とても大事な用があるからと、ソフィア達へフェイトと別れ別行動をとることに。

 絶対についてきてはいけませんよ? と念押しをして……
 女性陣は気合を入れて、とある店に向かう。

「いらっしゃいませ」

 女性店員に笑顔で迎えられた。
 その奥には、ソフィア達が目的とする商品が並んでいる。

 その商品とは……水着だ。

 海で遊ぶのなら水着は必須だ。
 しかし、そんなことを考えていなかったため、水着は用意していない。

 川で水浴びをする時は、基本、衣服は身に着けない。
 魚を捕る時は、逆に衣服は身につけたまま。

 平時ならそれでも問題はなかったのだけど……
 しかし、海で遊ぶとなれば大問題だ。
 まさか、私服のまま海に飛び込んで遊ぶわけにはいかない。

 かわいい水着を買うことは必須。
 女性にとって、海で水着をまとうことはとても大事なことなのである。

「わぁ……これ、水着?」
「はい、そうですよ。たくさんの水着があって、どれもかわいいですね」
「うん、うん」

 アイシャは尻尾をぶんぶんを振る。
 とてもわくわくしているみたいだ。

「ふふーん、このナイスバディの持ち主のリコリスちゃんに似合う水着はあるかしら? 超天才デザイナーがデザインした水着じゃないと、あたしには釣り合わないと思うんだけど」

 リコリスもテンションが高い。
 あちらこちらを飛んで、あれこれと想像して、ニヤニヤとしていた。

 ファッションに関する話をする時、妖精だろうと獣人であろうと、女性ならばテンションが高くなるというものだ。

「とりあえず、リコリスはサイズが問題ですから。アイシャちゃんも尻尾とかがあるので……店員さんに聞いてみましょうか。すみませーん」
「はい、なんでしょう」

 待っていたとばかりに、店員が寄ってきた。
 声をかけられるのを待っていた様子で、とてもニコニコとしている。

「私達、水着を探しているんですけど……まず、この二人のための水着は置いてありますか?」
「あら? 妖精と獣人……珍しいですね。まさか、こんなお客さまがいらっしゃるなんて」
「難しいでしょうか?」
「いえ、いえ! そのようなことはありませんとも、ええ! 当店は、ブルーアイランドで一番を誇る水着専門店。全てのお客さまに満足していただけるとの自負があります」

 そうして、三人は店の奥に案内された。

 店の手前が子供用、真ん中が成人用。
 そして奥が特別なサイズが並べられているらしい。

「妖精のお客さまには、こちらのコーナーから選んでいただければ」
「うっわ、妖精専用のコーナーとか用意してあるの? あたしが言うのもなんだけど、用意周到すぎて、ちょっと引くわ……」
「以前、妖精のお客さまが来店したことがありまして。その時は妖精用の水着を用意しておらず、がっかりさせてしまったことがありまして……あのような失敗は繰り返すまいと、きちんと揃えることにしたのです!」
「それにしても、十着以上あるじゃない。あたし、一着あればいい方と思ってたんだけど……ふふーん、これならお気に入りが見つかるかも。良い仕事っぷりね、褒めてあげるわ!」
「ありがとうございます!」

 リコリスのナチュラルな上から目線も気にした様子はなく、むしろ感激した様子で店員は頭を下げた。
 仕事に誇りを持っているからこそ、それを褒められた時は最高にうれしいのだろう。

「そして、こちらは獣人用の子供の水着になりますね」

 店員が紹介する水着は、一見すると人間の水着と大差がない。
 ただ、尻尾を通すための穴が開けられていた。

 こちらも種類は豊富で、全部で三十着ほどが用意されていた。
 シンプルなものからたくさんのフリルがついたかわいらしいものまで、バリエーションは豊富だ。

「こうして獣人用の水着が用意されているのは、妖精の時と同じように、前に来店したことがあるから?」
「いえ、獣人の方が来店されたことはないですね。相当に珍しい種族と聞いていますし……」
「なら、どうしてここまでの品を?」
「まだ来店していないだけで、もしかしたら、いつか来店されるかもしれない……そのために、当店では、全てお客さまに対応できるよう、ありとあらゆる水着を取り揃えることにしたのです」

 すごい。
 店員のプロ根性に、ソフィアは素直に感心した。
 ここまで情熱を燃やして商売をやっている人は、そうそういないのでは?

 一着で十分なのだけど……
 でも、二着ぐらい買ってしまおうか?
 ついついそんなことを考えてしまう。

「それで、お客さまは……」
「私は普通の人間ですよ」
「かしこまりました。どのような水着をご所望でしょうか?」

 ソフィアは、ちらりとアイシャとリコリスを見た。
 二人共水着選びに夢中だ。
 同じ店内にいて、変な客もいない。
 店員もしっかりとしている。
 自分の水着選びに専念しても問題はないだろう……そう判断して、ソフィアは店員との会話を続ける。

「恥ずかしい話ですが、こういった専門店で水着を買うのは初めてでして……どういうものがいいのかよくわからず……」
「なるほど。では僭越ながら、私にお手伝いをさせていただけませんか?」
「ぜひ」
「お客さまの好みはありますか? かわいい水着がいいとか、おしゃれな感じがいいとか。そういう曖昧なもので構いません」
「そう、ですね……」

 水着を選ぶ基準を考えるソフィア。
 ややあって、答えを口にする。

「……好きな男の子の視線を独り占めしてしまうような、そんな水着が好きです」
「なるほど、なるほど」

 店員の笑みがさらに優しく、深いものになる。

「彼氏さんは年上ですか? 年下ですか?」
「同い年ですが、年下のような印象がありますね。でも、いざという時はとても頼りになりますし……とても愛らしく、かわいい感じです」
「素敵な彼氏さんなんですね」

 店員は微笑みつつ、いくらかの水着をチョイスした。

「かわいいタイプ、大胆なタイプ、その両方を兼ね備えたタイプ……ひとまず三つほど用意してみましたが、いかがでしょう?」
「こ、これは……!?」

 店員がチョイスしてくれた水着を見て、ソフィアの中で衝撃が走る。
 かわいい。
 そして大胆だ。

 これを着るとなると、さすがに恥ずかしい。
 恥ずかしいのだけど……
 でも、フェイトの視線と心を独り占めできるような気がした。

 いやしかし、これはさすがに大胆すぎやしないだろうか?
 冒険なんてしないで、おとなしく、控えめな路線にした方が……

「お客さま」

 迷うソフィアに、店員がニッコリと笑いつつ声をかける。

「夏は女性を大胆にさせるもの。そして、男性も大胆になり……二人の距離を一気に縮めるチャンスでもあります。そのために、多少肌を露出させることになんの問題がありましょうか? いいえ、ありません! 彼氏さんの心をつなぎとめて、さらなるステップアップを達成するために、女性としての武器を使うべきなのです! これでお客さまと彼氏さんの夏は、さらに素敵なものになるでしょう」
「買います!」

 店員の思うがまま、見事なまでに流されてしまうソフィアだった。