あちらこちらから悲鳴や怒声が聞こえてきた。
 それと一緒に、人が暴れるような乱暴な音。
 爆発音なんかも響いてくる。

 このブルーアイランドでなにが起きているのか?
 わからない。
 なにもわからないけど……

 このまま放置することはできない。

 どうすれば、この状況を止めることができる?
 いったい、どうすれば……

「……そういえば」

 ふと、思いついたことがあった。

「フェイト、なにか?」
「暴れていた人達が持っていたの、魔剣……だよね?」
「そうですね。断定はできませんが、似ていたと思います」
「魔剣のせいで人がおかしくなるのは、リーフランドの事件で証明されているわけで……それと、レナがいた」
「……もしかして」
「たぶん、レナの仕業だと思う」

 気づくのが遅いと、自分で自分に呆れてしまう。
 もっと早く、この答えにたどり着くべきだった。

 いや。

 それよりも前に……
 冒険者ギルドや騎士団などにレナのことを訴えて、彼女を探してもらうべきだった。
 可能なら捕まえてもらうべきだった。

 そうしなかったせいで、こんなことに……

「フェイト、悔やむのは後にしましょう。今は、やれることをやらないと」
「……うん、そうだね」

 反省は後回しだ。
 目の前の状況に対処しないと。

「二手に別れましょう。私はレナを探したいと思います」
「それなら僕も……」
「いえ。フェイトは、さきほどと同じように、街で暴れている人達の対処をしてください。魔剣を持つ人は強く、並の冒険者では相手になりません」
「それじゃあ、僕でも……」
「大丈夫です。フェイトは強いですよ」

 僕を勇気づけてくれるかのように、ソフィアが微笑む。

 その笑顔は優しくて、温かくて……
 心が奮い立つ。

「うん、了解。少しでも被害を減らせるように、がんばってみるよ」
「お願いします。私は、どうにかしてレナを見つけ出して、この騒動を収める方法がないか聞き出してみようと思います」

 そう言うソフィアは怖い顔をしていた。

 聞き出す、と言っていたけれど……
 強引に、とか力づくでも、とか、そんな言葉がつくんだろうな。

 それを止めるつもりはない。
 レナは、どことなく憎めない子だけど……
 こんな状況を引き起こしたのなら、なにをしても止めなければいけないから。

「リコリスはフェイトのサポートをしてくれませんか?」
「えっ」

 とても嫌そうな顔に。

「あたし、宿に引きこもりたいんだけど。危険危険、って本能が訴えてくるんだけど……」
「大丈夫です。リコリスのことは、フェイトが守ります。あと、あとでおいしいクッキーをあげます」
「いいわ!」

 あっさり前言撤回して、一緒に行くことを決めたリコリス。
 それでいいのかな? と思うけど……
 まあ、リコリスだからいいか。

「アイシャちゃんとスノウも、フェイトと一緒にいてくださいね」

 街の惨状を見ると、屋内にいても安全とは言い切れない。
 魔剣を手にした暴漢が強引に扉を開けて、侵入してくるかもしれないからだ。

 それなら一緒にいた方がいい。
 目の届く範囲にいれば、きちんと守ることができる。

「アイシャ、怖い?」
「ううん。おとーさんが一緒なら、大丈夫」
「安心してね。あと、スノウをしっかりと抱えていてね」
「うん!」

 アイシャはスノウを両手で抱えて、しっかりと頷いてみせた。

 こんな状況だ。
 本当は怖くて、泣きたいはずなのに……
 でも我慢して、気丈な姿を見せてくれている。

 僕にはもったいないくらい、よくできた娘だ。
 でも、そういう考えはなしにしないと。
 アイシャに似合う父親になれるよう、がんばろう。

「では、私はそろそろ行きます」
「おかーさん」
「はい、なんですか?」
「気をつけてね」

 娘の健気な台詞に、ソフィアはデレデレっとした顔に。
 それから、おいでおいでをして、アイシャを抱きしめた。

「大丈夫ですよ、アイシャちゃん。あなたのお母さんは、世界で一番強いんですからね」
「おー」
「だから、安心してくださいね」
「うん」

 世界で一番というのは、あながちウソとも言えないところがソフィアのすごいところだ。
 アイシャも安心したらしく、落ち着きなく揺れていた尻尾が止まる。

「フェイトも気をつけてくださいね」
「うん、大丈夫だよ」
「では、また後で」

 ソフィアは剣の柄を掴みつつ、大きく跳躍して、建物の向こうに消えた。