「うぅ……恥ずかしいです」
あれからしばらくして、ソフィアが落ち着きを取り戻して……
そして、今度は真っ赤になった。
幼児退行して、大泣きしてしまったのだから、まあ、気持ちはわからないでもない。
でも、僕はうれしく思っていた。
だって、それだけ彼女が僕のことを大事に想ってくれているから。
そのことがしっかりと伝わってきて、リコリスとアイシャの目がなければ、ニヤニヤして、ソフィアを抱きしめてしまいそうだ。
……とはいえ、そういうことは後で。
まずは、エドワードさんに認めてもらわないといけない。
そのために、漆黒の剣鬼を捕まえないといけない。
まあ……エドワードさんの件がなくても、漆黒の剣鬼なんて物騒な存在を放置しておくことはできない。
リーフランドは僕の故郷じゃない。
でも、ソフィアの故郷で、大事な街だ。
困っていることがあるのなら、なにかしたいと思う。
「それで……フェイト、体は大丈夫ですか?」
「うん、問題ないよ。丸一日寝ていたみたいだから、ちょっとだるいけど、それだけ。動けばすぐに解消されると思うし、今からでも、漆黒の剣鬼にリベンジマッチを挑みたいくらいかな」
「わざわざフェイトが戦わなくても、いいのですよ? 私がお手伝いをすれば、問題なく……」
「ううん、それは最後の手段で」
ソフィアと稽古を重ねた今の僕なら、漆黒の剣鬼に手が届きそうな気がする。
戦い方の覚悟が決まったというか……
技術は短時間で伸びることはないのだけど、心の方は、これ以上ないほどに鍛えられたと思う。
それでも手が出ないのなら……
悔しいけど、その時はソフィアにお願いしよう。
できることなら僕が、と思わないでもないのだけど、でも、僕のプライドよりも街の人の安全が第一だ。
「そういえば、今は何時?」
「もうすぐ、陽が沈み始める頃ですよ」
「なら、ちょうどいいタイミングかな」
ギルドの情報によると、漆黒の剣鬼がもっとも盛んに活動する時間帯は、夜だ。
前回は、昼に遭遇したのだけど……
たぶん、あれは偶然だろう。
また起きるかわからない偶然を期待するよりは、情報を頼りに、夜の街を散策した方がいい。
「それじゃあ、まずはごはんを食べようか」
「ごはん……ですか?」
「フェイトってば、いつの間にそんな食いしん坊になったのよ?」
「丸一日、なにも食べていないから、お腹がペコペコなんだ。肝心な時に空腹だと力が出ないし、それに……」
「それに?」
「アイシャもお腹が空いているみたいだから」
よく見たら、アイシャの尻尾が落ち着きなくフリフリされている。
時折、お腹を押さえていて……
たぶん、ずっと看病してくれていたんだろうな。
「あぅ」
アイシャは恥ずかしそうにするものの、僕からしたら、それは勲章のようなもの。
うん、かわいい。
「そういうことなら、まずは食事にしましょうか」
「まー、あたしもクッキーじゃ物足りないって思ってたけど、そんなにのんびりしてていいの? 例の殺人鬼が、早く活動するかもしれないのに」
「大丈夫」
「やけに自信たっぷりね。相手の出方が想像できるの?」
「うん」
漆黒の剣鬼の姿を思い返しつつ、断言するように言う。
「ヤツの次の狙いは、たぶん、僕だから」
――――――――――
漆黒の剣鬼は男。
その得物は、見たことがない種類の剣で、かなりの業物に見えた。
人を襲っているのは……
たぶん、剣の試し切りをしているのだろう。
己の力を過信して、武器の力に酔い、凶行を繰り返している。
そんなタイプの人間に心当たりがある。
シグルドだ。
ヤツは、シグルドと同じタイプだと思う。
自分に絶対的な自信を持っていて、そして、プライドが異常なまでに高い。
寡黙ではあったのだけど、ソフィアが現れて、僕にトドメを刺せなかったことをとても腹立たしく思っているだろう。
なにしろ、漆黒の剣鬼と戦い、生きているのは僕だけなのだから。
それが、ヤツのプライドを傷つける。
傷ついたプライドを回復させるには、僕を斬るしかない。
故に、ヤツの次のターゲットは僕だ。
「……と、いうわけ」
ごはんを食べた後、僕の推理をみんなに聞いてもらう。
「なるほど……私はチラリと見ただけですが、確かに、漆黒の剣鬼はプライドが高いように見えました」
「見ただけで、そんなことわかるわけ?」
「気配や足運びなどで、大体の性格はわかりますよ」
「ソフィアって、怖いわね……」
「ちなみにリコリスは……ふふ、言わないでおきますね」
「言ってよ!? そこで内緒にされると、めっちゃ気になるんですけど!?」
「おかーさん、わたしは?」
「アイシャは、とても優しくてかわいくて、天使みたいな女の子ですよ」
「えへへ」
とても微笑ましい光景だ。
リコリスが騒いでいるものの……
まあ、それはいつものこと、ということで。
「だから、僕をエサにすれば、わりと簡単に誘い出せると思う」
「フェイトをエサにするというのは、ちょっと賛成できないのですが……」
「ごめんね、ソフィア。心配してくれているのはわかるんだけど、今回は、僕のわがままを許してくれないかな?」
「ですが……」
「僕にも、プライドはあって……まあ、それはわがまま以外の何者でもないんだけど。でも、ここで折れたらダメだと思うんだ」
「……フェイト……」
もっと強くなるために。
ソフィアにふさわしい男になるために。
ここで、漆黒の剣鬼という壁を乗り越えないといけない。
「だから、お願い。僕に任せてほしい」
「……」
「ソフィア」
「うぅ……もう、わかりました。わかりましたよ」
ソフィアは困ったような顔をして、ため息をこぼして……
それから、親のような感じで微笑む。
「私が守らなければ、と思っていたのですが……フェイトは、やっぱり男の子なのですね」
「ありがとう」
こうして、僕は再び、漆黒の剣鬼と戦うことを決めた。
あれからしばらくして、ソフィアが落ち着きを取り戻して……
そして、今度は真っ赤になった。
幼児退行して、大泣きしてしまったのだから、まあ、気持ちはわからないでもない。
でも、僕はうれしく思っていた。
だって、それだけ彼女が僕のことを大事に想ってくれているから。
そのことがしっかりと伝わってきて、リコリスとアイシャの目がなければ、ニヤニヤして、ソフィアを抱きしめてしまいそうだ。
……とはいえ、そういうことは後で。
まずは、エドワードさんに認めてもらわないといけない。
そのために、漆黒の剣鬼を捕まえないといけない。
まあ……エドワードさんの件がなくても、漆黒の剣鬼なんて物騒な存在を放置しておくことはできない。
リーフランドは僕の故郷じゃない。
でも、ソフィアの故郷で、大事な街だ。
困っていることがあるのなら、なにかしたいと思う。
「それで……フェイト、体は大丈夫ですか?」
「うん、問題ないよ。丸一日寝ていたみたいだから、ちょっとだるいけど、それだけ。動けばすぐに解消されると思うし、今からでも、漆黒の剣鬼にリベンジマッチを挑みたいくらいかな」
「わざわざフェイトが戦わなくても、いいのですよ? 私がお手伝いをすれば、問題なく……」
「ううん、それは最後の手段で」
ソフィアと稽古を重ねた今の僕なら、漆黒の剣鬼に手が届きそうな気がする。
戦い方の覚悟が決まったというか……
技術は短時間で伸びることはないのだけど、心の方は、これ以上ないほどに鍛えられたと思う。
それでも手が出ないのなら……
悔しいけど、その時はソフィアにお願いしよう。
できることなら僕が、と思わないでもないのだけど、でも、僕のプライドよりも街の人の安全が第一だ。
「そういえば、今は何時?」
「もうすぐ、陽が沈み始める頃ですよ」
「なら、ちょうどいいタイミングかな」
ギルドの情報によると、漆黒の剣鬼がもっとも盛んに活動する時間帯は、夜だ。
前回は、昼に遭遇したのだけど……
たぶん、あれは偶然だろう。
また起きるかわからない偶然を期待するよりは、情報を頼りに、夜の街を散策した方がいい。
「それじゃあ、まずはごはんを食べようか」
「ごはん……ですか?」
「フェイトってば、いつの間にそんな食いしん坊になったのよ?」
「丸一日、なにも食べていないから、お腹がペコペコなんだ。肝心な時に空腹だと力が出ないし、それに……」
「それに?」
「アイシャもお腹が空いているみたいだから」
よく見たら、アイシャの尻尾が落ち着きなくフリフリされている。
時折、お腹を押さえていて……
たぶん、ずっと看病してくれていたんだろうな。
「あぅ」
アイシャは恥ずかしそうにするものの、僕からしたら、それは勲章のようなもの。
うん、かわいい。
「そういうことなら、まずは食事にしましょうか」
「まー、あたしもクッキーじゃ物足りないって思ってたけど、そんなにのんびりしてていいの? 例の殺人鬼が、早く活動するかもしれないのに」
「大丈夫」
「やけに自信たっぷりね。相手の出方が想像できるの?」
「うん」
漆黒の剣鬼の姿を思い返しつつ、断言するように言う。
「ヤツの次の狙いは、たぶん、僕だから」
――――――――――
漆黒の剣鬼は男。
その得物は、見たことがない種類の剣で、かなりの業物に見えた。
人を襲っているのは……
たぶん、剣の試し切りをしているのだろう。
己の力を過信して、武器の力に酔い、凶行を繰り返している。
そんなタイプの人間に心当たりがある。
シグルドだ。
ヤツは、シグルドと同じタイプだと思う。
自分に絶対的な自信を持っていて、そして、プライドが異常なまでに高い。
寡黙ではあったのだけど、ソフィアが現れて、僕にトドメを刺せなかったことをとても腹立たしく思っているだろう。
なにしろ、漆黒の剣鬼と戦い、生きているのは僕だけなのだから。
それが、ヤツのプライドを傷つける。
傷ついたプライドを回復させるには、僕を斬るしかない。
故に、ヤツの次のターゲットは僕だ。
「……と、いうわけ」
ごはんを食べた後、僕の推理をみんなに聞いてもらう。
「なるほど……私はチラリと見ただけですが、確かに、漆黒の剣鬼はプライドが高いように見えました」
「見ただけで、そんなことわかるわけ?」
「気配や足運びなどで、大体の性格はわかりますよ」
「ソフィアって、怖いわね……」
「ちなみにリコリスは……ふふ、言わないでおきますね」
「言ってよ!? そこで内緒にされると、めっちゃ気になるんですけど!?」
「おかーさん、わたしは?」
「アイシャは、とても優しくてかわいくて、天使みたいな女の子ですよ」
「えへへ」
とても微笑ましい光景だ。
リコリスが騒いでいるものの……
まあ、それはいつものこと、ということで。
「だから、僕をエサにすれば、わりと簡単に誘い出せると思う」
「フェイトをエサにするというのは、ちょっと賛成できないのですが……」
「ごめんね、ソフィア。心配してくれているのはわかるんだけど、今回は、僕のわがままを許してくれないかな?」
「ですが……」
「僕にも、プライドはあって……まあ、それはわがまま以外の何者でもないんだけど。でも、ここで折れたらダメだと思うんだ」
「……フェイト……」
もっと強くなるために。
ソフィアにふさわしい男になるために。
ここで、漆黒の剣鬼という壁を乗り越えないといけない。
「だから、お願い。僕に任せてほしい」
「……」
「ソフィア」
「うぅ……もう、わかりました。わかりましたよ」
ソフィアは困ったような顔をして、ため息をこぼして……
それから、親のような感じで微笑む。
「私が守らなければ、と思っていたのですが……フェイトは、やっぱり男の子なのですね」
「ありがとう」
こうして、僕は再び、漆黒の剣鬼と戦うことを決めた。