「……んぅ?」
暗闇の底に沈んていた意識が、ゆっくりと浮上した。
目を開けると、僕達が泊まる宿の天井が見えた。
それと一緒に、ぴょこぴょこと犬耳を落ち着きなく動かしているアイシャの姿も見えた。
僕はベッドに寝ていて……
そんな僕を、アイシャがじーっと覗き込んでいるらしい。
「あっ」
「……おはよう」
「おとーさん!」
アイシャが、ぎゅうっと抱きついてきた。
まだまだ小さいので、重いということはない。
「うぅ」
体を起こすと、アイシャの尻尾がシュンと垂れ下がっているのが見えた。
不安になっている?
アイシャの頭を撫でつつ、問いかける。
「どうしたの、アイシャ?」
「……おとーさん、ずっと寝ていたから心配した」
「ずっと?」
「フェイトってば、丸一日、寝ていたのよ」
ふわりと、そんな声が上から降ってきた。
視線を上げると、リコリスが両手にクッキーを持って、ポリポリと食べつつ飛んでいる。
……器用な真似をするね。
「丸一日も?」
「そ。だから、この子も心配したっていうわけ」
「そっか……ごめんね、アイシャ。心配をかけちゃったみたいで」
「おとーさん、大丈夫……?」
「えっと……」
一度、アイシャに離れてもらい、体を軽く動かしてみる。
動かないところはないし、痛みが走るということもない。
「うん、大丈夫。ずっと寝ていたせいか、ちょっとだるいくらいかな」
「よかった……」
もう一度アイシャを抱き寄せて、頭を撫でる。
そうしていると落ち着いてきたらしく、シュンと垂れ下がっていた尻尾が立ち上がり、左右にフリフリと揺れだした。
かわいい。
ウチの娘は世界で一番じゃないだろうか?
「って……そういえば、ソフィアは?」
アイシャとリコリスはいる。
でも、ソフィアの姿が見当たらない。
「ソフィアならそこにいるわよ」
「そこ?」
リコリスが指差す方を見てみると……
「……」
こちらに背を向けて、部屋の隅で小さく丸くなっているソフィアの姿が。
「ソフィア?」
「……っ……」
声をかけると、その背中がビクリと震えた。
それだけで、振り向いてくれない。
「ねえ、ソフィア?」
「……」
「えっと……どうしたの? そんなところで、虫みたいに丸くなって……落ち込んでいるみたいだけど、なにかあった?」
「……」
何度か声をかけると、ソフィアはゆっくりとこちらを見た。
その目には、涙が。
それと、たまらなく不安そうな表情。
そして……
「……ご」
「ご?」
「ごめんなさいいいいいぃっ!!!」
今度は、ものすごい勢いで頭を下げた。
もう、なにがなにかわからない。
「ごめんなさいっ、すみませんっ! 本当に申しわけありません!」
「え? え? なんで、ソフィアが僕に謝っているの? ねえ、どうしたの?」
「だって……フェイトが丸一日も寝ていたのは、私のせいですから」
「なんで?」
「覚えていないのですか? 私と本気の稽古をして……」
「あ、うん。それは覚えているよ」
本気で死ぬかと思うような、厳しい稽古だった。
だから、体も心も疲れ果ててしまい、丸一日、寝てしまったのだろう。
「私のせいで、フェイトがここまで……うぅ……本当にすみません」
「あ、そういう」
やりすぎたと思っているのだろう。
それで、落ち込んでいるのだろう。
「ごめんなさい、フェイト……言い訳になってしまうのですが、私、剣のことは本気になると加減ができず……そ、それと、本気にならないとフェイトのためにならないと思い……う、うううぅ……嫌いにならないでください、フェイト……」
ソフィアは子供のように泣き出してしまった。
すごく不安そうにしていて、しゃくりあげていた。
まったくもう。
アイシャに目で合図をして、僕の上から降りてもらった。
僕はベッドから降りて、ソフィアのところへ。
そして、大事な彼女をしっかりと抱きしめる。
「……あ……」
「嫌いになんて、なるわけないじゃないか」
「で、でも私、こんなことになるまでフェイトに……」
「それは僕が望んだことだよ。強くなりたい、って……ソフィアの隣に立ちたいと願ったから、本気での稽古を望んだんだよ。むしろ、本気でやってくれて感謝しているよ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「本当の本当ですか?」
「本当の本当だよ」
「本当の本当の本当ですか?」
なんだろう。
ソフィアが幼児退行してしまったかのようだ。
こんな時になんだけど、こういうソフィアもかわいいな。
甘えられているような感じがして新鮮で、あと、彼女の温もりがうれしい。
「私のこと……嫌いになっていませんか?」
「まさか。僕は、いつでもどんな時でも、ソフィアが大好きだよ」
「……うぅ……」
ぶわっと、ソフィアの目から涙があふれた。
そのまま、両手をこちらの背中に回して、強く強く抱きついてくる。
「フェイトっ、フェイトっ! うぅ、私も好きです! フェイトが一番なんですぅ!」
「うん、僕もソフィアが好きだよ」
ぽんぽんと、ソフィアの背中を撫でつつ、素直な想いを口にして……
「見なさい、アイシャ。あれが、バカップルっていうヤツよ」
「おー。おとーさんとおかーさん、ばかっぷる」
そこ、変なことを教えないように。
暗闇の底に沈んていた意識が、ゆっくりと浮上した。
目を開けると、僕達が泊まる宿の天井が見えた。
それと一緒に、ぴょこぴょこと犬耳を落ち着きなく動かしているアイシャの姿も見えた。
僕はベッドに寝ていて……
そんな僕を、アイシャがじーっと覗き込んでいるらしい。
「あっ」
「……おはよう」
「おとーさん!」
アイシャが、ぎゅうっと抱きついてきた。
まだまだ小さいので、重いということはない。
「うぅ」
体を起こすと、アイシャの尻尾がシュンと垂れ下がっているのが見えた。
不安になっている?
アイシャの頭を撫でつつ、問いかける。
「どうしたの、アイシャ?」
「……おとーさん、ずっと寝ていたから心配した」
「ずっと?」
「フェイトってば、丸一日、寝ていたのよ」
ふわりと、そんな声が上から降ってきた。
視線を上げると、リコリスが両手にクッキーを持って、ポリポリと食べつつ飛んでいる。
……器用な真似をするね。
「丸一日も?」
「そ。だから、この子も心配したっていうわけ」
「そっか……ごめんね、アイシャ。心配をかけちゃったみたいで」
「おとーさん、大丈夫……?」
「えっと……」
一度、アイシャに離れてもらい、体を軽く動かしてみる。
動かないところはないし、痛みが走るということもない。
「うん、大丈夫。ずっと寝ていたせいか、ちょっとだるいくらいかな」
「よかった……」
もう一度アイシャを抱き寄せて、頭を撫でる。
そうしていると落ち着いてきたらしく、シュンと垂れ下がっていた尻尾が立ち上がり、左右にフリフリと揺れだした。
かわいい。
ウチの娘は世界で一番じゃないだろうか?
「って……そういえば、ソフィアは?」
アイシャとリコリスはいる。
でも、ソフィアの姿が見当たらない。
「ソフィアならそこにいるわよ」
「そこ?」
リコリスが指差す方を見てみると……
「……」
こちらに背を向けて、部屋の隅で小さく丸くなっているソフィアの姿が。
「ソフィア?」
「……っ……」
声をかけると、その背中がビクリと震えた。
それだけで、振り向いてくれない。
「ねえ、ソフィア?」
「……」
「えっと……どうしたの? そんなところで、虫みたいに丸くなって……落ち込んでいるみたいだけど、なにかあった?」
「……」
何度か声をかけると、ソフィアはゆっくりとこちらを見た。
その目には、涙が。
それと、たまらなく不安そうな表情。
そして……
「……ご」
「ご?」
「ごめんなさいいいいいぃっ!!!」
今度は、ものすごい勢いで頭を下げた。
もう、なにがなにかわからない。
「ごめんなさいっ、すみませんっ! 本当に申しわけありません!」
「え? え? なんで、ソフィアが僕に謝っているの? ねえ、どうしたの?」
「だって……フェイトが丸一日も寝ていたのは、私のせいですから」
「なんで?」
「覚えていないのですか? 私と本気の稽古をして……」
「あ、うん。それは覚えているよ」
本気で死ぬかと思うような、厳しい稽古だった。
だから、体も心も疲れ果ててしまい、丸一日、寝てしまったのだろう。
「私のせいで、フェイトがここまで……うぅ……本当にすみません」
「あ、そういう」
やりすぎたと思っているのだろう。
それで、落ち込んでいるのだろう。
「ごめんなさい、フェイト……言い訳になってしまうのですが、私、剣のことは本気になると加減ができず……そ、それと、本気にならないとフェイトのためにならないと思い……う、うううぅ……嫌いにならないでください、フェイト……」
ソフィアは子供のように泣き出してしまった。
すごく不安そうにしていて、しゃくりあげていた。
まったくもう。
アイシャに目で合図をして、僕の上から降りてもらった。
僕はベッドから降りて、ソフィアのところへ。
そして、大事な彼女をしっかりと抱きしめる。
「……あ……」
「嫌いになんて、なるわけないじゃないか」
「で、でも私、こんなことになるまでフェイトに……」
「それは僕が望んだことだよ。強くなりたい、って……ソフィアの隣に立ちたいと願ったから、本気での稽古を望んだんだよ。むしろ、本気でやってくれて感謝しているよ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「本当の本当ですか?」
「本当の本当だよ」
「本当の本当の本当ですか?」
なんだろう。
ソフィアが幼児退行してしまったかのようだ。
こんな時になんだけど、こういうソフィアもかわいいな。
甘えられているような感じがして新鮮で、あと、彼女の温もりがうれしい。
「私のこと……嫌いになっていませんか?」
「まさか。僕は、いつでもどんな時でも、ソフィアが大好きだよ」
「……うぅ……」
ぶわっと、ソフィアの目から涙があふれた。
そのまま、両手をこちらの背中に回して、強く強く抱きついてくる。
「フェイトっ、フェイトっ! うぅ、私も好きです! フェイトが一番なんですぅ!」
「うん、僕もソフィアが好きだよ」
ぽんぽんと、ソフィアの背中を撫でつつ、素直な想いを口にして……
「見なさい、アイシャ。あれが、バカップルっていうヤツよ」
「おー。おとーさんとおかーさん、ばかっぷる」
そこ、変なことを教えないように。