ドクトルが所有していたものと形状は異なるけれど……
 アイザックが持つ剣は、確かに魔剣だった。

 アイザックがニヤリと、悪意たっぷりの笑みを浮かべる。

「ほう、魔剣のことを知っていますか。少しは学があるようですね」
「どこで、それを……?」
「素直にしゃべるとでも?」
「だよね」

 僕は、改めて剣の柄を強く握る。

「なら、力づくで吐かせてみせる!」

 魔剣についての情報は大して持っていない。
 わかっていることは、すごい力がある、ということだけ。

 普通に考えるなら最大限に警戒をして、まずは様子を見なければいけない。
 きっと、それが最善だと思う。

 でも、僕はあえて踏み込むことにした。
 先手を打ち、こちらから攻撃をしかける。

「神王竜剣術、壱之太刀……破山っ!!!」

 天を突くように剣を構え、一気に振り下ろす。

 ギィンッ!!!

 アイザックは、こちらの一撃をしっかりと受け止めてみせた。
 そして反撃に……

「まだまだ!」
「くっ」

 反撃に移る間を与えず、連続で剣を叩き込んでいく。
 下から上に跳ね上げる。
 そこから斜め下に薙ぎ払い、体を回転させつつ、剣の腹をぶつける。
 連続して突きを放ち、時折、蹴撃も織り交ぜてやる。

「く……この卑怯者め! 剣だけで戦わないか!」
「戦いに卑怯もなにもないよ!」

 アイザックが吠えるけど、それは全て無視。
 僕は、ひたすらに攻撃を繰り返して、ありとあらゆる角度から斬りつけてやる。

 そうやって戦闘を続けることで理解した。
 アイザックは怖くない。
 魔剣を持っていたとしても、大して強くない。

 ドクトルは強敵だった。
 元冒険者ということで、かなりの戦闘技術を有していた。
 そのため、魔剣の力を全開に引き出すことができて、僕とソフィアの二人がかりでないと倒せないほどだった。

 でも、アイザックは違う。
 剣は学んでいるみたいだけど、圧倒的に技術が足りていない。
 実戦経験が少なすぎる。

 そんなことで魔剣の力を引き出すことはできない。

「やっぱりだ」
「なに?」
「あなたは、大して怖くない。ドクトルと対峙した時と違って、なにも感じない。うん……大したことはない」
「貴様っ、この俺を愚弄するか!?」
「事実を述べたまでだよ」
「殺すっ、貴様だけは俺の手で殺してあげますよ!」

 激高したアイザックは、でたらめに魔剣を振り回してきた。
 怒りのせいで集中力が落ちていて、精度がとても甘い。
 こんな剣に当たる気はしない。

 こんな簡単な挑発にかかってしまうなんて……
 うん。
 本当に大したことはなさそうだ。

「ソフィアを返してもらうよ」
「貴様とて、自分のもののように言うではありませんか!?」
「僕とソフィアの心は同じだって、そう断言できるから」

 わがままな考えかもしれないけど……
 でも、ソフィアに関してだけは、そう言うことができる。
 そう確信している。

 だって彼女は……

「ソフィアは、大事な幼馴染なんだから!」
「このガキがぁっ!!!」
「神王竜剣術、四之太刀……」

 剣を鞘に戻した。
 ただし、手は柄に添えたまま。
 深く、深く構える。

 すぅうううと、息を吸う。
 それと同時に力を貯めて、貯めて、貯めて……

 一気に解き放つ!

「蓮華!」

 超高速の抜剣術。
 ちゃんと教えられたわけではなくて、見様見真似のものだけど……
 それでも、成功した。

 風を巻き取るように放つ刃が、アイザックの脇腹を撃ち抜く。
 彼はまったく反応することができなかった。

「がっ……!?」

 小さな悲鳴。
 それと、肺から強引に空気が絞り出される音。

 アイザックはぐらりとよろめいて……
 そのまま、白目を剥いて倒れた。
 さすがに殺すのはどうかと思うから、一応、刃は立てていない。

「……ふう」

 アイザックが完全に気絶していることを確認してから、雪水晶の剣を鞘に戻した。

「おー、フェイトってば、めっちゃ強くなってるじゃない。なんか、あたしの予想を上回る成長速度?」
「この前の、ソフィアとの稽古がよかったんだと思うよ」
「なにしたかわからないけど、ボロボロになるまでやってたからねー。そこまでがんばれるのは、素直にすごいと思うわ。フェイトって、努力の天才なのね」
「そうかな?」
「そうよ。このリコリスちゃんが褒めてあげているんだから、少しは誇りなさい」
「うん。ありがとう、リコリス」

 これで障害は排除した。
 あとはソフィアを助けるだけなのだけど……

「その前に、魔剣を回収しておこうか」

 ドクトルの魔剣は砕け散ってしまったけど、幸いというべきか、アイザックの魔剣は無傷だ。
 こんなものを放置することはできないし……
 鑑定などをすることで、なにかしら得られるものがあるかもしれない。

 そう思い、僕は魔剣に手を伸ばして……

「うーん、それを回収されるのはちょっと困るかな?」

 ふと、そんな声が割り込んできた。