」

 リコリスは賛成してくれたらしく、にっかりと笑う。

「じゃあ、この無敵合体妖精リコリスちゃんも協力しようかしら!」

 合体って、なんのこと……?

「ふふん、このリコリスちゃんにかかれば、暴漢の一人や二人、ちょちょいと……」
「うがぁああああ、死ねぇえええええっ!!!」
「ぴゃあああああ!?」
「このっ!」

 突然、暴漢が現れて……
 リコリスが涙目になって悲鳴をあげて……

 刃が届く前に、なんとか割り込むことに成功して、暴漢を叩き伏せた。

「リコリス……だいじょうぶ?」
「あ、ありがと、アイシャ……やっばい、今、ちょービビったわ」
「オフゥ……」

 スノウが、残念なものを見るような目をリコリスに向けていた。

「……あっ」

 ふと、なにか思い出した様子でアイシャがつぶやいた。

「ねえ、おとーさん」
「うん、どうしたの?」
「あのね……ライラさんは、だいじょうぶかな?」
「……あっ」

 しまった!?
 街のことばかり考えていて、ライラさんのことを忘れていた!

 ライラさんの家は、街の外れにある丘の上。
 うまくいけば騒動に巻き込まれていないかもしれないけど……
 でも、それは楽観論というヤツだ。

 本当に大丈夫かどうか、この目で確認しておいた方がいい。

「ライラさんのところへ行こう!」
「オッケー! このスピードスター妖精リコリスちゃんについてきなさい!」



――――――――――



 ……一方、その頃。

「ひぃいいいいいっ!?」

 ライラ・イーグレットは、涙目になって悲鳴をあげていた。

 ドンドンドン! と家の扉が乱暴に叩かれている。
 扉の前に棚を倒してバリケードを築いたものの、まとめて壊されてしまいそうな勢いだ。

「出てこい出てこい出てこいよおおおおおぉっ!!!」
「女だっ、女をよこせぇ!!!」
「うがあああああぁっ!!!」

 扉を叩く音に混じり、怒号が聞こえてきた。
 どれもこれも獣のようで、人の理性というものがまるで感じられない。
 心が狂気と憎悪に塗り固められていた。

「な、なによこれ!? いったいなにが起きているのよ!?」

 昼前から街の方が騒がしくなり……
 気がつけば、この有様だ。

 逃げようとしても、すでに手遅れ。
 家の周りは複数の暴漢達に包囲されていた。

 なんとかバリケードを築いて、侵入を阻止したものの、それも時間の問題。
 いずれ破られてしまうだろう。

 そうなれば……

「いやいやいや! そんなの嫌だから!? 絶対に嫌だから!!!」

 ライラは研究一筋の学者バカではあるが、それでも女性だ。
 暴漢達の慰み者になるなんて、断固拒否。

 しかし……

 現状、どうすることもできない。
 迎え撃つことも追い払うこともできず、家に立てこもるだけ。
 それも、あと少しで突破されてしまいそう。

「くうううっ……こんなことになるなら、あの獣人ちゃん、徹底的に調査、研究をしておくべきだった!」

 ……意外と余裕のある発言をするライラだった。