エドワードさんに認めてもらうため、まずは、大きな手柄を立てることを考えた。
そのために、リーフランドの冒険者ギルドを訪ねる。
「うわぁ」
リーフランドの冒険者ギルドは、他のところと違い、たくさんの自然にあふれていた。
至るところに観葉植物が飾られていて、とてもおしゃれだ。
冒険者ギルドの看板がなければ、カフェかなにかと勘違いしていたかもしれない。
「ふーん、なかなか良いところじゃない。あたしの別荘にしてあげてもいいわ」
「ここは冒険者ギルドで、家ではありませんよ」
「お花……良い匂いだね」
「はい、そうですね。アイシャに似て、とてもかわいいお花ですね」
「ソフィア、あんた……あたしとアイシャで、扱いの差が激しすぎない……?」
リコリスが唖然とする中、カウンターへ。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。依頼でしょうか? それとも、冒険者の方でしょうか?」
「冒険者だよ。ここで活動をしたいから、その登録をしたいと思って」
「かしこまりました、登録ですね? では、冒険者カードをお願いします」
新しい街で活動をする時は、そこの冒険者ギルドで登録をしないといけない。
事前に登録を求めることで、問題行動のある冒険者を排除できる。
さらに、後々で問題が起きた時、スムーズに解決することができるし……
そのような感じで、登録が義務づけられているのだ。
ちなみに、ソフィアのような、限られた人しか与えられていない称号を持つ人は、登録は免除されている。
有名すぎるから、そのようなことをしなくても問題はないだろう、という判断らしい。
「……はい、登録が完了しました。フェイト・スティアートさんですね? しばらくは、リーフランドで活動を?」
「うん、そのつもりだよ」
「なるほど。スティアートさんの活躍、お祈りしています。そして、パーティーメンバーは……そ、ソフィア・アスカルトさん!?」
さすが、剣聖。
ソフィアのことは知っているらしく、受付嬢は目を大きくして驚いていた。
「アスカルトさん、リーフランドに戻ってきていたのですね」
「まあ、色々とありまして」
「……本当に色々とありそうですね」
受付嬢の目が、チラリとアイシャとリコリスに向いた。
ただ、深くは突っ込まないでくれて、次の話に移る。
「今日から活動を開始されますか?」
「うん。ちょっと理由があって、できるだけ大きな手柄を立てたいんだけど、なにか良い依頼はないかな?」
「そうですね……それなら、連続殺人事件の調査なんていかがでしょう?」
既視感を覚える依頼だ。
以前は、シグルド達が逆恨みで起こした事件だったのだけど……
リーフランドでも、似たようなことが起きているのかな?
ひとまず、疑問はそのままにして、話を聞くことに。
「最近、リーフランドで殺人事件が多発しています。検死の結果、魔物などによる被害ではなくて、人の犯行によるものだということがわかりました。目撃情報もいくらかあり、全身黒尽くめの者が、同じく黒い剣を手に、街の裏路地に消えていくところを見た……という人がいます」
「今度は目撃者がいるんだね」
「今度は?」
「あ、ごめん。こっちの話だから、気にしないで」
「続きを聞かせてくれませんか?」
「はい。騎士団は、捜査本部を設置。犯人を、『漆黒の剣鬼』と名付けて、捜査を開始したのですが……なかなか尻尾を掴むことができません。そのうち、犠牲者は三人に。このままでは、被害は拡大するばかり。管轄にこだわっている場合ではないと、冒険者ギルドに依頼が回ってきた……ということになります」
「なるほど」
以前と状況が似ているのだけど……
さすがに、シグルド達は関与していないだろう。
「漆黒の剣鬼を捕まえればいいのですか?」
「はい。場合によっては、斬り捨てても構いません」
「それはまた、過激だね……」
「すでに、犠牲者は五人。犯人の人権なんて、尊重していられる状況ではありませんからね」
犠牲者が五人も出ているのなら、納得だ。
犯人の命と、これから出るかもしれない犠牲者の命。
どちらを選ぶのかと言われれば、間違いなく後者を選ぶ。
「ただ、漆黒の剣鬼の正体は未だわからず、神出鬼没。その目的も不明でして……なので、漆黒の剣鬼に関する情報提供も求めています。逮捕、もしくは討伐に繋がる有力な情報があれば、そちらも高価で買い取りますよ」
「そんなに困っているの? もしかして、漆黒の剣鬼は、情報を掴ませないような特殊な能力を持っているとか?」
「いえ、そのような話は、まだ聞いていないのですが……まあ、判明していないだけかもしれませんけどね。ただ、恐ろしく腕が立つみたいです」
「恐ろしく……」
「被害者の中には、Bランクの冒険者もいまして……しかも、ほとんど抵抗できずにやられてしまったらしく」
「それが本当なら、確かに恐ろしい話ですね」
仮に、ソフィアがBランクの冒険者と戦ったとしよう。
圧倒的な力の差があるから、勝負はすぐに終わるだろうけど……
Bランクにもなれば、少しは粘ることができるはずだ。
それすらもできないなんて、漆黒の剣鬼はよほどの力があるに違いない。
「フェイト、どうしますか?」
「うーん」
迷う。
危険度の高い依頼ではあるものの、解決できたのなら、その手柄は大きい。
もしかしたら、エドワードさんに認めてもらえるかもしれない。
いや。
この際、手柄とかどうでもいいや。
エドワードさんのことも、ひとまず保留。
五人も犠牲者が出ている。
一人は、同じ冒険者仲間。
会ったこともないのだけど……でも、とても悔しかっただろうな、って思う。
その無念を晴らしてあげたい。
「僕は、請けたいと思う。僕にとって、リーフランドは関係ない街じゃない。ソフィアの故郷だから、そこが荒らされているとなると、なんとかしたいよ」
「フェイト……ふふ、ありがとうございます」
ソフィアの笑顔があれば、やる気百倍だ。
「というわけで、この依頼、請けるよ」
「はい、わかりました。すでに、いくらかの冒険者がこの依頼を請けており、漆黒の剣鬼が討伐された場合は、早いものがちになりますが……よろしいですか?」
「うん、いいよ」
「では、こちらをどうぞ」
受付嬢からファイルを渡された。
「こちら、事件の情報をまとめたものになります。全ての情報が載っているわけではありませんが、なにかしら役に立つのではないかと」
「ありがとう」
「では、健闘をお祈りしています。そして、このリーフランドに平和を取り戻してくれることを期待しております」
受付嬢に見送られて、僕達は冒険者ギルドを後にした。
「良いタイミングで依頼がありましたね。この依頼を解決できれば、きっと、お父さまもフェイトのことを認めてくれるでしょう」
「うん……そうだね」
「どうしたのですか? 暗い顔をしていますが……」
「依頼があったことはうれしんだけど、でも、犠牲者がたくさん出ているから、それは喜べないかな……って」
「フェイトは優しいですね……その優しさは、犠牲のためにとっておいて、そして、怒りは犯人にぶつけてやりましょう」
「うん、そうだね! がんばらないと」
リコリスが、「またイチャついてるし……」とぼやくのが聞こえたけど、聞こえないフリをしておいた。
「さてと、それじゃあ、まずはこのファイルを読んでみて……」
「おとーさん、おかーさん」
アイシャが、僕とソフィアの服の端を掴んだ。
どうしたのだろう?
不思議に思って視線を落とすと、耳をぺたんと沈めて、怯えた様子のアイシャが。
「あっちの方で……怖い感じがするの」
そのために、リーフランドの冒険者ギルドを訪ねる。
「うわぁ」
リーフランドの冒険者ギルドは、他のところと違い、たくさんの自然にあふれていた。
至るところに観葉植物が飾られていて、とてもおしゃれだ。
冒険者ギルドの看板がなければ、カフェかなにかと勘違いしていたかもしれない。
「ふーん、なかなか良いところじゃない。あたしの別荘にしてあげてもいいわ」
「ここは冒険者ギルドで、家ではありませんよ」
「お花……良い匂いだね」
「はい、そうですね。アイシャに似て、とてもかわいいお花ですね」
「ソフィア、あんた……あたしとアイシャで、扱いの差が激しすぎない……?」
リコリスが唖然とする中、カウンターへ。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。依頼でしょうか? それとも、冒険者の方でしょうか?」
「冒険者だよ。ここで活動をしたいから、その登録をしたいと思って」
「かしこまりました、登録ですね? では、冒険者カードをお願いします」
新しい街で活動をする時は、そこの冒険者ギルドで登録をしないといけない。
事前に登録を求めることで、問題行動のある冒険者を排除できる。
さらに、後々で問題が起きた時、スムーズに解決することができるし……
そのような感じで、登録が義務づけられているのだ。
ちなみに、ソフィアのような、限られた人しか与えられていない称号を持つ人は、登録は免除されている。
有名すぎるから、そのようなことをしなくても問題はないだろう、という判断らしい。
「……はい、登録が完了しました。フェイト・スティアートさんですね? しばらくは、リーフランドで活動を?」
「うん、そのつもりだよ」
「なるほど。スティアートさんの活躍、お祈りしています。そして、パーティーメンバーは……そ、ソフィア・アスカルトさん!?」
さすが、剣聖。
ソフィアのことは知っているらしく、受付嬢は目を大きくして驚いていた。
「アスカルトさん、リーフランドに戻ってきていたのですね」
「まあ、色々とありまして」
「……本当に色々とありそうですね」
受付嬢の目が、チラリとアイシャとリコリスに向いた。
ただ、深くは突っ込まないでくれて、次の話に移る。
「今日から活動を開始されますか?」
「うん。ちょっと理由があって、できるだけ大きな手柄を立てたいんだけど、なにか良い依頼はないかな?」
「そうですね……それなら、連続殺人事件の調査なんていかがでしょう?」
既視感を覚える依頼だ。
以前は、シグルド達が逆恨みで起こした事件だったのだけど……
リーフランドでも、似たようなことが起きているのかな?
ひとまず、疑問はそのままにして、話を聞くことに。
「最近、リーフランドで殺人事件が多発しています。検死の結果、魔物などによる被害ではなくて、人の犯行によるものだということがわかりました。目撃情報もいくらかあり、全身黒尽くめの者が、同じく黒い剣を手に、街の裏路地に消えていくところを見た……という人がいます」
「今度は目撃者がいるんだね」
「今度は?」
「あ、ごめん。こっちの話だから、気にしないで」
「続きを聞かせてくれませんか?」
「はい。騎士団は、捜査本部を設置。犯人を、『漆黒の剣鬼』と名付けて、捜査を開始したのですが……なかなか尻尾を掴むことができません。そのうち、犠牲者は三人に。このままでは、被害は拡大するばかり。管轄にこだわっている場合ではないと、冒険者ギルドに依頼が回ってきた……ということになります」
「なるほど」
以前と状況が似ているのだけど……
さすがに、シグルド達は関与していないだろう。
「漆黒の剣鬼を捕まえればいいのですか?」
「はい。場合によっては、斬り捨てても構いません」
「それはまた、過激だね……」
「すでに、犠牲者は五人。犯人の人権なんて、尊重していられる状況ではありませんからね」
犠牲者が五人も出ているのなら、納得だ。
犯人の命と、これから出るかもしれない犠牲者の命。
どちらを選ぶのかと言われれば、間違いなく後者を選ぶ。
「ただ、漆黒の剣鬼の正体は未だわからず、神出鬼没。その目的も不明でして……なので、漆黒の剣鬼に関する情報提供も求めています。逮捕、もしくは討伐に繋がる有力な情報があれば、そちらも高価で買い取りますよ」
「そんなに困っているの? もしかして、漆黒の剣鬼は、情報を掴ませないような特殊な能力を持っているとか?」
「いえ、そのような話は、まだ聞いていないのですが……まあ、判明していないだけかもしれませんけどね。ただ、恐ろしく腕が立つみたいです」
「恐ろしく……」
「被害者の中には、Bランクの冒険者もいまして……しかも、ほとんど抵抗できずにやられてしまったらしく」
「それが本当なら、確かに恐ろしい話ですね」
仮に、ソフィアがBランクの冒険者と戦ったとしよう。
圧倒的な力の差があるから、勝負はすぐに終わるだろうけど……
Bランクにもなれば、少しは粘ることができるはずだ。
それすらもできないなんて、漆黒の剣鬼はよほどの力があるに違いない。
「フェイト、どうしますか?」
「うーん」
迷う。
危険度の高い依頼ではあるものの、解決できたのなら、その手柄は大きい。
もしかしたら、エドワードさんに認めてもらえるかもしれない。
いや。
この際、手柄とかどうでもいいや。
エドワードさんのことも、ひとまず保留。
五人も犠牲者が出ている。
一人は、同じ冒険者仲間。
会ったこともないのだけど……でも、とても悔しかっただろうな、って思う。
その無念を晴らしてあげたい。
「僕は、請けたいと思う。僕にとって、リーフランドは関係ない街じゃない。ソフィアの故郷だから、そこが荒らされているとなると、なんとかしたいよ」
「フェイト……ふふ、ありがとうございます」
ソフィアの笑顔があれば、やる気百倍だ。
「というわけで、この依頼、請けるよ」
「はい、わかりました。すでに、いくらかの冒険者がこの依頼を請けており、漆黒の剣鬼が討伐された場合は、早いものがちになりますが……よろしいですか?」
「うん、いいよ」
「では、こちらをどうぞ」
受付嬢からファイルを渡された。
「こちら、事件の情報をまとめたものになります。全ての情報が載っているわけではありませんが、なにかしら役に立つのではないかと」
「ありがとう」
「では、健闘をお祈りしています。そして、このリーフランドに平和を取り戻してくれることを期待しております」
受付嬢に見送られて、僕達は冒険者ギルドを後にした。
「良いタイミングで依頼がありましたね。この依頼を解決できれば、きっと、お父さまもフェイトのことを認めてくれるでしょう」
「うん……そうだね」
「どうしたのですか? 暗い顔をしていますが……」
「依頼があったことはうれしんだけど、でも、犠牲者がたくさん出ているから、それは喜べないかな……って」
「フェイトは優しいですね……その優しさは、犠牲のためにとっておいて、そして、怒りは犯人にぶつけてやりましょう」
「うん、そうだね! がんばらないと」
リコリスが、「またイチャついてるし……」とぼやくのが聞こえたけど、聞こえないフリをしておいた。
「さてと、それじゃあ、まずはこのファイルを読んでみて……」
「おとーさん、おかーさん」
アイシャが、僕とソフィアの服の端を掴んだ。
どうしたのだろう?
不思議に思って視線を落とすと、耳をぺたんと沈めて、怯えた様子のアイシャが。
「あっちの方で……怖い感じがするの」