「というわけで、ウルトラメガかわいいリコリスちゃんお魔法講義を始めるわ!」

 宿に戻り。
 すぐに勉強をしたいということで、リコリスによる魔法講義が始められた。

 学習用の机や椅子はないので、ベッドを代わりにして、僕、アイシャ、ソフィアの順番で座る。
 そして、リコリスはテーブルを壇上代わりにしていた。

「そもそも、魔法ってなにかしら? はい、フェイト!」
「え、僕が答えるの?」
「講義を受けている以上、あんたも生徒よ。ほら、早く答えなさい」
「えっと……」

 魔法というのは、世界を生み出したと言われている女神さまが生み出した技術だ。
 無から有を生み出して、奇跡を体現する秘術。

 ただ、なんでもできるというわけじゃなくて……
 できることとできないこと、限度はある。

 それと、魔法を使うには、魔力を糧としなければいけない。
 魔力というのは、人が持つ精神的なエネルギーのこと。
 個人によって差があり、大きな魔力を持つ人もいれば小さい魔力を持つ人もいる。

「……という感じかな?」

 おぼろげな知識を掘り返しつつ、そう答えた。

「まあまあの回答ね。八十点、褒めてあげるわ」
「ありがとう」
「ですが、フェイトは満点の回答をしていたように思えますが? 私が同じ質問をされたら、同じ答えを返していたと思います」
「んー、そうね。人間なら、魔法の知識はそれだけで止まっているわね」
「ということは、僕達の知らないなにかが?」
「女神さまが生み出した技術を、なぜ人間が手にしているのか? それについての説明がないじゃない」
「「あ」」

 言われてみると、なるほど、と納得してしまう。

 魔法についての情報は色々と持っているのだけど……
 よくよく考えてみると、リコリスが言う通り、なぜ魔法を人間が手にすることができたのか?
 そこは謎のままだ。

 アドバンテージをとることができたのがうれしいのか、リコリスはニヤニヤとしつつ魔法について語る。

「いい? 人間は女神さまの魔法を盗んだのよ」
「盗んだ……?」
「過去、女神さまは何度か地上に降臨したわ。そして、困っている人間達の力になった。その際、奇跡……魔法を使ってみせたわ」
「ふむふむ」
「女神さまの軌跡を目の当たりにした人間は、その力をうらやましく思ったわ。自分達もあの力がほしい、って」
「それで……盗んだ、と?」
「ソフィア、正解」

 さらりと、とんでもないことが暴露された。

 魔法について、深く考えることはなかったのだけど……
 まさか、女神さまの技術を盗んだものだったなんて。

「人間が起点となって、あちらこちらの種族に魔法が伝わっていったの。それから、独自の路線を辿り、人間だけの魔法が開発されたの」
「そんなことが……」
「女神さまは怒らなかったのですか?」
「めっちゃ怒ったわよ」

 リコリスが言うと、事の重大さを理解しづらいなあ。

「だから、女神さまは人間の前から姿を消したの。ここ数千年、女神さまが現れた、なんていう記録はないでしょ? それは、魔法を盗まれたことに怒っているからよ」
「そうだったんだ……」

 魔法は僕達人間の性格に深く関わっている。
 なくてはならないものだ。

 でも、本当は女神さまから盗んだもので……
 とても微妙な気持ちになってしまう。

「まあ、女神さまの器は大きいから。怒ってはいるけど、だからといって人間をどうこうしようなんて考えてないわ。そこは安心なさい」
「質問です」
「なに、ソフィア?」
「リコリスは、どうしてそのようなことを知っているのですか?」
「あ、それは僕も気になるかも」

 人間が知らないようなことを知っているリコリス。
 彼女が特別なのか、それとも妖精が特別なのか。

「んー。あたしが超天才っていうのもあるんだけど、あと、妖精ってのが関係してるのよ」
「妖精は特別な存在なの?」
「そうね。妖精は女神さまに愛されているの」

 リコリス曰く……

 女神さまは人間に愛想を尽かしたものの、他の種族に対しては優しく、愛を持っているらしい。
 その中で特に愛されているのが、妖精だ。

 人間と違い、無邪気で汚れを知らない。
 そして優秀で、いざという時はとても頼りになる。

 そんな妖精には女神さまは心を許していて、今も時々、交流があるらしい。
 だから、女神さまに関することをそれなりに知っている……とのことだった。

「知りませんでした……まさか、妖精が女神さまと交流を持っていたなんて」
「まー、あたしら妖精はすごいからねー。プリティだからねー」

 リコリスはものすごいドヤ顔だ。

「まあ、そのうち人間も許されるんじゃない? そのためにも、あたしら妖精を見習いなさい? おほほほっ」
「……フェイト。ちょっと、リコリスにデコピンをしてもいいですか?」
「……やめてあげて。どこかに飛んでいっちゃいそうだから」

 とにかくも。

 予備知識を得るための講義はこれで終わり。
 本格的な魔法の練習が始まるのだった。