「おー、すごいすごい。ばちぼこに荒れてるねえ」
ブルーアイランドの中央にある教会。
そのてっぺんにレナの姿があった。
屋根の頂点に器用に座り、街全体を眺めている。
その街は、あちらこちらから悲鳴があがっていた。
よく見てみると、街を守護するべきはずの騎士が暴れていた。
いずれも目を血走らせて、正気を失い、目につくもの全てに攻撃を繰り返している。
彼らを凶行に駆り立てている原因は、魔剣だ。
それなりの力は秘めているが、一週間ほどで精神に異常をきたしてしまうという、劣化コピー品だ。
その魔剣を、レナはあちらこちらでばらまいた。
騎士団に売り込み。
冒険者に売り込み。
自衛のためと、民間人にも売り込んだ。
結果、ブルーアイランドの多くの人が魔剣を手にすることとなり……
次から次に心が壊れて、暴走を始めることに。
秩序を守るべき立場のはずの騎士が人々を襲う。
親が子を襲う。
縁もゆかりもない相手を、親の仇のように襲う。
ブルーアイランドは煉獄のようになっていた。
「うんうん、思っていた以上の成果かな?」
恐ろしい光景を目の当たりにして、しかし、レナは満足そうだった。
それもそのはずだ。
この光景ができるように仕組み、暗躍してきたのは、他ならぬレナなのだから。
「いやー、がんばった、私! ブルーアイランドの秩序を崩壊させるために、こそこそと、毎日魔剣を配り歩いていたからね。あれは地味でつまらないから、本当に大変だったよ。でも、おかげで成功かな?」
煉獄のような光景を見て、レナはにっこりと笑う。
満足だというように、にっこりと笑う。
その笑みは、天使のように綺麗なものではあるが……
奥に隠されている感情は、黒く、暗い炎だった。
「……順調そうだな」
「あ、リケン。やっほー」
振り返ると、同志である初老の男……リケンの姿があった。
音もなく現れたのだけど、レナは気にしない。
驚くこともない。
彼なら、それくらいやってのけて当たり前なのだ。
「少し心配していたが、うまくやっているではないか」
「まーねー。っていうか、心配するとかひどくない? ボクは、やる時はしっかりとやるんだよ?」
「それはわかっているが、お前は、時に遊びが交じるからな。リーフランドの時もそうだっただろう?」
「フェイトのことなら、遊びじゃなくて本気だし」
「やれやれ」
リケンは呆れつつ、しかし、話題を変えることにした。
本来なら、フェイトのことについてあれこれと正したい。
妙な感情を寄せることなく、斬り捨ててしまえと言いたい。
しかし、それなりの付き合いがあるため、レナが本気ということがわかる。
そんな彼女につまらないことを言えば、逆にリケンの方が斬られてしまうだろう。
「うまくいっているようだが、計画は最終段階か?」
「そだね。見ての通り、ブルーアイランドの秩序は崩壊した。負の感情が溜まって溜まって溜まって……うん、けっこう大変なことになっているね」
荒れ狂う街を見て、レナはにっこりと笑う。
「この状態なら、封印を壊すことができるかな?」
「街の秩序を崩壊させて、負の念を集め、それを武器として封印を砕く……ふむ。始めに聞いた時は、博打要素の強い作戦と思ったが、なかなかどうして。うまくいっているようで、驚きだ」
「えっへっへー。言ったでしょ、ボクはやる時はやるんだよ?」
レナは胸を張って、自慢そうに微笑む。
街一つを混乱に陥れて。
負傷者が多数出ている状況で。
それを見て、なお、笑みを浮かべ誇らしげにする。
レナは、そんなことができる少女だった。
「さてと……そろそろ、締めに入ろうかな?」
「どこへ行く?」
「締めだよ、締め。このまま放っておいても、たぶん、封印は崩壊すると思うけど……でもボク、待つのは苦手なんだよね」
「封印を破壊するのか?」
「そういうこと。今の状態なら、手出しできると思うからね。確か……四つの教会に、それぞれ封印が分散されているんだよね?」
「そうだな」
「あー、四つかあ。面倒だなあ。ボク、強いけど、さすがに体は一つしかないからなー。あー、面倒だなあ」
「……はぁ」
やれやれ、とリケンはため息をこぼした。
「儂も手伝おう」
「ホント!? マジで?」
「それを期待していたくせに、白々しい」
「えへへー、ごめんごめん。でも、手伝ってくれるのはうれしいよ。さっきも言ったけど、ボクの体は一つだけだからね。四箇所も回るのは面倒だし、途中で対策されるかもしれないからねー」
「対策はないだろう。この街の者は……人間は愚かだ。過去のことなんて覚えていない。教会の封印のことなんて、知っている者はおらぬさ」
「だといいんだけどねー」
レナは街を見下ろした。
そして、ニヤリと笑う。
「でも、敵はいるよ」
「どういうことだ?」
「剣聖がいるから、たぶん、邪魔してくるだろうね」
「……そういう大事なことは早く言え」
「サプライズ?」
「いらんサプライズだな」
はぁ、とリケンのため息が再びこぼれた。
ブルーアイランドの中央にある教会。
そのてっぺんにレナの姿があった。
屋根の頂点に器用に座り、街全体を眺めている。
その街は、あちらこちらから悲鳴があがっていた。
よく見てみると、街を守護するべきはずの騎士が暴れていた。
いずれも目を血走らせて、正気を失い、目につくもの全てに攻撃を繰り返している。
彼らを凶行に駆り立てている原因は、魔剣だ。
それなりの力は秘めているが、一週間ほどで精神に異常をきたしてしまうという、劣化コピー品だ。
その魔剣を、レナはあちらこちらでばらまいた。
騎士団に売り込み。
冒険者に売り込み。
自衛のためと、民間人にも売り込んだ。
結果、ブルーアイランドの多くの人が魔剣を手にすることとなり……
次から次に心が壊れて、暴走を始めることに。
秩序を守るべき立場のはずの騎士が人々を襲う。
親が子を襲う。
縁もゆかりもない相手を、親の仇のように襲う。
ブルーアイランドは煉獄のようになっていた。
「うんうん、思っていた以上の成果かな?」
恐ろしい光景を目の当たりにして、しかし、レナは満足そうだった。
それもそのはずだ。
この光景ができるように仕組み、暗躍してきたのは、他ならぬレナなのだから。
「いやー、がんばった、私! ブルーアイランドの秩序を崩壊させるために、こそこそと、毎日魔剣を配り歩いていたからね。あれは地味でつまらないから、本当に大変だったよ。でも、おかげで成功かな?」
煉獄のような光景を見て、レナはにっこりと笑う。
満足だというように、にっこりと笑う。
その笑みは、天使のように綺麗なものではあるが……
奥に隠されている感情は、黒く、暗い炎だった。
「……順調そうだな」
「あ、リケン。やっほー」
振り返ると、同志である初老の男……リケンの姿があった。
音もなく現れたのだけど、レナは気にしない。
驚くこともない。
彼なら、それくらいやってのけて当たり前なのだ。
「少し心配していたが、うまくやっているではないか」
「まーねー。っていうか、心配するとかひどくない? ボクは、やる時はしっかりとやるんだよ?」
「それはわかっているが、お前は、時に遊びが交じるからな。リーフランドの時もそうだっただろう?」
「フェイトのことなら、遊びじゃなくて本気だし」
「やれやれ」
リケンは呆れつつ、しかし、話題を変えることにした。
本来なら、フェイトのことについてあれこれと正したい。
妙な感情を寄せることなく、斬り捨ててしまえと言いたい。
しかし、それなりの付き合いがあるため、レナが本気ということがわかる。
そんな彼女につまらないことを言えば、逆にリケンの方が斬られてしまうだろう。
「うまくいっているようだが、計画は最終段階か?」
「そだね。見ての通り、ブルーアイランドの秩序は崩壊した。負の感情が溜まって溜まって溜まって……うん、けっこう大変なことになっているね」
荒れ狂う街を見て、レナはにっこりと笑う。
「この状態なら、封印を壊すことができるかな?」
「街の秩序を崩壊させて、負の念を集め、それを武器として封印を砕く……ふむ。始めに聞いた時は、博打要素の強い作戦と思ったが、なかなかどうして。うまくいっているようで、驚きだ」
「えっへっへー。言ったでしょ、ボクはやる時はやるんだよ?」
レナは胸を張って、自慢そうに微笑む。
街一つを混乱に陥れて。
負傷者が多数出ている状況で。
それを見て、なお、笑みを浮かべ誇らしげにする。
レナは、そんなことができる少女だった。
「さてと……そろそろ、締めに入ろうかな?」
「どこへ行く?」
「締めだよ、締め。このまま放っておいても、たぶん、封印は崩壊すると思うけど……でもボク、待つのは苦手なんだよね」
「封印を破壊するのか?」
「そういうこと。今の状態なら、手出しできると思うからね。確か……四つの教会に、それぞれ封印が分散されているんだよね?」
「そうだな」
「あー、四つかあ。面倒だなあ。ボク、強いけど、さすがに体は一つしかないからなー。あー、面倒だなあ」
「……はぁ」
やれやれ、とリケンはため息をこぼした。
「儂も手伝おう」
「ホント!? マジで?」
「それを期待していたくせに、白々しい」
「えへへー、ごめんごめん。でも、手伝ってくれるのはうれしいよ。さっきも言ったけど、ボクの体は一つだけだからね。四箇所も回るのは面倒だし、途中で対策されるかもしれないからねー」
「対策はないだろう。この街の者は……人間は愚かだ。過去のことなんて覚えていない。教会の封印のことなんて、知っている者はおらぬさ」
「だといいんだけどねー」
レナは街を見下ろした。
そして、ニヤリと笑う。
「でも、敵はいるよ」
「どういうことだ?」
「剣聖がいるから、たぶん、邪魔してくるだろうね」
「……そういう大事なことは早く言え」
「サプライズ?」
「いらんサプライズだな」
はぁ、とリケンのため息が再びこぼれた。