「僕のせいだ……もっと、ちゃんとしっかり見ておけば……」
「いいえ、私のせいです……少しくらいならと、アイシャちゃんを視界から外してしまうなんて……」

 アイシャが迷子になったことで、僕達は顔を青くして慌てていた。
 もしもアイシャになにかあったら?
 誘拐でもされていたら?

 どうしよう? どうしよう? どうしよう?

「落ち着きなさい!」
「「っ!?」」

 慌てる僕達をリコリスが一喝した。

「あんた達がそんなんでどうするのよ? もっとしっかりとしなさい、シャキっとしなさい!」
「……そ、そうだよね」
「……恥ずかしいです」

 リコリスのおかげで冷静になることができた。
 感謝だ。

「フェイト、憲兵隊のところへ顔を出してくれませんか? もしかしたら、アイシャが保護されているかもしれません」
「うん、了解」
「リコリスは空から探してくれませんか? 見つけられるかどうか、難しいところですが……それでも、やれるべきことはやっておきたいのです」
「ふふん、この飛行マジカルフェアリーリコリスちゃんに任せなさい!」

 『飛行』ってつける意味、あったのかな……?

「ソフィアはどうするの?」
「地道な方法ですが、私は足を使い、アイシャちゃんを探します。私なら、一時間もあれば街全体を駆けることができると思うので」
「なるほど」

 デタラメな身体能力を持つソフィアだからこそできる探索方法だ。

 ただ、超高速で街中を駆けていたら、人々を驚かせてしまうかも……
 いや。
 でも、アイシャのため。
 悪いことをするわけじゃないから、我慢してもらおう。

「では、一時間後にまた合流して……」
「……さん……さん!」
「「えっ」」

 アイシャの声が聞こえたような気がした。
 慌てて周囲を見ると、

「……おとーさん、おかーさん!」
「アイシャ!」
「アイシャちゃん!」

 不安そうな顔をして、涙をポロポロと流していて……
 しかし、どこも怪我はなく無事な様子で、アイシャがこちらに駆けてくるのが見えた。

 僕とソフィアもほぼ同時に走り、アイシャを胸に抱く。

「よかった! 無事だったんだね、アイシャ」
「ああもう、どれだけ心配したか……!」
「あううう、おとーさん! おかーさん! リコリスぅ! うえええっ」

 よほど心細かったのだろう。
 僕達が抱きしめると、アイシャは大泣きしてしまう。

 でも、それは元気な証拠。
 よしよしと頭を撫でて、無事でいてくれたことを喜ぶ。

「うんうん、自力で帰ってくるなんてやるじゃない。あたし、見直しちゃったわ」

 ぱくり。

「ぱくり?」
「「えっ」」

 アイシャを落ち着かせて……
 妙な音に反応して振り返ると、子犬に噛まれ、すっぽりとその口に収まったリコリスの姿が!

 一拍遅れて自分が置かれている状況を理解したらしく、リコリスの顔がサァーっと青くなる。

「ぎゃあああああ!? た、食べられるうううううっ!!!?」
「リコリス!?」
「このっ、リコリスを離しなさい!」

 どこに携帯していたのか、ソフィアが剣を取り出すのだけど、

「ま、まって!」

 慌てた様子でアイシャが止めに入る。

「わたし、この子に助けてもらったの……」
「え? それは、どういうこと?」
「あのね」

 話によると、この子犬がここまでアイシャを連れてきてくれたらしい。
 恩人ならぬ恩犬だ。

「そっか……ありがとう」
「オンッ!」
「ぎゃー!? あたしを咥えたまま吠えないでー!?」
「えっと……その子は僕達の大事な仲間なんだ。食べ物じゃないから、離してくれないかな?」
「オフ」

 言われるまま、子犬は素直にリコリスを離した。
 賢い子だ。

「うえー……べとべとよぉ」
「よし、よし」

 すっかり落ち着きを取り戻したアイシャは、凹むリコリスを慰めていた。

「この子、犬ではありませんよね?」
「うん。逃げるけど、銀色の毛や宝石みたいな瞳を持つ犬なんて、知らないよ」
「狼でもありませんし……しかし、魔物というには、あまりにも邪気がなさすぎる……なんでしょう?」
「なんだろうね?」
「クゥーン」

 僕達の訝しげな視線を受けて、自分に害はないよ? というような感じで、子犬が小さく鳴いた。
 すごくかわいい。
 ソフィアなんて、どういう存在なのか考えるのをやめて、子犬の頭を撫でていた。

「うーん」

 ものすごく気になるんだけど……
 でも、悪い子ではなさそう。
 それがわかっているのなら、いいのかな?