翌日。
 僕とソフィアは、街の郊外へ移動した。

 街と外の境目辺り。
 そんなところに建物なんてない。
 これから開発予定なのか、雑草の生えたなにもない土地があるだけだ。

「ここなら、思う存分に戦うことができますね」
「ソフィアの家の道場は使えないとしても、冒険者ギルドの訓練場とかはダメなの?」

 冒険者ギルドには、基本的に訓練場が用意されている。
 冒険者であれば、自由に使っていいとされているのだけど……

「あそこでは、少し狭いですね。私は、本気にならないといけないので……下手をしたら、建物を巻き込んでしまいます」
「……なるほど」

 つまり僕は、これから、本気のソフィアと戦わなくてはならない……ということか。

 ぶるりと体が震えた。
 素直に怖いと思う。
 でも、恐怖だけじゃなくて、ワクワクもしていた。

 本気のソフィアと戦うことで、さらに強くなれるかもしれない。
 いや。
 強くなってみせる。

 そんな想いが、僕に前を向かせていた。

「今までは、こうした方がいい、ああした方がいい、と色々とアドバイスを送っていましたが……今回は、そうしたものはありません」

 そう言いつつ、ソフィアは剣を構えた。
 予備の剣ではなくて、聖剣エクスカリバーだ。

 剣を抜いただけなのに、とんでもないプレッシャーが襲いかかる。
 空気がビリビリと震えて、うまく呼吸ができなくなってしまうほどだ。

 ここにアイシャやリコリスがいたら、大変なことになっていただろうけど……
 今は、二人はいない。

 本気の稽古となると、さすがに、アイシャに見せることはできない。
 なので、アイシャはお留守番。
 リコリスは、アイシャの遊び相手をお願いしておいた。

「神王竜について教えるのならば、丁寧にアドバイスを教えて、コツコツと練習を積み重ねていくのですが……フェイトが今求めているものは、単純な力。戦い抜いて、生き伸びることができる力」
「うん、そうだね」
「なら、本気の私と戦い、その体で感じ取り、学んでください」
「全ては僕次第、っていうわけだね?」
「はい。意味のない戦いとなるか、それとも、有意義な稽古となるか……全ては、フェイト次第です」
「……」
「私は本気でやりますが、一応、寸止めはします。でないと……フェイトを殺してしまうので」
「うっ……!?」

 その言葉が合図だったかのように、ソフィアの体から闘気が放たれた。

 なんて……なんて圧倒的な闘気だ。
 質量すら持っていて、気合を入れていないと、そのまま意識を持っていかれてしまいそう。

 戦闘態勢に移行しただけでコレ。
 戦いが開始したら、いったい、どうなってしまうのか……?

 さらに恐怖が膨れ上がる。
 でも、ワクワクも大きくなり……

「では、いきますよ」
「お願いします」

 僕も剣を構えた。

 ちなみに、使う剣は、武具店であらかじめ買っておいた使い捨てのものだ。
 最初は雪水晶の剣を使おうとしたのだけど……
 「壊してしまうので、他の剣にしてください」とソフィアに言われたのだ。

 それは、彼女の過信ではない。
 圧倒的な自信というわけでもない。
 ごくごく単純な……事実なのだろう。

「では」

 ソフィアはコインを取り出して、指で宙に弾いた。
 コインがくるくると回転して……
 そして地面に落ちて音が鳴った瞬間、戦闘が開始される。

「ふっ!」
「はぁあああっ!!!」

 互いに地面を蹴り……

 ゴガァッ!!!

「!?!?!?」

 突然、とんでもない衝撃が全身に走り、僕は空を飛んでいた。
 ソフィアと一合交わしただけで吹き飛ばされたのだと、遅まきながら気がついて……

「うぐっ!?」

 木の幹にぶつかり、ようやく止まる。

 切り傷はない。
 ちゃんと寸止めしてくれたのだろうけど……

 ソフィアの剣速は驚異的なものとなり、衝撃波を発生させていた。
 それの直撃を受けた僕は、なすすべなく吹き飛ばされて……という感じだろうか?

 素直に恐怖した。
 まさか、寸止めされていても、ここまでの威力を叩き出せるなんて。
 なにもすることができず、一瞬でやられてしまうなんて。

 でも……今の僕には、恐怖している時間すらない。

「はぁっ!!!」
「くぅ!?」

 まだやれますね?

 そう言うような感じで、ソフィアの追撃が。
 かなりの距離があったはずなのに、ソフィアは一足で詰めてしまう。
 そして、聖剣を横に薙ぎ払う。

「こっ……のぉ!!!」

 そこらの剣で、聖剣をまともに受け止められるわけがない。
 なので、聖剣を上から叩いて軌道を逸らそうと試みるのだけど……

「あぐっ!?」

 彼女の剣筋を捉えることができず、僕は、再び吹き飛ばされてしまう。
 何十メートルも飛んで……
 地面を何度も何度もゴロゴロと転がり、ようやく止まる。

 寸止めをしてくれているため、やはり、衝撃波で吹き飛ばされたのだろう。
 切り傷はないのだけど、代わりに、全身が痛い。
 衝撃波と吹き飛ばされたダメージの両方だろう。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 これが、本気のソフィア。
 剣の頂点に立つと言われている、剣聖の力。

 ……怖い。