ギィンッ!!!

 鉄と鉄がぶつかる、甲高い音が響いた。

「ぐっ……!」

 僕の全力の一撃を、男はしっかりと受け止めてきた。
 ただ、さきほどと違い、反撃に移る余裕はないらしい。

 刃と刃が競い合う。
 力比べをする形となり、互いに全力で剣を押し込んでいく。

「このぉ……!!!」
「ぐぅ!?」

 全身の筋肉を使い、ありったけの力を振り絞る。
 体ごと前に倒れるような感じで、剣を押し出した。

 一瞬ではあるが、男が僕の圧に押され、バランスが崩れた。

 その隙を見逃さない。
 足で地面を蹴るようにして、さらに突撃。
 全体重をかけて、押し切る!

 ガッ!!!

 ついに、男が完全に体勢を崩した。
 僕の剣圧に負けて、吹き飛ばされる。
 背中から壁に激突して、小さな悲鳴がこぼれるのが聞こえた。

 このまま一気に……!

 決着をつけようとするのだけど、

「っ!?」

 ゾクリとした悪寒を覚えて、足を止めた。
 距離を保ち、油断なく剣を構える。

「ぐっ、この俺が……なんてことだ、俺は正しい、正しいんだ……力こそ正義なんだ」
「なんだ……?」

 今のとんでもない殺気……男のものじゃない?

 男は確実にダメージが蓄積されているらしく、明らかに動きが鈍っていた。
 そんな彼が、あんなにも冷たく鋭利な殺気を放つことができるとは思えない。

 だとしたら、今のはいったい……?

「……いや」

 考えるのは後だ。
 今は、この男との決着を。

「……」
「……」

 こちらが戸惑っている間に、男は体勢を立て直してしまう。
 ただ、すいぶんと弱体化しているように見えた。
 心なしか、魔剣も力を失いつつあるように感じる。

 あと一歩、というところかな?
 ただ、破山は近接専用の技だ。
 手負いの獣ほど怖いというし、なるべくなら接近戦は避けたい。

 リスクを恐れていたら、勝利を掴むことはできない。
 でも、無謀な蛮勇は勇気とは違う。

「……よし」

 少し考えて、覚悟を決めた。

 剣を鞘に戻した。
 その上で、左手で鞘を支え、右手でしっかりと剣の柄を掴む。

 深く、深く構える。

 脳裏にソフィアの姿を思い浮かべつつ……
 その綺麗な動作を再現しつつ……
 剣を抜く。

「神王竜剣術・四之太刀……」

 駆ける。
 駆ける。
 駆ける。

 どこまても高く。
 誰よりも速く。

 そして……抜剣。

「……蓮華」

 ソフィアが見せた、超高速の抜剣術。
 みよう見まねで、ソフィアが見たら、たくさんの粗を指摘されるだろうけど……
 それでも、できた。

 そして、届いた。

「……がっ」

 男の魔剣が半ばから折れた。
 それと同調するかのように、男は小さな悲鳴をあげて、崩れ落ちた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 念ために構えは解かないのだけど、男が立ち上がる気配はない。
 胸元が動いているところを見ると、気絶しているだけのようだ。

 よかった。
 僕自身を優先すると決めたものの……
 それでも、やっぱり、できるなら命は奪いたくないと思っていた。

 僕は、こうして生き延びることができた。
 そして、男を倒すことができた。
 魔剣も折ることができた。

 うん。
 これ以上ないくらい、最善の結果だ。

「ふう」

 もう大丈夫。
 そう判断して、剣を鞘に収めた。

 その時だった。

 パチパチパチと、どこからともなく拍手が響いてきた。

「え?」

 気配なんてなかった。
 僕と男の他に、誰もいないはずだった。

 それなのに、どこから……
 いや。
 いったい、誰が?

「いやー、すごいね。うん、本当にすごいと思うよ。おめでとう」

 そう言って、笑顔を浮かべていたのは……レナだった。