16話 冒険者、フェイト誕生

「フェイト・スティアートさん。ギルドマスターとソフィア・アスカルトさんの推薦を集めたため、冒険者登録を受け付けます。おめでとうございます」
「おめでとうございます、フェイト。絶対に合格すると信じていました」

 ソフィアが笑顔で祝福してくれる。
 受付嬢も一緒に祝福してくれる。

 僕の手には、冒険者のライセンスカード。
 これで、正式な冒険者になることができた。

 魔物を討伐して、素材を採取して、未開の地を探索する……冒険をすることができる。
 そう思うと、とてもワクワクした。
 奴隷だった頃にはない感情で、体がふわふわして、そのまま飛んでいってしまいそう。

 それくらいに、僕の心は喜びと興奮で踊っていた。

 ちなみに、アイゼンも祝福してくれたのだけど……
 ギルドマスターは忙しいらしく、すぐにどこかへ行ってしまった。

 あの後、シグルド達が姿を消したらしく……
 彼らを追うことにして、色々と忙しくなったらしい。

 推薦人になってくれたお礼を言いたかったのだけど、残念だ。

「すみません。一つ聞きたいのですが、フェイトのランクはFなのですか?」

 隣から僕のライセンスカードを見たソフィアが、そんなことを尋ねた。
 というか、顔がちょっと近い。

「えっと……はい、そうなりますね」
「Aランクのシグルド達と模擬戦をして、全員に勝ったのに?」
「う……」
「ワイバーンの討伐もしたのに?」
「うぅ……」

 受付嬢がものすごく困った顔になる。

「申しわけありません……私としても、スティアートさんは、最低でもCランク以上にするべきだと、ギルドマスタ―に提言したのですが……」
「規則だから、と断られたのですか?」
「はい……」
「まったく、本当に融通の効かないギルドマスターでしたね。フェイトに関することも、なかなか動いてくれませんでしたし……まるで、フェイトが冒険者になると困るみたいではないですか」
「そ、そのようなことは……」

 否定してみせるものの、受付嬢は心当たりでもあるのか、最後まで言葉を続けることができない。
 本当に、そんなことが?

 うーん?

 アイゼンは、確かに融通の効かないところはあるものの……
 でも、親切だったけどなあ。
 悪い人ではないように見えた。

 って、シグルド達に騙された僕が言っても説得力はないか。

「ソフィア。ランクのことなら、僕は気にしていないよ」
「気にするべきです! ランクが低いと、ギルドから得られる恩恵は少ないのですよ? Cランク以上になれば、毎月、活動費がもらえるだけではなくて、宿や武具の助成金なども出るのですよ」
「それはおいしい話だけど……でも、僕は一番下のFランクからがんばることにするよ」
「しかし……」
「Cランクなら便利かもしれないけど、でも、Fランクにしかできないこともあると思うんだ。なんていえばいいのかな……一番下から始めるからこそ、色々と知ることができると思うし、その機会も増えると思うんだ。ようは、経験だよ。色々な経験をするためにも、まずはFランクから始めたいんだ」
「もう……わかりました。フェイトがそう言うのならば、止めません」
「ありがとう、ソフィア」

 一から冒険者として歩む。
 それは大変かもしれないが、でも、それ以上に楽しいことがあると思う。
 わくわくするようなことが起きると思う。

 ソフィアと一緒なら、なおさらだ。

「でも……もしかしたら、ソフィアに迷惑をかけちゃうのかな? そう考えると、ちょっと迷うかも」
「いいえ、フェイト。迷惑になるなんてことは、絶対にありえませんよ」
「どうして?」
「私は、フェイトと一緒に冒険をすることを子供の頃から、ずっとずっと楽しみにしていたのですから。フェイトがランクを気にしないというのなら、それで構いません。なにか起きたとしても、私が……いいえ。二人で一緒に切り抜けましょう。私達なら、それができるはずです」
「ソフィア……うん、そうだね。二人で一緒にがんばっていこう」
「はい!」

 僕とソフィアは手を取り、互いに笑顔を浮かべて、

「あの……ここはギルドなので、イチャイチャされると困るというか……」

 受付嬢の指摘に恥ずかしくなり、共に赤くなるのだった。

「こほんっ。それでは最後に、スティアートさんの適性を調べることができますが、どうされますか?」
「それは、どういうこと?」
「簡単なものですが、その人に向いているものを調べることができます。例えば、魔法。例えば、支援職。アスカルトさんなら、剣……というように、適正を占うことができるんですよ。冒険者になったばかりの方は、どのような道を進むか迷う場合が多く……そんな方々の手助けをするために、ギルドが開発した技術です」
「ちなみに私は、剣でしたよ」
「なるほど」

 二人の説明で理解することができた。

 僕にどんな才能があるか、という話か。
 知ることができるのなら知っておきたい。

「じゃあ、お願いします」
「はい、かしこまりました。少々おまちください」

 数分後。
 受付嬢は、奥から水晶のような透明な板を持ってきた。

「こちらに手を乗せてください。そうすれば、上の部分に適性が表示されますよ」
「こうかな?」

 言われるまま、透明な板に手を乗せる。
 そして……一分。
 なにも変化が起きない。

「これ、時間がかかるの?」
「い、いえ。そんなことはありません。長くても、三十秒くらいで出てくるはずなんですけど……」

 そんな話をしている間に、三分くらいが経つのだけど、やはり変化はない。
 適性が表示されるという部分は、空白のままだ。

 イヤな考えが浮かぶ。

「もしかして……僕は、なんの才能もない?」
「そ、そのようなことは……でも、他に可能性は……」
「……いえ、もう一つの可能性がありますよ」

 ソフィアは、若干、顔をこわばらせていた。
 信じられないものを見た、というような感じで、とても驚いているみたいだ。

「昔、旅をする途中で聞いたことがあります。なにも適性が表示されないのは、才能がないからではなくて……逆です」
「逆?」
「なんでもできる」

 受付嬢が、ごくりと息を飲んだ。

「剣でも魔法でも支援職でも、なんでもできる。なので、適性が表示されない……そんな話を聞いたことがあります。ですから、もしかしたらフェイトは……」
「万能?」
「包丁みたいに、気楽に言いますね……はい。でも、そういうことです。どんなこともできるという、天賦の才を持っているのかもしれません」
「うーん?」

 そんなことを言われても、ピンと来ない。
 僕は、元奴隷だからなあ……
 才能がないからなにも映らない、と言われた方が納得できる。

「才能があるのかないのか、どちらなのか、判断することは難しいですね……このような展開は初めてなので、当ギルドとしましても、どうしたらいいか」
「気にしないでいいよ」
「え? ですが……」
「あくまでも参考程度の話なんだよね? なら、結果に深く囚われるようなことは、よくないと思うんだ。気にはするけど、それくらい。自由にやるよ。冒険者っていうのは、そういうものだよね?」
「……ふふっ、フェイトらしい答えですね。本当に、小さい頃からなにも変わっていないのですね」
「そうかな?」
「はい。私が好きなフェイトのままです」

 少し照れた。

「なにはともあれ……スティアートさんは、これで今日から冒険者となります。厳しい職業ではありますが、どうか、あなたの冒険に幸があらんことを」

 受付嬢がにっこりと笑い……
 この日、僕は念願の冒険者になることができたのだった。