カラカラ、カラカラと馬車の車輪が鳴る。
 それと一緒にわずかに振動が伝わってくる。

 とても退屈な時間。
 でも、それはもう終わりだ。

「わぁ!」

 馬車から降りると、見たことのない景色が広がる。
 たくさんの緑と花がある、とても綺麗な街だ。

「ここが……」
「そうだよ、フェイト」
「ここが、今日から私達が暮らす街よ」

 お父さんとお母さんが僕の頭を撫でてくれる。
 二人は笑顔だ。
 これから始まる新しい生活を楽しみにしているのかもしれない。

 それは僕も同じで……

「お父さん! お母さん! 街を探検してきてもいい?」
「うーん……気持ちはわからないでもないが、迷子にならないか心配だね」
「フェイト、道はわかる?」
「うん。新しいおうちは、公園の近くにあるお花屋さんの隣だよね?」
「もう覚えているの? ふふ、フェイトは賢いわね」
「これなら心配はいらないかな? ただ、もしも道に迷ったなら、大人の人にこれを見せるんだよ。家の場所が書かれているから、案内してもらうといい」
「うん。ありがとう、お父さん」

 お父さんから地図を受け取り、それをポケットへ。
 そして僕は、新しい街の探検を始めた。



――――――――――



 この街の名前は、スノウレイク。
 雪に包まれた街だ。

「すごいなー、すごいなー。これが雪なんだ」

 歩くと、サクサクという感触が伝わってくる。
 今まで味わったことのない、初めて。

 手で雪をすくってみると、すごくひんやりとした。
 さらにそのまま持っていると、今度はチクチクするような感じで、ジーンとなる。

「おー」

 これが雪。
 すごい、すごい、すごい。

「良いこと、いっぱいありそう!」

 初めて見る雪に、僕はいっぱい元気になっていた。
 このまま、街をぐるりと駆け回ることができそうだ。

 というか、実際に走ってみようかな?
 それくらいに元気が有り余っていて、体を動かしたい気分だ。

「よーし、さっそく……!」

 僕は、おもいきり走り出して……

「うわっ!?」

 地面が凍っていて、ツルッと滑ってしまう。

 走っていたから勢いがついていて……
 ダメだ!

 思わず目をつむる。

「……あれ?」

 でも、衝撃は訪れない。
 代わりに、ぱふん、という柔らかい感触。

「あの……大丈夫ですか?」

 恐る恐る目を開けてみると……
 僕は、女の子に受け止められていた。

 いや。

 女の子なのだろうか?
 その子は、まるで妖精のようだった。

 透き通るような髪は、雪のように輝いていた。
 肌も白く、まるで人形みたい。

「……」
「もしもし?」
「はっ!?」

 再び声をかけられて我に返る。

 びっくりした。
 女の子が綺麗だから……
 本当に綺麗だから、頭の中がまっしろになっていた。

 なんだか、胸がすごくドキドキするけど……
 なんだろう、これ?

「大丈夫ですか?」
「あ……う、うん! 大丈夫だよ。助けてくれてありがとう」
「いいえ、どういたしまして。ただ、急ぎの用事でもない限り、走らない方がいいですよ? ところどころ、地面が凍っていますからね」
「うん、そうだね……ごめんね」
「ふふ、私に謝らなくても」
「あ、そうだね。つい」

 なんだか無性におかしくなり、笑う。
 すると、女の子もくすくすと笑い始めた。

「……」
「どうしたんですか? 私の顔を見て」
「う、ううん、なんでもないよ」

 よくわからないけど……
 笑う女の子から目が離せなかった。
 なんだろう?

「ところで……あなたは見たことのない顔ですが、どちらから?」
「今日、この街に引っ越してきたんだ。お父さんとお母さんは家にいて、僕は街の探検をしようかな、って」
「そうだったんですね……あの、よかったら私と友達になってくれませんか?」
「うん、もちろん!」

 笑顔を交わして、女の子と握手をする。

「僕は、フェイト! フェイト・スティアートだよ」
「私は、ソフィア・アスカルトです。よろしくお願いします」
「う、うん! よろしくね」

 ……これが、僕とソフィアの出会い。
 一生忘れることのできない、とても大事な思い出の一つだ。