初めての海だ。
 たくさん泳いで、砂浜なんかで遊んで、おもいきり海を満喫しよう!

 そんなことを思っていたのだけど……

「……ほら、ソフィア。いきなさいよ」
「……ほ、本当にやらないとダメなのですか?」
「……おかーさん、ふぁいと」

 なにやら女性陣の様子がおかしい。

 ソフィアは、どこか恥ずかしそうにしていて……
 急かすような感じで、リコリスがソフィアの肩を叩く。

 どうしたんだろう?
 不思議に思っていると、ソフィアは赤い顔をしてこちらに。
 その手には小さな瓶が握られていた。

「あ、あの……フェイト?」
「うん、どうしたの?」
「えっと、ですね……その、なんていうか……」

 もじもじとするソフィアは、なんだか妙な色気がある。
 水着姿もあって、ちょっとまっすぐ見るのが難しい。

 やがて、ソフィアは意を決したように、強い調子で言う。

「ひ、日焼け止めを塗ってもらえませんか!?」
「……え?」
「その、なにもしていないと日に焼けてしまいますので……一人では手の届かないところも……お、主に背中とか」
「いや、でも、そういうことならアイシャに……」

 頼めばいいのでは?
 そう二人を見ると、

「ふふん」
「ふぁいと」

 がんばりなさいよ、という感じでリコリスが良い笑顔をした。
 アイシャも応援するように、両手をぐっとしている。

 ……これ、全部、リコリスの仕業だな。

「どう、でしょうか?」
「えっと……」

 僕がソフィアに日焼け止めを塗る?
 その白い肌に触るということで……

「っ」

 意識したら急に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。

 そんな僕の反応を見たからなのか、ソフィアはますます恥ずかしそうに。
 普段、凛としている彼女だけど……
 こういうことは弱いらしく、おろおろおどおどしていた。

「……」
「……」
「ほら、さっさと塗ってあげなさい!」
「うわっ」

 どうしていいかわからず、二人揃って沈黙していると、リコリスに背中を押された。
 そのまま、パラソルの下へ。

「そ、それでは……その、お願いしますね?」

 ソフィアはどこか艶のある表情で、シートの上にうつ伏せに寝た。
 そして……スルッと、上の水着の紐を解いてしまう。

「そ、ソフィア!?」
「その、塗る時に邪魔になってしまいますから……そ、そのためです」
「そ、そっか……」

 とにかく顔が熱い。
 ドキドキと胸が鳴り、手が震えてしまう。

「じゃ、じゃあ……いくよ?」

 小瓶の蓋を取り、とろりとした液体を手に垂らす。
 そして、そっとソフィアの背中に触れた。

「ひゃん!?」

 触れた瞬間、ソフィアはびくりと体を震わせつつ、滅多に聞くことのないかわいらしい声をあげた。

「ご、ごめん!?」
「あ、いえ……冷たくて驚いただけなので、その……だ、大丈夫です。続けてください」
「う、うん」

 恐る恐る日焼け止めを塗る。
 どうしても手が震えてしまうのだけど、仕方ないよね……?

「ん……」
「い、痛くない?」
「大丈夫です。少し……気持ちいいくらいです」
「そ、そうなんだ」
「もう少し強くしても大丈夫ですよ」
「これくらい……かな?」

 押すような感じで、日焼け止めを塗り拡げていく。

 ソフィアの肌は柔らかくて、スベスベしていて……
 そういえば、彼女に触れるのはこれが初めてでは?
 軽いスキンシップはあるものの、こんなにもガッツリと触れるなんて初めてのことで、そのせいかやたらと意識してしまう。

「はぁ……ん」
「……」
「ふぅ、あ……はぁあ」
「……」
「んっ……ふぁ」

 ソフィアの吐息がやたらと艶めかしいのはなんで!?
 ドキドキしっぱなしで、なんかもう、どうにかなってしまいそうだ。

 そんな僕を見て、ソフィアが妖艶に微笑む。

「ふふ……フェイトは今、ドキドキしているのですか?」
「そ、それは……」
「大丈夫です、怒ったりなんてしません。むしろ……うれしいです」
「え?」
「好きな男の子が、私にドキドキしてくれる……女性としては、とてもうれしいことですよ?」
「そ、そうなんだ……」
「だから……もっと触ってもいいですよ?」

 甘く蠱惑的に、ソフィアが潤んだ瞳をこちらに向けてきた。

 この妖しい状況に飲み込まれて、ちょっと理性が飛んでいるみたいで……
 普段は口にしないような、とんでもない台詞を放つ。

「胸とかお尻とか……フェイトの好きにしていいですよ?」
「えっ……!?」
「水着……全部、取りましょうか?」
「う……」

 僕も男だ。
 好きな女の子にそんなことを言われたら、もう……

「おとーさんとおかーさん、見たことのない顔してる」
「「っ!?」」

 ついつい二人きりの世界を作ってしまっていたけど、ここは海水浴場で、他にたくさんの人がいて……
 そしてなによりも、アイシャとリコリスがすぐ傍にいる。
 そんな中で、僕達はなにを……?

「「……」」

 二人同時に真っ赤になり、

「「こ、これで終わり!!!」」

 我に返った僕とソフィアは、慌てて身なりを整える。

「ヘタレねー」

 リコリスがニヤニヤと、どこか楽しそうにしつつ、そんなことをつぶやくのだった。