いくらかの店を見て回り……
 ソフィアと一緒に公園を散歩して……

 ほどよくお腹が空いてきたところで、昼ごはんにすることにした。

「このお店は、リーフランドで一番のオススメですよ」
「なんだか、すごいおしゃれなところだね」

 ソフィアに案内されてやってきたのは、魚料理を専門とするお店だった。
 店に入ると、すでに良い匂いがして、お腹が鳴ってしまいそうだ。

「うーん、どれにしようかな?」

 香草焼き、パイ包み、塩釜焼き……たくさんのメニューがあって迷う。
 それはソフィアも同じみたいで、じっとメニューを見つめていた。

「久しぶりにパイ包みを……いえ、でもシンプルに焼くだけの魚も捨てがたいですね。しかし……」
「ねえ、ソフィア」
「はい?」
「迷っているなら、二人で気になるものを頼んで、後でシェアしない?」
「いいんですか?」
「うん、そうした方がお得かな、って」
「では、そうしましょう」

 こうして、メニューが決定。
 店員に注文を伝えた後、しばらく他愛のない話をして、のんびりとした時間を過ごして……
 ほどなくして料理が運ばれてきた。

「「わぁ」」

 絵画のように綺麗な料理を前にして、ソフィアと一緒に感嘆の声をあげる。
 綺麗なだけじゃなくて、良い匂いがする。
 食欲を刺激される匂いで、人目がなかったらそのままかじりついていたかもしれない。

 ちなみに、僕の料理は香草焼きをメインとしたランチセット。
 ソフィアは、パイ包みのセットだ。
 ドリンクとサラダ、パンとデザートがついてくる、なかなかにお得で豪華だったりする。

「それじゃあ……」
「いただきます」

 さっそく料理を一口。
 うん、おいしい!
 魚はしっかりと下ごしらえと味付けがされていて……
 それを香草と一緒に焼くことで、風味が加わっていて、とても上品な味に仕上がっていた。
 それでいて食欲が刺激されるような味付けでもあるので、どんどん食べられそうだ。

「ここの料理、すごくおいしいね」
「そう言っていただけると、私もうれしいです。小さい頃からの馴染みのお店なので」
「ソフィアの料理は、どう?」
「とてもおいしいですよ。あと、懐かしいです。色々とあって、なかなか来ることができなかったので……はむ」

 ソフィアは、満面の笑みで魚のパイ包みを食べている。
 笑顔がこぼれ落ちてしまいそうで、とても幸せそうだ。

 そんな彼女の顔を見ていると、僕も幸せな気持ちになる。
 うん。
 やっぱり僕は、ソフィアのことが大好きなんだな。

「……」

 ふと、ソフィアがじっとこちらを見ていることに気がついた。

 いや。
 僕じゃなくて、手元の料理を見ている。
 物欲しそうな感じで、どことなくアイシャと似ていた。
 さすが母娘。

「香草焼き、食べる?」
「いいんですか?」
「元々、シェアしようっていう話だったから。えっと……」

 ふと、ちょっとしたいたずらを思いついた。

 僕は魚の香草焼きを切り分けて、フォークに乗せる。
 それをソフィアの前に差し出した。

「あーん」
「え?」
「あーん」
「えっと、その……私、自分で……」
「ほら、あーん」
「うぅ……」

 ソフィアは恥ずかしそうに頬を染めた。
 ただ、どことなく期待している感じで、その瞳はキラキラとしている。

 ソフィアって、普段の態度からはあまり想像できないんだけど、こういうテンプレ的なやりとりが好きなんだよね。
 たまに、こういうことをしてほしそうにこちらを見ることがある。

 僕も恥ずかしいので、本当はあまりしたくないのだけど……
 でも、今日はせっかくのデートだ。
 ソフィアが喜ぶこと、なんでもしてあげたいと思う。

「はい、どうぞ」
「……あーん」

 恥ずかしそうにしつつ、ソフィアはぱくりとフォークを咥えた。

「どう? おいしい?」
「……緊張して、あまり味がわかりませんでした」
「そんなに緊張するの?」
「します! フェイトにあーんをしてもらうなんて……はぁ、ここは天国ですか」

 うっとりとした顔に。
 大げさだなあ、と思うのだけど……

 でも、僕がソフィアにあーんをされたら、どうなるだろう?
 うん。
 同じ反応を見せると思う。
 大げさじゃないか。

「なら、もっとあーんをしようか?」
「い、いえ。これ以上は恥ずかしいので、普通に分けてくれれば……」
「僕は、あーんがしたいかな」
「む……」

 ソフィアが拗ねたように唇を尖らせた。
 それから、ニヤリと唇の端を吊り上げる。

 あ。
 これは、いけないスイッチが入ってしまったかも。

「ねえ、フェイト」

 ソフィアが身を乗り出すようにして、顔を近づけてきた。
 ともすれば唇が触れてしまいそうな距離で……

 な、なんでこんなことに?
 ドキドキが止まらない。

「ソースがついていますよ」
「え?」
「……ん」

 ペロリと頬を舐められてしまう。

 ソフィアは、やけに艶めかしい仕草で舌を動かして……
 それから、舐め取ったソースをごくんと飲み込んだ。

「ふふ、フェイトの味がします」
「え、えっと……うあ……」

 顔が熱い。
 ソフィアをまともに見ることができなくて、ついつい視線を逸らしてしまう。

 そんな僕を見て、

「ふふ、フェイトはかわいいですね」

 ソフィアは妖しく、そんなことを言うのだった。

 まだまだ彼女には敵わない。
 そう思い、僕はやれやれと天井を見上げた。