「誰だ!?」

 突然の声に、慌てて振り返る。

「やっほー」
「……レナ?」

 この場にそぐわない呑気な挨拶をするのは、レナだった。

 街の食堂で出会った女の子。
 一度しか顔を合わせていないのだけど……
 いきなり告白? をされたものだからよく覚えている。

「どうしてここに?」

 剣を構えつつ、問いかける。

 女の子に剣を向けるなんて……
 と思わないのでもないけど、でも、レナは別だ。

 こうして対峙しているだけでイヤな汗が止まらない。
 まるで猛獣が目の前にいるかのようだ。

 いや……猛獣で収まるだろうか?
 それ以上のなにか。
 それこそ、物語の中に出てくる悪魔や魔王というような、そんな類の存在に思えた。

 そんな僕を見て、レナが不満そうな顔に。

「むうー。今はその気になっているとはいえ、その反応は傷つくなあ」
「え? あ……その、ごめんなさい」
「……」

 頭を下げると、レナがぽかんとなる。
 そして、大きな声で笑い始めた。

「あはっ、あははは! そこで素直に謝っちゃうの? もう、どこまでお人好しなのさ。あはははっ」
「そこで笑われても……」
「ごめんごめん。でも、フェイトがあまりにも予想外のことをするんだもん。フェイトのせいだよ? うん、フェイトが悪い」
「えぇ……」
「うーん、やっぱりフェイトはおもしろいなあ。是が非でもボクのものにしたくなってきたけど……まずは、その前に」
「え?」

 蜃気楼のようにレナが消えてしまう。

 幻と話をしていた?
 いや、そんなわけがない。
 いったい、どこへ……

「はい、回収完了」
「なっ……!?」

 いつの間に回り込んだのか、レナは後ろに移動していた。
 その手には魔剣が握られている。

「それをどうするつもり!?」
「今は回収するだけだよん」
「回収……?」
「この魔剣は、ボク達が提供したものだからね。レンタル形式だから、後で返してもらうのは当然だよね? そこそこのやつを渡したし、うまいこと剣聖を誘拐できたから、聖剣を手に入られると思ったんだけど……うーん、ダメか」

 ということは、アイザックの本当の狙いはソフィアじゃなくて聖剣?

「レナ、キミはいったい……」

 何者なんだ?

 以前会った時は、高位の冒険者だと思っていた。
 見た目はかわいい女の子だけど……
 でも、とんでもない実力者という展開もある。

 身近に、そういう例があるし。

 でも、彼女は冒険者なんかじゃない。
 それ以上の存在というか……
 今まで出会ったことのタイプの人だ。

「やだなあ。私は、どこにでもいるような普通の冒険者だよ?」
「……」
「そんなわけないだろー、っていう目だね。うん。そうだよねー、今更、それは通用しないか」

 考えるような仕草。
 ややあって、レナはニヤリと笑う。

「んー……そうだね。せっかくだから自己紹介しておこうか」

 レナが軽く手を振ると、その手に持っていた魔剣が消えてしまう。
 いったいどこに……?

 僕の驚きを気にすることなく、レナは優雅に一礼してみせる。
 そして、己の正体を告げた。

「ボクは、レナ・サマーフィールド。『黎明の同盟』に所属する、魔剣士だよ」