「わたし、つよい?」

 アイシャは、どことなく誇らしげだった。
 現状を理解していないけれど、でも、すごいということは理解したらしい。

「そうですね。アイシャちゃんは強くて、そしてなによりもかわいいです」
「はぐ」

 ソフィアがアイシャを抱きしめた。
 えへん、と胸を張る娘がかわいくて仕方なかったのだろう。

「アイシャの魔力がとんでもないのは、もしかして獣人だから?」
「そう、ね……」

 ライラさんは歯切れ悪い反応だ。

 ややあって、頭を振る。

「ううん。いくら獣人でも、ここまでの魔力はないわ。あるわけがない」
「そうなんですか?」
「私は少し魔法を使えるからわかるんだけど、これ、本当に規格外なんだもの。獣人は強い魂を持つけど、でも、ここまでなんて……あ、いや? 一つ可能性があるか……」

 なにか思いついた様子で、ライラさんは指先で顎を撫でた。

「もしかしたら、この子は希少種なのかも」
「希少種?」
「獣人は珍しい種族なんだけど、その中でもさらに希少な獣人がいるの。人前に姿を見せることはほとんどない……というか、記録では数度しか目撃例がないわ」
「そんな獣人が……」
「見た目は普通の獣人と変わらないんだけど、その魂の質は桁違い。普通の獣人の数十倍の……ううん。数百倍の力を持っていると言われているわ」

 とんでもない話だった。
 まさか、アイシャにそんな秘密があったなんて……

 でも、納得はできる。
 それほどの力を持っているのなら、黎明の同盟から狙われても不思議じゃない。

 まあ、なにを目的としてアイシャの力を求めているのか?
 そこはわからないんだけどね。

「その希少種の名前は……神子、と呼ばれているわ」
「……神子……」

 女神さまの子供……?
 そんな意味にもとれるのだけど、でも、本当のところはわからない。

「まとめると、アイシャは貴重な子、っていうことでオーケー?」

 リコリスがそんなことを言う。
 身も蓋もない言い方だけど、でも、間違ってはいない。

「……」

 ふと、アイシャが暗い顔に。
 どうしたんだろう?

「どうしたんですか、アイシャちゃん」
「……おかーさん……」

 アイシャは迷うように口を開いたり閉じたりして……
 ややあって、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「わたし、怖い?」
「え?」
「わたし、変なじゅーじん、みたいだから……怖い?」

 どうも、自分が希少種ということを知り、不安になっているみたいだ。
 そのせいで、自分が嫌われるかもしれないと思いこんでいる。

 でも、それはありえないこと。

「そんなことありませんよ」
「ふぁ」

 ソフィアは女神さまのように優しい笑みを浮かべると、そっとアイシャを抱きしめた。
 そのまま、頭をなでなでする。

「アイシャちゃんが希少種というものだとしても、なにも関係ありません。アイシャちゃんは、私のかわいいかわいい娘ですよ」
「……おかーさん……」
「うん、ソフィアの言う通りだよ。僕は、アイシャのことが大好きだよ」
「……おとーさん……」

 アイシャは、ソフィアを抱き返してその胸に顔を埋めて……

「うー……」

 ちょっとだけ泣いた。

 そんな僕達のことを、ライラさんは温かい顔で見守っていた。



――――――――――



 またなにかわかったら連絡する。

 そんな言葉をもらい、僕達はライラさんの家を後にした。

「ん~♪」

 右手は僕、左手はソフィアと繋いで、真ん中にアイシャ。
 頭にリコリスを乗せて、アイシャとてもうれしそうに楽しそうに鼻歌を歌っていた。

 元気になって良かった。
 やっぱり、子供は笑顔が一番だよね。

「……フェイト」

 僕にだけ聞こえる声で、ソフィアが小さく言う。

「……アイシャちゃんのことですが」
「……うん。もっと、色々と調べてみないとね」

 アイシャが、希少種という獣人であるらしいことはわかった。
 でも、それだけ。
 なんで黎明の同盟から狙われていたのか、そこは不明だ。

 原因がハッキリしないと、今後の安全を確保することが難しい。
 僕達がなんとかしないといけない。

 ……ただ、がんばりたいと思っているのは僕達だけじゃなかった。

「おとーさん、おかーさん」
「はい、なんですか?」
「えっと……お願いがあるの」

 思わずソフィアと顔を見合わせてしまう。
 アイシャがおねだりをするなんて、初めてのような気がした。

 できるなら叶えてあげたいけど……
 いったい、どんなお願いなんだろう?

「わたし……魔法を覚えたい」