「どうでしょうか、フェイト?」
「うん、その調子だよ。さすがソフィアだね、もうほとんど泳げているよ」

 アイシャと一緒に泳ぐ練習をすること一時間ほど。
 ソフィアは、ほぼほぼ一人で泳げるようになっていた。

 今まで剣一筋で泳ぐ機会がなかっただけらしい。
 一度コツを掴めばあっという間だった。

「ふふ、泳ぐのは楽しいですね」
「現金ねー、少し前まではしゅんとしてたくせに」
「泳げるもの勝ちです!」
「あはは」

 元気になったみたいでなにより。

「おかーさん。一緒に泳ごう?」
「はい、泳ぎましょう」
「あたしが監督してあげるわ」

 女性陣はとても楽しそうだ。

 でも、ずっと練習をしていたから、そろそろ疲れてくるだろう。

「僕はなにか飲み物を買ってくるね。みんなはなにがいい?」
「ありがとうございます。私はアイスティーでお願いします」
「ジュースが……いいな」
「あたし、はちみつレモンジュース!」
「うん、了解」

 海から上がり、売店に向かう。

 僕はなににしようかな?
 甘いジュースでもいいんだけど、ソフィアと同じで、冷たい紅茶でスッキリしたい気持ちもある。

 どうしようかな? と考えつつ歩いていると、

「ね、いいじゃん。きっと楽しいからさ」
「そうそう、一人で遊ぶよりも俺らと一緒の方がいいよ?」
「だーかーらー、そういうのはいいんだって!」

 二人の男性がナンパをしている場面に遭遇した。
 男性の影に隠れているせいで女性の顔は見えないけど、声からしてとても迷惑そうにしているようだ。

 知らない人だけど……
 でも、こういうことは見過ごせない。

「ちょっといいですか?」
「あ?」
「その人は僕と一緒に……遊びに、来て……」
「あ! フェイトだ、やっほー♪」

 ナンパされていたのはレナだった。
 予想外すぎる展開に思考が停止してしまう。
 ついでに体も硬直してしまう。

「なんだよ、男連れかよ」
「他行こうぜ」

 幸いというべきか、ナンパ男達はすぐに諦めてどこかへ消えた。

 でも、なんというか……
 絡んででも良かったから、残ってほしかったというのが本音だ。
 レナと二人きりになるなんて。

「ひさしぶり、って言うほどでもないかな? でもでも、また会えてうれしいな」
「えっと……うん、ひさしぶりだね」

 レナは屈託のない笑みを浮かべていた。
 とてもじゃないけれど、敵対しているとは思えない態度だ。

 そんな彼女は、けっこう大胆な水着を着ていた。
 見えてはいけないところが見えてしまいそうというか……
 こぼれてしまいそうというか……

 レナの性格が現れているような水着だ。
 こんな格好をしていたら、ナンパをされても文句は言えないだろう。

「ねえねえねえ、こんなところで再会するなんて運命だと思わない? というか、運命だよね! うん、フェイトはボクと付き合うこと決定だね」
「えっ!? な、なんでそうなるの?」
「フェイトは運命を感じない?」
「あまり……というか、これはレナが狙ってやったことじゃないの?」

 この再会を偶然と言うのには、あまりにもできすぎているような気がした。

 レナは見た目通りの元気な女の子というわけじゃなくて……
 実は、とんでもない力を持っていて……
 裏であれこれと仕組み、偶然の再会を装うことくらいはやりそうだ。

 僕がジト目を向けると、レナはぱたぱたと手を横に振り否定する。

「いやいやいや、本当に偶然だよ? フェイトとはまた会いたいなー、とは思ってたけど、その前にやらないといけないことがあるからね。ボク、それなりに立場は上なんだけど、それでも好き勝手ばかりしてたら周囲に示しがつかないからねー。上にいると、それはそれで面倒なんだよ」
「はあ……」
「だから、今回のことは本当に予想外。なにも仕組んでなんていないよ?」

 信じて、というような感じで、レナはじっとこちらを見つめてきた。
 その瞳はとても純粋で……

 ふと疑問に思う。
 彼女は、良くも悪くも自分の欲望に正直なのだろう。
 だから、やりたいことをやる。

 その価値観を変えることができたら……
 もしかしたら、レナを黎明の同盟から脱退させることができるのかな?

 色々とやらかしているんだけど……
 でも、憎みきれないんだよなあ。

「ねえねえ、フェイト。ボクの水着姿、どうかな? かわいい? セクシー? 手を出したくなる?」
「似合っていると思うけど……」
「えへへ、ありがと」
「ど、どういたしまして?」
「じゃあ、行こうか!」

 ぐいっと、手を引っ張られる。

「え、どこに?」
「宿」
「なんで?」
「再会を記念して、えっちなことしよう?」
「ごほっ!?」

 気軽にとんでもないことを言われてしまい、おもいきりむせてしまう。

「しないよ!?」
「えっちなこと、したくないの? 興味ないの?」
「な、ないことはないけど……で、でもそういうことは気軽にするようなことじゃ……」
「気軽にしないよ? ボクはフェイトのこと好きだから、したいって思うんだよ?」
「え、えっと……」
「いや?」

 レナがそっと顔を近づけてきて……

「……なにをしているのですか?」

 ふと、ソフィアの声が響いた。