ひとまず、宿のことは気にしないことにして……
荷物を部屋に置いた後、再び街へ。
エドワードさんとエミリアさんの話によると、獣人研究家は、ブルーアイランドの端の方に住んでいるらしい。
研究に専念するために、騒々しい中心部から離れたという。
街を一望できるような丘の上。
そこに獣人研究家の家があった。
「すみません」
扉をノックして、声をかける。
……しかし、反応はない。
「すみませーん!」
もう一度、扉をノックした。
少し大きめの声も出す。
でも、やはり反応がない。
試しにドアノブを回してみると、ガチャリと鍵がかかっていた。
「留守なのかな?」
「えっと……人の気配は感じられませんね」
「そういう確認の仕方、あるんだ……」
気配で留守の有無を判別してしまうなんて。
ソフィアって、たまにデタラメだよね。
……たまにじゃなくて、いつもかな?
「どうすんの? 帰ってくるのを待つ?」
「そうしたいところだけど……あ、やっぱりそれはやめた方がいいかな」
「なんでよ?」
「ポストを見て」
ポストは大量の投函物であふれていた。
家主がしばらく家に帰ってきていない証拠だ。
「仕事なのか旅行なのか、そこはよくわからないけど、長い間家を空けているみたいだね」
「困りましたね……」
「ちょちょいと鍵を開けて、中を勝手に調べさせてもらう、っていうのは?」
「なにを調べたらいいかわからないし、そもそも、それは犯罪だよ」
「ふふん、冗談よ冗談」
いや、リコリスは本気だった。
そう思ったものの、口にはしないでおく。
「学者さん、いないの?」
「そうみたいですね、残念です」
「おかーさん、よしよし」
「はぁあああ……もう、娘がかわいすぎてどうにかなってしまいそうです!」
「ふぎゅ」
目をハートマークにしたソフィアは、アイシャをぎゅっと抱きしめた。
力加減はしているみたいだけど、それでも苦しいらしく、アイシャがジタバタともがく。
「ソフィア、落ち着いて」
「はっ!? すみません、アイシャちゃん……」
「ううん、気にしてないよ」
アイシャを好きすぎるから暴走してしまう。
そのことを理解しているらしく、アイシャはうれしそうにしていた。
「ひとまず、近くの家の人に話を聞いてみようか」
「そうですね」
少し離れたところにある民家へ。
こちらは留守ということはなくて、獣人研究家についての話を聞くことができた。
なんでも、少し前に講演会の仕事が入ったらしく、他の街へ移動したとのこと。
予定によると、一週間は不在だとか。
「ありがとうございました」
話を聞き終えた後、改めて獣人研究家の家の前に。
「出かけたのが二日前みたいだから、あと五日は帰ってこないことになるね」
「やっぱり、勝手に入った方が早いんじゃない?」
「なんで、リコリスはそういう過激な発想に至るの……?」
妖精は、もっとおとなしくて穏やかな種族って聞いていたんだけど……
リコリスが特別なのかな?
どちらにしても、アイシャの教育に悪いから、そういうことは言わないでほしい。
「とりあえず、手紙を置いていきましょう」
五日後に帰ってくるらしいけど、予定がズレることもある。
行き違いになると大変なので、僕達の来訪を告げる手紙を残しておくことにした。
いっぱいのポストを整理してから、手紙を投函。
ひとまず、これで今できることは完了した。
「これからどうしようか?」
五日間も予定が空いてしまった。
宿代は心配いらないけど、どうやって時間を潰せばいいか、そこが問題だ。
「せっかくなので、この街でなにか依頼をこなしておきますか?」
「あ、それはいいかも」
場所が変われば依頼も変わる。
ブルーアイランドならではのおもしろい依頼があるかもしれない。
「はー……なってない、なっちゃいないわね。こんなところでまで仕事をしようとするなんて、二人共、ワーカーホリック? ホント、やれやれね」
リコリスが、これみよがしに盛大にため息をついてみせた。
「仕事ばかりしてないで、たまには休みなさいよ。そうしないと、リコリスちゃんも休めないでしょ」
「リコリスは、好きな時に好きなだけ休んでいたような……?」
「うっさいわね!」
リコリスはふわりと宙を飛んで、アイシャの頭の上に着地。
そして、ビシリとこちらを指差す。
「さあ、アイシャ。あんたの胸の内の想いをぶちまけてやりなさい!」
「う?」
「したいこと、あるんでしょ?」
「……」
リコリスが適当なことを言っているわけじゃなくて……
アイシャは、ちらりと僕とソフィアを見た。
尻尾が不安そうに揺れている。
なにか言いたいことがあるみたいだけど、でも、リコリスが言うように我慢していたらしい。
僕はしゃがみ、アイシャと目線を合わせる。
「どうしたの、アイシャ? なにか言いたいことがあるなら、遠慮なく言って」
「フェイトの言う通りですよ。変な遠慮はしないでくださいね」
「えっと、その……」
アイシャはちらりと海を見て、それから僕達に視線を戻した。
「海、初めてだから……遊んでみたい」
「そっか」
考えてみれば、アイシャの欲求は当たり前のものだ。
初めて見る海。
子供なら遊んでみたいと思うだろう。
「うん。なら、海で遊ぼうか」
「いいの……?」
「もちろん」
「ごめんなさい、アイシャちゃん。私達の仕事の邪魔をしないかと、気にしてくれていたんですよね。でも、大丈夫ですよ。お金には困っていませんから、無理に仕事をする必要はないですし……なにより、私もアイシャちゃんと海で遊びたいですから」
「わぁ……!」
よほど海で遊びたかったらしく、アイシャの顔がぱぁっと輝いた。
なんていうか、申しわけない。
リコリスが言い出してくれなかったら、気づかなかったかもしれない。
「ありがとう、リコリス」
「ふふーん、気にしなくていいわよ。あたしって、超がつくほどの気遣い上手だから、これくらいなんてことないわ。あ、でも、今夜は肉が食べたいわ。肉!」
「了解」
こうして……
獣人研究家が戻ってくるまでの間、僕達は海を楽しむことに決めた。
荷物を部屋に置いた後、再び街へ。
エドワードさんとエミリアさんの話によると、獣人研究家は、ブルーアイランドの端の方に住んでいるらしい。
研究に専念するために、騒々しい中心部から離れたという。
街を一望できるような丘の上。
そこに獣人研究家の家があった。
「すみません」
扉をノックして、声をかける。
……しかし、反応はない。
「すみませーん!」
もう一度、扉をノックした。
少し大きめの声も出す。
でも、やはり反応がない。
試しにドアノブを回してみると、ガチャリと鍵がかかっていた。
「留守なのかな?」
「えっと……人の気配は感じられませんね」
「そういう確認の仕方、あるんだ……」
気配で留守の有無を判別してしまうなんて。
ソフィアって、たまにデタラメだよね。
……たまにじゃなくて、いつもかな?
「どうすんの? 帰ってくるのを待つ?」
「そうしたいところだけど……あ、やっぱりそれはやめた方がいいかな」
「なんでよ?」
「ポストを見て」
ポストは大量の投函物であふれていた。
家主がしばらく家に帰ってきていない証拠だ。
「仕事なのか旅行なのか、そこはよくわからないけど、長い間家を空けているみたいだね」
「困りましたね……」
「ちょちょいと鍵を開けて、中を勝手に調べさせてもらう、っていうのは?」
「なにを調べたらいいかわからないし、そもそも、それは犯罪だよ」
「ふふん、冗談よ冗談」
いや、リコリスは本気だった。
そう思ったものの、口にはしないでおく。
「学者さん、いないの?」
「そうみたいですね、残念です」
「おかーさん、よしよし」
「はぁあああ……もう、娘がかわいすぎてどうにかなってしまいそうです!」
「ふぎゅ」
目をハートマークにしたソフィアは、アイシャをぎゅっと抱きしめた。
力加減はしているみたいだけど、それでも苦しいらしく、アイシャがジタバタともがく。
「ソフィア、落ち着いて」
「はっ!? すみません、アイシャちゃん……」
「ううん、気にしてないよ」
アイシャを好きすぎるから暴走してしまう。
そのことを理解しているらしく、アイシャはうれしそうにしていた。
「ひとまず、近くの家の人に話を聞いてみようか」
「そうですね」
少し離れたところにある民家へ。
こちらは留守ということはなくて、獣人研究家についての話を聞くことができた。
なんでも、少し前に講演会の仕事が入ったらしく、他の街へ移動したとのこと。
予定によると、一週間は不在だとか。
「ありがとうございました」
話を聞き終えた後、改めて獣人研究家の家の前に。
「出かけたのが二日前みたいだから、あと五日は帰ってこないことになるね」
「やっぱり、勝手に入った方が早いんじゃない?」
「なんで、リコリスはそういう過激な発想に至るの……?」
妖精は、もっとおとなしくて穏やかな種族って聞いていたんだけど……
リコリスが特別なのかな?
どちらにしても、アイシャの教育に悪いから、そういうことは言わないでほしい。
「とりあえず、手紙を置いていきましょう」
五日後に帰ってくるらしいけど、予定がズレることもある。
行き違いになると大変なので、僕達の来訪を告げる手紙を残しておくことにした。
いっぱいのポストを整理してから、手紙を投函。
ひとまず、これで今できることは完了した。
「これからどうしようか?」
五日間も予定が空いてしまった。
宿代は心配いらないけど、どうやって時間を潰せばいいか、そこが問題だ。
「せっかくなので、この街でなにか依頼をこなしておきますか?」
「あ、それはいいかも」
場所が変われば依頼も変わる。
ブルーアイランドならではのおもしろい依頼があるかもしれない。
「はー……なってない、なっちゃいないわね。こんなところでまで仕事をしようとするなんて、二人共、ワーカーホリック? ホント、やれやれね」
リコリスが、これみよがしに盛大にため息をついてみせた。
「仕事ばかりしてないで、たまには休みなさいよ。そうしないと、リコリスちゃんも休めないでしょ」
「リコリスは、好きな時に好きなだけ休んでいたような……?」
「うっさいわね!」
リコリスはふわりと宙を飛んで、アイシャの頭の上に着地。
そして、ビシリとこちらを指差す。
「さあ、アイシャ。あんたの胸の内の想いをぶちまけてやりなさい!」
「う?」
「したいこと、あるんでしょ?」
「……」
リコリスが適当なことを言っているわけじゃなくて……
アイシャは、ちらりと僕とソフィアを見た。
尻尾が不安そうに揺れている。
なにか言いたいことがあるみたいだけど、でも、リコリスが言うように我慢していたらしい。
僕はしゃがみ、アイシャと目線を合わせる。
「どうしたの、アイシャ? なにか言いたいことがあるなら、遠慮なく言って」
「フェイトの言う通りですよ。変な遠慮はしないでくださいね」
「えっと、その……」
アイシャはちらりと海を見て、それから僕達に視線を戻した。
「海、初めてだから……遊んでみたい」
「そっか」
考えてみれば、アイシャの欲求は当たり前のものだ。
初めて見る海。
子供なら遊んでみたいと思うだろう。
「うん。なら、海で遊ぼうか」
「いいの……?」
「もちろん」
「ごめんなさい、アイシャちゃん。私達の仕事の邪魔をしないかと、気にしてくれていたんですよね。でも、大丈夫ですよ。お金には困っていませんから、無理に仕事をする必要はないですし……なにより、私もアイシャちゃんと海で遊びたいですから」
「わぁ……!」
よほど海で遊びたかったらしく、アイシャの顔がぱぁっと輝いた。
なんていうか、申しわけない。
リコリスが言い出してくれなかったら、気づかなかったかもしれない。
「ありがとう、リコリス」
「ふふーん、気にしなくていいわよ。あたしって、超がつくほどの気遣い上手だから、これくらいなんてことないわ。あ、でも、今夜は肉が食べたいわ。肉!」
「了解」
こうして……
獣人研究家が戻ってくるまでの間、僕達は海を楽しむことに決めた。