15話 1+1は所詮2
「ギルドマスター、このような結果はありえません!」
ソフィアが相手では分が悪いと思ったらしく、レクターはアイゼンに訴える。
「Aランクのシグルドが、奴隷の無能に負けるわけがありません! イカサマをしていたに違いありません!」
「そうよ、そうに決まっているわ! なんて卑怯なのかしら! 信じられないんですけど」
二人は揃って僕のイカサマだと主張する。
それに対して、ギルドマスターの反応は……
「なら、お前達が戦うといい」
「ちょ!?」
とんでもないことを言い出した!?
「ほう……それは、模擬戦をもう一度やる、ということでよろしいのですか?」
「ああ、そういうことになるな。なんなら、二人でスティアートを相手にしてもいいぞ」
「いやいやいや!」
アイゼンは、なにを勝手に決めているの?
僕の問題なのだから、僕抜きで話を進めないでほしい。
「ギルドマスター……なにを勝手なことを言っているのでしょうか?」
ソフィアが怖い笑顔で問いかけた。
その手は、半分くらい剣の柄に伸びている。
それを見たアイゼンは慌てつつ、言い訳のような感じで言う。
「ま、まてまて。俺なりの考えがあってのことだ」
「考えですか?」
「二人共、聞いてくれ」
アイゼンは、レクターとミラに聞こえないように、小さな声で言う。
「……連中は、諦めが悪いからな。ここで放置したら、色々と面倒なことになりそうだ」
「……具体的には?」
「……スティアートがイカサマしたとか、俺がえこひいきをしたとか、そういうことを周囲に話すだろうな。スティアートは、冒険者の知り合いはいないだろう? 知らないヤツの悪い噂をそのまま信じてしまうヤツもいるかもしれない。そうなると」
「……確かに面倒ですね」
「……だから、ここで、たくさんの冒険者を集めて、公開模擬試験、という形にする。たくさんの目撃者がいれば、連中の言い分を信じるヤツなんていなくなるさ。あと、面子もまる潰れで、下手なことも言えないだろうな」
「……最初から、そうすればよかったのではないのですか?」
「……模擬戦が突発的に決まったことだからな。本当は、今、裏で密かに手配をして、証人となる冒険者を集めているところだ。そいつらを途中で観戦させようとしたが……思っていた以上に、早く模擬戦が終わってしまったからな。今度は、最初から観戦させるさ」
「……理由はわかったけど、僕が二人を同時に相手をする理由は?」
「……完膚なきまでに叩き潰すといい。その方が、色々とわかりやすいからな。あと、他の冒険者連中も、スティアートの力をハッキリと認めるだろう」
「……でも、二人を相手にするなんて」
「……大丈夫です。フェイトなら、なにも問題はないかと。あの二人は、そこそこ優秀みたいですが、シグルドよりは格下な様子。シグルドを圧倒したフェイトなら、二人であろうと敵ではありません」
「……うん、了解。ソフィアがそこまで言ってくれているのなら、男して、がんばらないわけにはいかないよね。やってみせるよ」
「……はい、応援していますね」
「……こんな時までイチャつくな」
アイゼンは、どこか呆れた様子で言うのだった。
――――――――――
一時間後。
訓練場に、三十名くらいの冒険者が集まり、準備が整う。
観客がいることに、レクターやミラがごねるのではないかという懸念もあったのだけど……
「ふふっ、これだけの観客がいるのなら、イカサマはできないでしょう。小細工をしてシグルドの名誉を傷つけたこと、後悔させてあげますよ」
「簡単には終わらせてあげないし。いたぶっていたぶっていたぶって、泣いてごめんなさいって土下座しても許してやらないんだから」
むしろ、やる気たっぷりだった。
みんなの前で俺に恥をかかせることができると、そんなことを思っているのだろう。
二対一。
少し不安だけど……
でも、ソフィアのことを信じて、がんばることにしよう。
「三人共、準備はいいか?」
「はい」
「ええ、問題ありません」
「きゃははっ、秒で終わらせてやるわ」
僕は木剣を構えた。
レクターとミラも構える。
「では……始め!」
――――――――――
「ば、バカな……このようなことは、ありえません、ありえないです……これは夢、悪い夢に決まっています」
「うそ、うそうそうそ……あたしが、こんな無能に負けるなんて……マジ、ありえないんですけど……うそだぁ」
レクターとミラが倒れていた。
共に立ち上がれない様子で、苦痛に顔を歪めている。
秒で終わったのは、レクターのミラの方だった。
まず最初に動いたのはレクター。
両手に木の短剣を持ち、片方を投擲。
同時に駆けて、突いてきた。
一本を避けている間に、もう一本で攻撃をするという戦法だ。
でも、それは完全に予測していた。
おまけに、やたら遅い。
攻撃を回避した後、レクターの脇腹に木剣を叩き込む。
苦痛によろめいたところを、もう一撃。
レクターが倒れたところで、すぐに横を駆け抜けて、ミラを狙う。
ミラは広範囲を攻撃する魔法を使ってきた。
それで足を止めた後、強力な大規模魔法でトドメを刺す。
彼女は詠唱速度が速いため、そんな戦法が可能なのだ。
でも、その戦法も完全に読んでいた。
広範囲魔法を使われたものの、威力は大したことないので、足を止めることなくそのまま突撃。
え!? と動揺するミラに木剣を叩き込み、地面に沈めた。
……というのが、主な流れだ。
模擬戦開始から、わずか十秒の出来事だ。
「な、なぜ私達が……」
「まるで、心を読まれてるみたいに……くううう」
読まれているもなにも……
レクターとミラは、今まで、僕の前で、さんざんその戦法を使ってきたじゃないか。
五年も一緒にいたのだから、戦法はほとんど覚えているし、戦い方の癖も把握している。
そのことに気づけなかったことが、二人の敗因だろう。
「おいおい、アイツらの方が秒で終わったぞ。見事なまでのフリだったな」
「アイツら、本当に『フレアバード』か? ここまで体を張るなんて、実は芸人じゃないのか?」
「ははっ、ありえるな。だとしたら、けっこう笑わせてもらったよ。笑いの才能はあるかもしれないな」
「ぐぐぐ……」
周囲で観戦していた冒険者達の声を聞いて、レクターが耳まで真っ赤になった。
「無効です!!!」
突然、叫ぶ。
「この試合は無効です! また、コイツがイカサマをしたに違いありません! でなければ、私達が負けるはずが……そうです、このようなことはありえません!!!」
「……と、レクターは言うが、お前達はどう思う?」
審判を務めるアイゼンが、あえて自分で判決をくださずに、周囲に問いかけた。
くすくすと笑ってた冒険者達は、途端に真面目な顔になる。
「イカサマなんてしていないな。事前にチェックもしたと聞いているし、模擬戦中も、おかしなことはなかった。俺の冒険者人生を賭けてもいいぜ」
「というか、イカサマをする必要はないだろう。そこの彼……えっと、スティアートと言ったか? とんでもない実力じゃないか。剣筋がまったく見えなかった」
「これだけの実力差があるんだ。イカサマをする意味がない。単純に、実力の差だな」
「ば、ばかな……」
レクターが愕然とした様子で、がくりとうなだれた。
しかし、ミラは諦めていない様子で、怒りの炎を瞳に宿す。
「でもでも、こんなことありえないし! あたし達は二人なのに、それなのに負けるなんて……おかしいでしょ!?」
「いいえ、それが真理ですよ」
ソフィアが前に出る。
「フェイトの力は、数値にするなら百。しかし、あなた達は一でしかない。二人集まったとしても、合計は二。フェイトを相手にするには、圧倒的に足りません」
「うっ……そ、それは……」
「く……こんなことに、なるなんて……」
これ以上は反論できない様子で、レクターとミラがうなだれた。
「ギルドマスター、そろそろ判定を」
「そうだな」
アイゼンは僕の手を取り、高く掲げた。
「勝者、フェイト・スティアート!」
「ギルドマスター、このような結果はありえません!」
ソフィアが相手では分が悪いと思ったらしく、レクターはアイゼンに訴える。
「Aランクのシグルドが、奴隷の無能に負けるわけがありません! イカサマをしていたに違いありません!」
「そうよ、そうに決まっているわ! なんて卑怯なのかしら! 信じられないんですけど」
二人は揃って僕のイカサマだと主張する。
それに対して、ギルドマスターの反応は……
「なら、お前達が戦うといい」
「ちょ!?」
とんでもないことを言い出した!?
「ほう……それは、模擬戦をもう一度やる、ということでよろしいのですか?」
「ああ、そういうことになるな。なんなら、二人でスティアートを相手にしてもいいぞ」
「いやいやいや!」
アイゼンは、なにを勝手に決めているの?
僕の問題なのだから、僕抜きで話を進めないでほしい。
「ギルドマスター……なにを勝手なことを言っているのでしょうか?」
ソフィアが怖い笑顔で問いかけた。
その手は、半分くらい剣の柄に伸びている。
それを見たアイゼンは慌てつつ、言い訳のような感じで言う。
「ま、まてまて。俺なりの考えがあってのことだ」
「考えですか?」
「二人共、聞いてくれ」
アイゼンは、レクターとミラに聞こえないように、小さな声で言う。
「……連中は、諦めが悪いからな。ここで放置したら、色々と面倒なことになりそうだ」
「……具体的には?」
「……スティアートがイカサマしたとか、俺がえこひいきをしたとか、そういうことを周囲に話すだろうな。スティアートは、冒険者の知り合いはいないだろう? 知らないヤツの悪い噂をそのまま信じてしまうヤツもいるかもしれない。そうなると」
「……確かに面倒ですね」
「……だから、ここで、たくさんの冒険者を集めて、公開模擬試験、という形にする。たくさんの目撃者がいれば、連中の言い分を信じるヤツなんていなくなるさ。あと、面子もまる潰れで、下手なことも言えないだろうな」
「……最初から、そうすればよかったのではないのですか?」
「……模擬戦が突発的に決まったことだからな。本当は、今、裏で密かに手配をして、証人となる冒険者を集めているところだ。そいつらを途中で観戦させようとしたが……思っていた以上に、早く模擬戦が終わってしまったからな。今度は、最初から観戦させるさ」
「……理由はわかったけど、僕が二人を同時に相手をする理由は?」
「……完膚なきまでに叩き潰すといい。その方が、色々とわかりやすいからな。あと、他の冒険者連中も、スティアートの力をハッキリと認めるだろう」
「……でも、二人を相手にするなんて」
「……大丈夫です。フェイトなら、なにも問題はないかと。あの二人は、そこそこ優秀みたいですが、シグルドよりは格下な様子。シグルドを圧倒したフェイトなら、二人であろうと敵ではありません」
「……うん、了解。ソフィアがそこまで言ってくれているのなら、男して、がんばらないわけにはいかないよね。やってみせるよ」
「……はい、応援していますね」
「……こんな時までイチャつくな」
アイゼンは、どこか呆れた様子で言うのだった。
――――――――――
一時間後。
訓練場に、三十名くらいの冒険者が集まり、準備が整う。
観客がいることに、レクターやミラがごねるのではないかという懸念もあったのだけど……
「ふふっ、これだけの観客がいるのなら、イカサマはできないでしょう。小細工をしてシグルドの名誉を傷つけたこと、後悔させてあげますよ」
「簡単には終わらせてあげないし。いたぶっていたぶっていたぶって、泣いてごめんなさいって土下座しても許してやらないんだから」
むしろ、やる気たっぷりだった。
みんなの前で俺に恥をかかせることができると、そんなことを思っているのだろう。
二対一。
少し不安だけど……
でも、ソフィアのことを信じて、がんばることにしよう。
「三人共、準備はいいか?」
「はい」
「ええ、問題ありません」
「きゃははっ、秒で終わらせてやるわ」
僕は木剣を構えた。
レクターとミラも構える。
「では……始め!」
――――――――――
「ば、バカな……このようなことは、ありえません、ありえないです……これは夢、悪い夢に決まっています」
「うそ、うそうそうそ……あたしが、こんな無能に負けるなんて……マジ、ありえないんですけど……うそだぁ」
レクターとミラが倒れていた。
共に立ち上がれない様子で、苦痛に顔を歪めている。
秒で終わったのは、レクターのミラの方だった。
まず最初に動いたのはレクター。
両手に木の短剣を持ち、片方を投擲。
同時に駆けて、突いてきた。
一本を避けている間に、もう一本で攻撃をするという戦法だ。
でも、それは完全に予測していた。
おまけに、やたら遅い。
攻撃を回避した後、レクターの脇腹に木剣を叩き込む。
苦痛によろめいたところを、もう一撃。
レクターが倒れたところで、すぐに横を駆け抜けて、ミラを狙う。
ミラは広範囲を攻撃する魔法を使ってきた。
それで足を止めた後、強力な大規模魔法でトドメを刺す。
彼女は詠唱速度が速いため、そんな戦法が可能なのだ。
でも、その戦法も完全に読んでいた。
広範囲魔法を使われたものの、威力は大したことないので、足を止めることなくそのまま突撃。
え!? と動揺するミラに木剣を叩き込み、地面に沈めた。
……というのが、主な流れだ。
模擬戦開始から、わずか十秒の出来事だ。
「な、なぜ私達が……」
「まるで、心を読まれてるみたいに……くううう」
読まれているもなにも……
レクターとミラは、今まで、僕の前で、さんざんその戦法を使ってきたじゃないか。
五年も一緒にいたのだから、戦法はほとんど覚えているし、戦い方の癖も把握している。
そのことに気づけなかったことが、二人の敗因だろう。
「おいおい、アイツらの方が秒で終わったぞ。見事なまでのフリだったな」
「アイツら、本当に『フレアバード』か? ここまで体を張るなんて、実は芸人じゃないのか?」
「ははっ、ありえるな。だとしたら、けっこう笑わせてもらったよ。笑いの才能はあるかもしれないな」
「ぐぐぐ……」
周囲で観戦していた冒険者達の声を聞いて、レクターが耳まで真っ赤になった。
「無効です!!!」
突然、叫ぶ。
「この試合は無効です! また、コイツがイカサマをしたに違いありません! でなければ、私達が負けるはずが……そうです、このようなことはありえません!!!」
「……と、レクターは言うが、お前達はどう思う?」
審判を務めるアイゼンが、あえて自分で判決をくださずに、周囲に問いかけた。
くすくすと笑ってた冒険者達は、途端に真面目な顔になる。
「イカサマなんてしていないな。事前にチェックもしたと聞いているし、模擬戦中も、おかしなことはなかった。俺の冒険者人生を賭けてもいいぜ」
「というか、イカサマをする必要はないだろう。そこの彼……えっと、スティアートと言ったか? とんでもない実力じゃないか。剣筋がまったく見えなかった」
「これだけの実力差があるんだ。イカサマをする意味がない。単純に、実力の差だな」
「ば、ばかな……」
レクターが愕然とした様子で、がくりとうなだれた。
しかし、ミラは諦めていない様子で、怒りの炎を瞳に宿す。
「でもでも、こんなことありえないし! あたし達は二人なのに、それなのに負けるなんて……おかしいでしょ!?」
「いいえ、それが真理ですよ」
ソフィアが前に出る。
「フェイトの力は、数値にするなら百。しかし、あなた達は一でしかない。二人集まったとしても、合計は二。フェイトを相手にするには、圧倒的に足りません」
「うっ……そ、それは……」
「く……こんなことに、なるなんて……」
これ以上は反論できない様子で、レクターとミラがうなだれた。
「ギルドマスター、そろそろ判定を」
「そうだな」
アイゼンは僕の手を取り、高く掲げた。
「勝者、フェイト・スティアート!」