リーフランドは緑豊かな街だ。
 こうして街を歩いていると、そのことを強く思う。

「うーん……ソフィア、遅いな」

 街の中央にある噴水の前で、僕はのんびりとソフィアを待っていた。

 今日は休暇にして……
 ソフィアと一緒に、のんびりと街の観光をする予定だ。

 アイシャとリコリスは、エドワードさんとエミリアさんと一緒にいるらしい。
 なので、ソフィアと二人きり。

「デート……なのかな?」

 言葉にすると、なんともいえない恥ずかしさがこみあげてくる。
 それと同時に、うれしさも。

 色々なことがあって忙しくて、のんびりすることができなかったらし……うん。
 今日は、楽しい一日になるといいな。

「どうしたのかな?」

 ただ、肝心のソフィアが姿を見せない。

「デートは待ち合わせが基本です!」

 なんてことを言われて、噴水の前で待っているんだけど……
 おかしいな?
 もう時間は過ぎているんだけど。

「お、おまたせしました!」
「あ、ソフィア。よかった、なにかあったんじゃない……かと、思って……いた?」

 息を切らしながら、ソフィアが駆けてきた。
 その姿は、僕が知るソフィアとぜんぜん違う。

 清潔感のあるワンピース。
 それと、シンプルな帽子とバッグ、アクセサリーなどの小物。
 それらを身にまとうことで、ソフィアは剣士ではなくて、深窓の令嬢という感じの装いに変化していた。

「すみません、準備に少し時間がかかってしまい」
「……」
「あの……フェイト? 怒っていますか……?」
「……」
「うぅ……フェイト、なにか言ってください。そこまで怒るなんて、私は……」
「……はっ!?」

 ソフィアがあまりにも綺麗なものだから、言葉をなくしてしまうくらい見惚れてしまった。

「え? え?」
「あれ?」

 ソフィアが真っ赤になる。

 しまった。
 今、考えていたことをそのまま口に出していたみたいだ。

「あ、ありがとうございます……」
「ど、どういたしまして……?」
「……」
「……」

 互いに恥じらい、顔を熱くしてしまう。

「えっと……今日のデート、とても楽しみにしていまして、がんばっておしゃれをしてみたのですが……本当に似合っていますか?」
「う、うん。すごく似合っているよ。いつもの何倍も綺麗でかわいくて……ご、ごめんね。こんな言葉しか出てこなくて」
「いえ、そんな! フェイトにそう言ってもらえるだけで、私はとても幸せです」

 ソフィアが、とてもうれしそうにはにかむ。

 やばい。
 その格好でそんな笑みを見せられたら、本気でどうにかなってしまいそうだ。

「……」
「……」

 妙な沈黙。
 でも、気まずいわけじゃなくて、一緒にいるだけで幸せというか……
 とても温かい気持ちになる。

「い、いこうか」
「そ、そうですね」

 こうして、僕とソフィアのデートが始まった。



――――――――――

「あっ、フェイト、見てください」

 露店を見て回っていると、ソフィアが足を止めた。
 手作りのアクセサリーが並べられている店で、リングにブレスレットにネックレスに、色々な種類がある。

「このリング、フェイトに似合うと思うますよ?」
「え、僕?」
「はい。派手ではなくて、しかし存在感がないわけではなくて、フェイトにピッタリだと思います」
「男の僕がリングなんてつけても……」
「ダメですよ」

 ツン、と鼻先を指で押されてしまう。

「男性でもおしゃれは必須です。リングをつけるのも、特別おかしなことではありません」
「そうなの?」
「そうですよ」

 なるほど、勉強になる。
 最近は強くなることだけを考えていて、おしゃれなんてぜんぜん頭になかった。

 でも……うん、そうだよね。
 こんなにも綺麗なソフィアと一緒にいるんだから、少しでも釣り合いがとれるように、僕もがんばらないと。

「あ、あの……フェイト? そんな風に言われてしまうと、その……恥ずかしいです」
「ご、ごめん」

 またしても言葉にしていたみたいだ。

 いけない、いけない。
 ソフィアとデートだから、今日は浮かれているのかもしれない。

「えっと……ソフィアのおすすめは、このシルバーのリング?」
「あ、はい。そうですね。それが一番、フェイトに似合うと思いますよ」
「そっか」

 手作りだからなのか、そんなに高くない。
 お手頃価格だ。

 おもいきって買ってみようかな?
 あ、待てよ?
 それよりは、ソフィアとおそろいにして……

 薬指にリングをつけて、にっこりと笑うソフィアを想像してしまう。

「いやいやいや!」
「フェイト?」
「な、なんでもないよ! うん、なんでも!」

 確かに、それも同じリングだけど!
 でも、まだそういうことは早いというか、僕にもっと甲斐性がないとダメというか!
 いずれとは思うけど、今はまだダメ。

 というか、今の妄想、口にしていなくてよかった……

「つ、次に行こうか!」
「え? あ、はい」

 どうしても照れくさくなり、ソフィアの顔を見ることはできず……
 でも、その手を掴んで引いて、他へ移動した。