カタカタ、カタカタ
馬車の車輪の音が鳴る。
窓の向こうを見上げると、気持ちのいい青空が見えた。
雨が降ることはなくて、今日も晴れ。
でも気温が高いわけじゃなくて、ほどよい感じ。
「うん、今日も良い旅になりそうだ」
「でも、退屈ねー」
リコリスがふわりと飛んで、僕の頭の上に着地する。
そのままクッキーをポリポリとかじる。
欠片が落ちるから、人の頭の上で食べないでほしいんだけど……
「旅に出てから、なにもないじゃない。なんかこう、血沸き踊るような展開はないの? 盗賊に襲われているお嬢さまを助けてロマンスとか、謎の地図を発見して壮大なトレジャーハントとか。あるでしょ、色々と」
「特に問題がないなら、それでいいと思うんだけど」
「ちっちっち。フェイトはわかってないわねー。人生は、適度のトラブルがいいスパイスになって、彩りを添えてくれるのよ? 平凡に生きているよりも、波乱万丈に生きないと」
「そういうものなの?」
「そういうものよ。歴史上の偉人は、みんな、波乱万丈の人生を過ごしたでしょ」
「なるほど」
言われてみるとその通りかもしれない。
トラブルに遭遇したことで、それを乗り越える力を手に入れて……
そして、それが後に生きる。
僕もトラブルを欲するべきなのかな?
「……ちょろ」
「え? なにか言った?」
「いーえ、なんでもないわ。それより、ソフィアとアイシャはまだ歩くの?」
「そうみたいだね」
ずっと馬車に乗っていると体が鈍ってしまうと、ソフィアは馬車と並行して歩いていた。
アイシャも、おかーさんと一緒にいる、と手を繋いで歩いている。
僕もちょくちょく体を動かすようにはしているんだけど……
のんびりしていてください、って馬車に戻されちゃうんだよね。
「アイシャって、あんなに体力あったかしら?」
「ソフィアと一緒にいるから、鍛えられているのかな?」
「まあ、よくよく考えたら獣人だし、体力があって当然ね」
そう言うリコリスは、獣人について詳しそうだ。
アイシャの謎について、そこは知らない様子だけど……
それでも、僕達よりも深い知識を持っているだろう。
「ねえ、リコリス。獣人って、僕達人間よりも体力があるの?」
「そうよ。具体的な数値とか知らないけど、最低でも倍以上はあるんじゃないかしら」
「すごいね……」
「まあ、本格的に成長するのは大人になってからみたいだから、今のアイシャはそこらの人間の子供と大して変わらないけど」
「なるほど」
アイシャが自分よりも大きなものを持ち上げる光景を想像したのだけど……
さすがに、そんなことはないらしい。
よかった。
娘よりも力がないとか、父親としての威厳がゼロになっちゃうからね。
でも、いざという時のために、ある程度の力はあった方がいいのかな?
そう考えると、ちょっと悩ましいところだ。
「獣人って珍しいよね」
「そうね。ぜんぜん見かけないし、アイシャみたいな子供の獣人はもっと珍しいわ」
「どうして見かけなくなったのかな?」
「さあ?」
リコリスは僕の前に降りてきて、小首を傾げてみせた。
「あたしも詳しいわけじゃないし、姿を見かけない理由はわからないわねー」
「そっか」
「でも」
単なる噂、と前置きしてリコリスが言う。
「人間は獣人に嫌われている、っていう話をどこかで聞いた覚えがあるわ」
「……嫌われている……」
なにかやらかしたのだろうか?
それとも、別の理由が……?
「まあ、よく覚えてない話だから、本当かどうかわからないけどね」
「……」
「ところで、フェイト。クッキーのおかわりないかしら? 超絶かわいいリコリスちゃんは、おやつを所望よ」
「あるけど……太るよ?」
「ふふーん、美少女はそんなことにならないのよ!」
その自信、どこからくるのだろう?
たまに、リコリスのものすごく前向きなところがうらやましくなる。
おかわりのクッキーをリコリスに渡してから、僕は馬車の外に出た。
「あ、おとーさん」
アイシャがとてとてと駆けてきて、抱きついてきた。
そんな娘を抱えると、ふにゃり、とうれしそうに笑ってくれる。
「うーん」
自惚れっていうわけじゃないんだけど、僕はアイシャに好かれていると思う。
この笑顔が証拠だ。
そうなると、リコリスの話は間違い?
でも、アイシャが子供だからなにも知らないだけで、獣人の大人は人を嫌っているのかも……?
ちょっと考えてみるけど、なかなかの難問だ。
すぐに答えが出てきそうにない。
「フェイト。どうしたのですか、難しい顔をして」
「獣人について、少し考えていたんだ」
「どのようなことを?」
「それは……結局、よくわからない、っていう結論になるんだよね」
珍しい種族で……
リコリス曰く、高い能力を持つ。
それと人間嫌い。
でも、判明しているのはそれだけ。
おまけに、それが正しい情報かどうか判別することはできない。
厄介だ。
アイシャのことを知るための旅なのだけど……
これは、思っていた以上の難問なのかもしれない。
「大丈夫ですよ」
「ソフィア?」
「私が一緒ですから。フェイト一人では無理だとしても、二人ならなんとかなるかもしれません。逆に、私だけでは無理でも、フェイトが一緒ならなんとかなるかもしれません」
「……うん、そうだね」
僕は一人じゃない。
ソフィアがいる。
そして、アイシャとリコリスがいる。
なら、大丈夫。
これからどうなるかわからないし、困難に直面しないとは言えない。
でも、一人じゃないから。
「よし、がんばろう!」
馬車の車輪の音が鳴る。
窓の向こうを見上げると、気持ちのいい青空が見えた。
雨が降ることはなくて、今日も晴れ。
でも気温が高いわけじゃなくて、ほどよい感じ。
「うん、今日も良い旅になりそうだ」
「でも、退屈ねー」
リコリスがふわりと飛んで、僕の頭の上に着地する。
そのままクッキーをポリポリとかじる。
欠片が落ちるから、人の頭の上で食べないでほしいんだけど……
「旅に出てから、なにもないじゃない。なんかこう、血沸き踊るような展開はないの? 盗賊に襲われているお嬢さまを助けてロマンスとか、謎の地図を発見して壮大なトレジャーハントとか。あるでしょ、色々と」
「特に問題がないなら、それでいいと思うんだけど」
「ちっちっち。フェイトはわかってないわねー。人生は、適度のトラブルがいいスパイスになって、彩りを添えてくれるのよ? 平凡に生きているよりも、波乱万丈に生きないと」
「そういうものなの?」
「そういうものよ。歴史上の偉人は、みんな、波乱万丈の人生を過ごしたでしょ」
「なるほど」
言われてみるとその通りかもしれない。
トラブルに遭遇したことで、それを乗り越える力を手に入れて……
そして、それが後に生きる。
僕もトラブルを欲するべきなのかな?
「……ちょろ」
「え? なにか言った?」
「いーえ、なんでもないわ。それより、ソフィアとアイシャはまだ歩くの?」
「そうみたいだね」
ずっと馬車に乗っていると体が鈍ってしまうと、ソフィアは馬車と並行して歩いていた。
アイシャも、おかーさんと一緒にいる、と手を繋いで歩いている。
僕もちょくちょく体を動かすようにはしているんだけど……
のんびりしていてください、って馬車に戻されちゃうんだよね。
「アイシャって、あんなに体力あったかしら?」
「ソフィアと一緒にいるから、鍛えられているのかな?」
「まあ、よくよく考えたら獣人だし、体力があって当然ね」
そう言うリコリスは、獣人について詳しそうだ。
アイシャの謎について、そこは知らない様子だけど……
それでも、僕達よりも深い知識を持っているだろう。
「ねえ、リコリス。獣人って、僕達人間よりも体力があるの?」
「そうよ。具体的な数値とか知らないけど、最低でも倍以上はあるんじゃないかしら」
「すごいね……」
「まあ、本格的に成長するのは大人になってからみたいだから、今のアイシャはそこらの人間の子供と大して変わらないけど」
「なるほど」
アイシャが自分よりも大きなものを持ち上げる光景を想像したのだけど……
さすがに、そんなことはないらしい。
よかった。
娘よりも力がないとか、父親としての威厳がゼロになっちゃうからね。
でも、いざという時のために、ある程度の力はあった方がいいのかな?
そう考えると、ちょっと悩ましいところだ。
「獣人って珍しいよね」
「そうね。ぜんぜん見かけないし、アイシャみたいな子供の獣人はもっと珍しいわ」
「どうして見かけなくなったのかな?」
「さあ?」
リコリスは僕の前に降りてきて、小首を傾げてみせた。
「あたしも詳しいわけじゃないし、姿を見かけない理由はわからないわねー」
「そっか」
「でも」
単なる噂、と前置きしてリコリスが言う。
「人間は獣人に嫌われている、っていう話をどこかで聞いた覚えがあるわ」
「……嫌われている……」
なにかやらかしたのだろうか?
それとも、別の理由が……?
「まあ、よく覚えてない話だから、本当かどうかわからないけどね」
「……」
「ところで、フェイト。クッキーのおかわりないかしら? 超絶かわいいリコリスちゃんは、おやつを所望よ」
「あるけど……太るよ?」
「ふふーん、美少女はそんなことにならないのよ!」
その自信、どこからくるのだろう?
たまに、リコリスのものすごく前向きなところがうらやましくなる。
おかわりのクッキーをリコリスに渡してから、僕は馬車の外に出た。
「あ、おとーさん」
アイシャがとてとてと駆けてきて、抱きついてきた。
そんな娘を抱えると、ふにゃり、とうれしそうに笑ってくれる。
「うーん」
自惚れっていうわけじゃないんだけど、僕はアイシャに好かれていると思う。
この笑顔が証拠だ。
そうなると、リコリスの話は間違い?
でも、アイシャが子供だからなにも知らないだけで、獣人の大人は人を嫌っているのかも……?
ちょっと考えてみるけど、なかなかの難問だ。
すぐに答えが出てきそうにない。
「フェイト。どうしたのですか、難しい顔をして」
「獣人について、少し考えていたんだ」
「どのようなことを?」
「それは……結局、よくわからない、っていう結論になるんだよね」
珍しい種族で……
リコリス曰く、高い能力を持つ。
それと人間嫌い。
でも、判明しているのはそれだけ。
おまけに、それが正しい情報かどうか判別することはできない。
厄介だ。
アイシャのことを知るための旅なのだけど……
これは、思っていた以上の難問なのかもしれない。
「大丈夫ですよ」
「ソフィア?」
「私が一緒ですから。フェイト一人では無理だとしても、二人ならなんとかなるかもしれません。逆に、私だけでは無理でも、フェイトが一緒ならなんとかなるかもしれません」
「……うん、そうだね」
僕は一人じゃない。
ソフィアがいる。
そして、アイシャとリコリスがいる。
なら、大丈夫。
これからどうなるかわからないし、困難に直面しないとは言えない。
でも、一人じゃないから。
「よし、がんばろう!」