「……んぅ?」

 窓から差し込む陽の光で目が覚めた。

 カーテンが全部閉まっていなかったらしく、明るい空が見えた。
 今日の天気は快晴。
 うん。
 良い一日になりそうだ。

「って……あれ?」

 布団が盛り上がっていた。
 なんだろう、これ?

 不思議に思いつつ、布団をめくってみると……

「すぅ、すぅ……んん……くぅ……」

 くるっと体を丸めて、アイシャが気持ちよさそうに寝ていた。

「いつの間に」

 ソフィアと一緒に寝ていたと思うんだけど……
 夜中、トイレに起きるなどして、その帰りで間違えてこっちに来ちゃったのかな?

「……わふぅ……」

 そっと頭を撫でると、気持ちよさそうな顔に。
 その顔を見ていると、なんともいえない温かい気持ちになる。

 うん。
 僕は、アイシャの父親だ。
 そして、アイシャは大事な娘。
 そのことを再認識した。

「だからこそ、これからのことをしっかりと考えないと」



――――――――――



「なるほど、そんなことが……」

 みんなが起きて、朝食を済ませて……
 それから、僕とソフィアとエドワードさんは情報交換をしていた。

 ちなみに、リコリスとアイシャはいない。
 子供に聞かせるような話じゃないので、エミリアさんに遊んでもらっている。

「謎の襲撃者、魔剣、そして黎明の同盟……」
「なにかが動き始めている、と言っても過言ではありませんね」
「そして、それにアイシャが関わっている可能性が高い……」

 昨夜の話をまとめると、そんな結論に達した。

 敵の狙いはアイシャ。
 そして、魔剣が関わっている。

「厄介な状況ですね……」
「なにがどうなっているのか、情報がまったく足りていないところが問題だよね」

 魔剣。
 黎明の同盟。
 そして、アイシャが狙われる理由。

 それらの情報が圧倒的に足りていない。
 どう動けばいいか、頭を悩ませてしまう。

「ふむ……ならば、魔剣については儂の方で調べておこう」
「いいのですか、お父さま?」
「儂が選んだソフィアの許嫁が魔剣を所持していた。そして、その父親は、儂の敵対者」

 エドワードさんがアイザックを許嫁に選んだ理由は、敵対する派閥と講和するためだったらしい。
 あと、アイザックもわりと好青年だったと聞くのだけど……
 僕は、魔剣によって変貌した後の彼しか知らないので、そこはなんとも言えない。

「今回の一件、儂も無関係とは言えぬ。それに、黎明の同盟とやらも放置しておくわけにはいかないだろう。単純なテロリストではないようだが……その戦闘力、組織力を見るからに、放置できるものではない」
「お願いします、お父さま」

 ソフィアがぺこりと頭を下げて、エドワードさんがしっかりと頷いてみせる。

 うーん。
 この二人、剣を交わしているところしか見ていないから、こんなやりとりは新鮮だ。
 できるなら、このまま仲良くいてほしい。

「なら、僕達はアイシャのことを調べようか」

 そもそも……
 アイシャって、けっこう謎が多い。

 なぜ捕まっていたのか?
 ドクトルは、彼女になにをしようとしていたのか?
 今回、狙われた理由は?

 たぶん、魔剣が関わっているのだろう。
 それと黎明の同盟も。

 でも、今のところ情報はゼロ。
 今朝、軽くアイシャに聞いてみたけど、彼女も心当たりがまるでないようだった。

「なんで、アイシャが狙われているのかな?」
「わかりませんが……ですが、よからぬ輩がいるというのなら、全て叩き斬るまでです」
「うん、そうだね。アイシャのことは、僕達が絶対に守らないと」
「……」

 エドワードさんは、どこか眩しそうな顔をしてこちらを見ていた。

「エドワードさん? どうしたんですか?」
「……ソフィア」
「はい?」
「すまなかった」

 エドワードさんが深く頭を下げた。

「お父さま……?」
「許嫁の件、お前に黙って勝手に進めたこと、間違いだったと反省している。今のお前を見て、ようやく理解した。お前が笑顔でいられるのは、そこの小僧……いや、スティアートくんのおかげなのだな」
「……お父さま……」
「スティアートくん」
「は、はい」
「散々、ひどいことを言っておいて今更と思うかもしれない。虫の良い話だ。それでも……どうか、これからもソフィアと一緒にいてくれないだろうか?」

 ようやく、僕達の気持ちがエドワードさんに通じた。
 そのことがうれしくて幸せで、ついつい感動で泣いてしまいそうになる。

 でも、涙は見せない。
 代わりに笑顔を。

「はい、もちろん!!」
「ありがとう」

 色々とあったものの、最終的に和解することができた。
 うん。
 ソフィアの許嫁の件に関しては、ハッピーエンドと言ってもいいのではないだろうか?

 まあ、アイシャの件に関しては、さらに問題と謎が増えたのだけど。

「これからどうしようか?」

 アイシャのことを放置しておくわけにはいかない。
 今回のように、また狙われてしまうかもしれない。

 根本的な問題を解決するため、彼女の謎など、全てのことを知っておきたいのだけど……
 うーん、どうしたものだろう?

「なら、ブルーアイランドへ行くといい。彼の地には、獣人に詳しい学者が住んでいると聞く。アイシャちゃんのことがわかるかどうか、なんとも言えぬが……なにも得られないということはないだろう」
「そう、ですね……そういうことならば……フェイト、どうしますか?」
「うん。他に手がかりもないし、ブルーアイランドを目指してみよう」

 こうして、僕達の次の目的地が決まった。