18話 初めての依頼

「そのようなわけで、初めての依頼ですよ」

 無事に冒険者登録が終わり、意外な事実が判明しつつも、僕は冒険者になることができた。
 その後、デートをするという寄り道をしたものの……
 翌日、さっそく依頼を請けてみることに。

 ただ、僕は右も左もなにもわからない、冒険者初心者。
 シグルド達と一緒にいたため、そこそこの知識はあるのだけど、冒険者の在り方やうまく活動する方法などはさっぱりわらかない。
 なので、最初の依頼はソフィアに任せることにした。

「えっと……東の平原のスライム退治?」
「はい。東の平原で、スライムが大量発生しているみたいです。その数は、百を超えるとか」
「それはまた……すごいね」

 最低ランクのスライムといえど、それだけの数になればかなりの脅威だ。
 囲まれて一気に襲われたらたまらないだろうし、なかなか大変な依頼かも。

「その依頼の難易度は?」
「Eですね」
「それでEなんだ……」
「厄介ではありますが、ただ倒すだけですからね。罠をしかけたり大規模魔法で薙ぎ払うなり、簡単に終わらせる方法はいくつもありますよ」
「なるほど」
「動く的としてはちょうどいいですし、この依頼にしました。良い稽古になると思います。この依頼で、ひとまずの冒険者感覚を身につけてもらえれば、と。安心してください。いざという時は私がなんとかするので、フェイトは思うがまま戦ってください」
「うん、頼りにしているよ」
「たぶん、私の出番は必要ないと思いますけどね」
「そうかな? そんなことはないと思うよ」
「どうでしょうか。とりあえず、行きましょうか」
「了解」

 最初の依頼ということで、僕はうきうき気分で東の平原に向かった。



――――――――――



「ピキー!」

 大量のスライムが、まとめて飛びかかってきた。
 一匹一匹、対処している時間はない。
 なので、まとめて斬る。

「はっ!」

 右から左に剣を払い……
 間髪いれず、左から右へ戻す。
 さらに斜め下に振り下ろして、そこから、縦に跳ね上げる。

 とびかかってきたスライムの群れは、それぞれ体を両断されて、ただの液体と化した。

「ふう、うまくいってよかった」
「……」
「どうしたの、ソフィア? ぼーっとして」
「いえ、なんといいますか……今の、一秒以内に行われた、瞬間的な四連撃はなんですか?」
「さっき、ソフィアがやっていたから、それを見て僕もできないかなー、って。うまくいってよかったよ。これ、簡単な技なんだよね?」
「そんなわけありませんからね!?」
「うわっ」

 いきなりソフィアが大きな声を出す。

「瞬間的に四連撃を繰り出すなんて、剣の初心者にできることではありません。絶対に無理です! 私だって、習得するのに数ヶ月はかかったというのに……それなのにフェイトときたら、一度見ただけで覚えてしまうなんて……いったい、どういう才能を持っているのですか? デタラメです」
「えっと……ごめん?」

 悪いことはしていないはずなのだけど、なんだか申しわけない気分に。

「すみません、取り乱しました」
「気にしないで」
「フェイトなのですから、これくらいは当たり前なのかもしれませんね。常識という固定観念を捨てて、フェイトの規格外の新しい常識を受け入れないと」
「そんな風に納得されるのは、ちょっと」
「ひとまず、依頼の方は……」

 ソフィアの背後からスライムが飛びかかるものの、

「これで終わりですね」

 彼女は振り返ることもなく、剣を一閃させた……と思う。
 剣筋がまったく見えないので、断言できないのだ。

 スライムは、一拍遅れて真っ二つになり、そのまま絶命する。

「すごいなあ。やっぱり、ソフィアは強いね。さすが剣聖」
「それ、フェイトが言うと、ちょっとした嫌味に聞こえてしまうのですが」
「え、なんで?」
「いまいち自分のことを理解していないところが、フェイトの難点ですね……やれやれ」
「?」

 なぜか、今度は呆れられてしまう。
 なぜだ?
 なにもしていないはずなのに……

「あとは、スライムの死体を焼けば完了だね」

 スライムを素材として欲しいという人はいるけれど、こんなに大量のスライムを持ち帰ることはできない。
 大半はここに残していくことになるけど……
 そのままにしたら、他の魔物を呼び寄せてしまうことになるし、大地も腐らせてしまう。

 なので、基本的に魔物の死体は、素材を剥ぎ取り、いらない分は焼くのだ。

「スライムの死体を適当に集めて、焼いて……完了!」

 これで依頼達成だ。

「……」
「どうしたのですか、フェイト?」
「あ、うん……なんていうか、ちょっと感動してた」
「感動? どうしてですか?」
「元奴隷の僕が、ソフィアのおかげで、ちゃんと冒険者をやれているんだなあ……って」
「……フェイト……」
「今までの生活が全部ひっくり返ったような、好転したような……なんか、人生まるごと変わったような感じで、なにもかも新鮮なんだ。今、すごく楽しいよ」
「ふふっ、まだまだですよ」
「え?」

 ソフィアは優しく微笑み、僕の手を取る。
 彼女の手はとても温かい。
 その熱が心に染み渡るみたいで、胸がぽかぽかする。

「これから先、もっともっと胸が踊るような出来事がたくさん待っていますからね」
「これ以上に?」
「これ以上に、です」

 まるで想像できない。
 でも、とてもわくわくした。

 ソフィアと一緒なら、どこまでも飛んでいくことができそうだ。

「私も一緒なんですか?」
「ダメかな……?」
「いいえ」

 ソフィアは、太陽のような極上の笑顔をみせてくれる。

「いつまでも、どこまでも、ご一緒しますよ」
「ありがとう、ソフィア」
「ふふっ」

 よし。
 気分は絶好調。
 このまま、もう一つくらい依頼を……

「た、助けてくれぇっ!」

 突然、悲鳴が割り込んできた。