陽の光が届かないような裏路地に、複数の人影があった。

 その中の一人……商人風の男は、顔全体を蒼白にしていた。
 武装した見知らぬ男達に囲まれて、恐怖に体を震わせている。

「ぎゃあっ!?」

 商人風の男はいきなり斬りつけられて、悲鳴をあげた。
 血が流れる腕をおさえつつ、その場にうずくまってしまう。

「はははっ、いい気味だ!」
「あくどいことをしてるから、こうして天罰がくだったんだよ」
「もっと泣いてみせろ、命乞いをしてみせろ!」

 暴漢達は、大きな声で笑う。
 人を傷つけることをなんとも思っていない様子で、むしろ、楽しんでいる雰囲気すらあった。

 そんな暴漢達の異様な様子に、商人風の男はさらなる恐怖を覚えた。

「だ、誰かっ……!」

 助けを呼ぶものの、それに応える者はいない。
 商人風の男は絶望的な表情になり、涙を浮かべる。

 そんな彼を笑いつつ、暴漢達はゆっくりと距離を詰めて……
 そして、剣を振り上げた。

 その剣の刀身は漆黒で、柄に紅の宝石が埋め込まれていた。



――――――――――



 宿に戻りごはんを食べる。
 それから部屋で今後について話し合う。

「これからどうしようか?」
「そうですね……またライラさんの話を聞いてみたいですね。少し時間を置けば、新しい情報が出てくるかもしれません」
「うん、それは賛成」

 獣人についての知識は少し得られたものの……
 どうしてアイシャが狙われているのか、そこについては、まだ確信が得られていない。

 もっともっと情報収集をしておきたい。

「それと、できればライラさん以外の情報源を確保しておきたいですね」
「でも、ライラさん以上に、獣人に詳しい人はいるかな?」
「逆ですよ、フェイト」
「え?」
「確かに、ライラさんは獣人に詳しいです。ですが、詳しくない人からの話も聞いてみたいのです。専門家は、専門家であるために単純なことを見落としてしまうことがあります。素人は、素人であるために意外な発見をすることがあります」
「なるほど」

 思いもよらない発見があるかもしれない。
 だから、ライラさんにこだわらず、幅広く情報を集めていこう、っていうことだね。

「それじゃあ、ここの冒険者ギルドに行ってみるのはどうかな? やっぱり、情報収集といえば冒険者ギルドだと思うんだ」
「はい、とても良いアイディアだと思います。さすが、フェイトです」
「ううん、ソフィアのおかげだよ。僕は、普通の人から情報を集めるなんていう発想、なかったから」
「いいえ、私のおかげなんてことはありません。フェイトは柔軟な発想を持っていますからね」
「いやいや、ソフィアが……」
「いえいえ、フェイトが……」
「そういや、あんたら親ばかだけじゃなくて、バカップルでもあったわね」
「「……」」

 リコリスの呆れるような視線を受けて、僕達は顔を赤くしてしまうのだった。

 ソフィアと仲が良い、って言われるのはうれしいんだけど……
 でもまだ慣れなくて、ちょっと照れてしまう。

「こほん……では明日は」

 気を取り直して、明日の予定についてソフィアと話し合う。

 結果、二手に分かれることに。
 ソフィアとアイシャは、再びライラさんのところへ。
 僕とリコリスは冒険者ギルドを尋ねることになった。

 細かいスケジュールについては、明日で。
 ぶっつけ本番。
 臨機応変に対応していこう。

「ところで……」

 子犬と遊ぶアイシャを見る。

「アイシャ、どうかしたの?」

 さっきまで楽しそうに遊んでいたのだけど、今は難しい顔をしていた。

「この子の名前、考えているの」
「あ、そっか。飼うなら名前をつけないとダメだよね」
「もしかして、名前が思い浮かばないのですか?」
「うん……どうしたらいいのかな?」
「なら、みんなで考えましょうか」

 ソフィアが笑顔で言うと、その笑顔がうつったかのようにアイシャもにっこり顔に。

「ここは、センスあふれてあふれまくり、オーラを隠しきれないリコリスちゃんの出番ね! そうね……ワンダフル、なんてどうかしら? 犬だけに」
「「「……」」」
「え、なによ、その沈黙は?」
「フェイトはどうですか?」

 「無視しないでよ!」とリコリスが叫ぶものの、気にせずに考える。

「うーん……あ、待って。その前に、この子はオスなのかな? それともメス?」
「メスみたいですね」
「そっか。なら、えっと……スノウ、なんてどうかな?」
「雪……ですか?」
「うん。この銀色の毛が綺麗で、朝日で輝いている雪にそっくりかな、って思ったんだけど……アイシャ、どうかな?」
「……スノウ……」

 アイシャは小さくつぶやいて繰り返した。
 ややあって、子犬の毛並みと同じように、瞳をキラキラと輝かせる。

「うん! スノウ、すごくいい!」
「よかった、喜んでくれて」
「今日からキミはスノウだよ?」
「オンッ!」

 子犬……スノウも喜んでいるみたいで、うれしそうに大きく鳴いた。