「はっ、はっ、はっ……」

 雪の街を駆ける。

 息が切れて、体が重い。
 それでも一生懸命に走った。

 正直なところを言うと、そこまで急ぐ必要はない。
 ただ、少しでも早く彼女に会いたくて……

「ソフィア!」
「あっ……フェイト」

 公園に到着すると、先に来ていたソフィアがにっこりと笑う。
 花が咲いたような笑顔で、とても綺麗だと思う。

「ご、ごめんね。遅れちゃったかな……?」
「ううん、そんなことはありませんよ。私が早く来ただけです」

 そう言って、ソフィアは公園の時計を指差した。

 約束した時間の五分前。
 確かに、遅刻はしていないみたいだけど……

「ソフィア、いつから待っていたの?」

 今日は、ちょっとだけど雪が降っている。
 だからなのか、ソフィアの頭に少し雪が積もっていた。

「ほんの少し前ですよ」
「えっと……」

 ウソだ。
 絶対にウソだ。
 たぶん、三十分は待っていたに違いない。

 なんでそんなに早く来ているのか、それはわからないんだけど……
 雪が積もるくらい待たせてしまったことを後悔する。

「えっと……」

 ごめんね、と言おうとして、ふと思い直す。

 彼女と友達になって、一週間。
 まだ短い付き合いだけど、ソフィアはとても優しくて、思いやりがある女の子だということを知った。

 だから、謝っても気を使わせてしまうだけ。
 なら……

「よいしょ」
「フェイト?」
「よしよし」

 そっと、ソフィアの頭を撫でた。
 撫でるついでに、積もった雪を払う。

「……」
「あ」

 しまった。
 女の子に気軽に触るなんて……

「ご、ごめんね。つい……」

 再びしまった。
 結局、謝ってしまった。

「……ふふ」

 ソフィアが笑う。
 今度は、ちょっと困ったような笑みだ。

 うう、失敗だ……
 気を使わせてしまった。

「きょ、今日はなにをして遊ぼうか?」

 失敗した分、ソフィアをたくさん楽しませないと。
 そう思って、やりたいことはないか問いかける。

「フェイトは、なにかやりたいことはないんですか?」
「うーん、特には。ソフィアが遊びたいことでいいよ」
「そう言って、いつも私を優先してくれますけど……本当にないんですか?」
「僕は、ソフィアと一緒にいられるだけで楽しいから」

 出会って、まだ一週間。
 それなのに、どうしてそんなことが言えるのか、と思われるかもしれないけど……
 でも、本当のことだ。

 ソフィアと一緒にいると、自然と笑顔になれる。
 すごくワクワクした気持ちになれる。
 あと、よくわからないけど、ドキドキする。

 それら全部が楽しくて……
 ずっとずっと彼女と一緒にいたい、って思う。

「……」

 ソフィアは、ぽかんとして……
 次いで、頬を染める。

「どうしたの?」
「え?」
「顔が赤いよ?」
「えっと、その……」

 ちらっと、ソフィアがこちらを見る。
 また顔が赤くなる。

 それから、小さな声でつぶやいた。

「……フェイトは、私の王子さまなのかもしれませんね」
「うーん?」
「そんな風に言ってくれる人、フェイトが初めてです」
「そう、なの?」

 だからといって、なんで王子さまになるんだろう?
 というか、王子さまってどういう意味?

「ふふ、女の子は単純なことで心惹かれるものなのですよ」
「えっと……ごめん、よくわからないや」

 素直に言うと、ソフィアはくすくすと笑う。

 よくわからないことに代わりはないのだけど……
 でも、ソフィアが楽しそうだからいいや。

「では、雪遊びでもしましょう?」
「うん!」