リーフランドの住宅街にある広場。
 緑が多く景色も良い場所で、普段は住民達の憩の場となっている。

 お茶やお菓子を持ち寄り、おしゃべりをしたり。
 子供たちがボールを手に遊んだり。

 いつも和やかな光景が広がる場所なのだけど……
 今朝、その光景は一変した。

 慌ただしい様子を見せる騎士達。
 遠巻きに広場を見る住民達は、一様に不安の表情を浮かべている。

 そして……
 広場の中心には、事切れた遺体があった。



――――――――――



「殺人事件?」

 エドワードが執事よりその報告を受けたのは、事件発生から数時間が経過した、午後のことだった。

 ソフィアに家に戻るように言い、しかし断られて……
 昨日と同じく、壮絶な親子喧嘩を繰り返しそうになりつつも、仕事をしなければいけないためなんとか我慢して……

 簡単な昼食を済ませて、いくらかの書類に目を通している最中に、その報告がもたらされた。

「今朝、住宅街の広場で、明らかな他殺と思われる死体が発見されました。散歩をしていた住民が発見、騎士団に通報。現在は、現場検証が行われています」
「明らかな、ということは、切り傷でもあったのか?」
「はい。詳細は、後ほど騎士団から改めて報告が上がってくると思いますが……目撃者の話によると、事故などでは起きないような、酷い切り傷ができていた、と」
「それは、どういうものなのだ?」
「剣で斬りつけたようなものでありながら、ノコギリを使ったかのように、傷口はズタズタになっていた、と聞いております」
「それは、獣や魔物の類とは違うのか?」
「一応、傷は剣の形となっていたので、人為的な犯行で間違いはないかと」
「ふむ」

 ソフィアを相手にすると、威厳をどこかに捨ててしまうエドワードではあるが、領主としては有能だ。
 キリッとした顔で、事件について考える。

 が、いかんせん情報が少ない。
 現段階では、なんとも言えない。

「騎士団には、念入りに捜査するように伝えろ。それと、街の警備の警戒度を、一段回引き上げるように」
「また事件が起きると考えているのですか?」
「なんとも言えないが、その可能性も考えて行動しておいた方がいいだろう。無論、そうならないことを祈るが」

 エドワードは憂い顔で、窓の外を見上げた。
 空は曇り、今にも雨が降り出しそうだった。



――――――――――



「むう」

 宿の一室。
 紅茶を飲みつつ、しかし心は晴れないらしく、ソフィアは膨れ顔だ。

 エドワードさんに挨拶をしてから、数日。
 未だ僕達の仲は認められていない。

 当然、諦めるつもりはないし、何度でも話をするつもりだ。
 ただ、今は忙しいらしく、面会の機会をもらえないでいた。

 状況が進展しないことに苛立っている様子で、ソフィアの機嫌は悪い。

「おかーさん、元気ない……?」

 そう勘違いしたアイシャが、心配そうにソフィアを見る。

 こんな小さな子に心配をかけてしまった。
 ソフィアは慌てて笑顔を浮かべて、アイシャを抱き寄せて、抱っこする。

「大丈夫ですよ。心配してくれて、ありがとうございます。ふふ、アイシャは優しい子ですね」
「あうー」

 頬をスリスリされて、アイシャはくすぐったそうな顔に。
 でも、とても喜んでいるみたいで、犬尻尾がフリフリと揺れていた。

 いいな。
 僕も、アイシャとスキンシップをしたい。

 でも、アイシャは女の子だから、嫌がるかもしれない。

「おとーさん」

 あれこれ考えていると、今度は、アイシャが僕のところに。
 そして、膝の上に乗り、なにかおねだりするようにこちらを見た。

「……よしよし」
「えへへ」

 正解だったみたいだ。
 頭を撫でると、アイシャは尻尾をブンブンと横に振る。

 そんな僕達を、ソフィアが優しい顔をして見て……
 うん、よかった。
 どうやら、機嫌は直ったみたいだ。

「あんたら、呑気ねー」
「でも、エドワードさんは忙しいみたいだから、今はなにもできないし」
「本当に忙しいのか、疑わしいですけどね。私達の話を聞きたくないために、忙しいとウソを吐いている可能性がありますよ」
「うーん、それはないと思うんだけど」

 ちょっと詩情が混じるところがあるみたいだけど……
 基本、エドワードさんはピシリとした立派な人に見えた。
 仕事を言い訳にするようには思えない。

「ま、それなら他の方法を探しておいた方がいいんじゃない?」
「他の方法?」
「認めてもらうのは、話をするだけじゃないでしょ? なんか、こう……大きな手柄を立てるとか。そうしたら、あのおっちゃんも、少しはフェイトのことを認めるんじゃない」
「おー、なるほど」
「リコリスの口から、そんな知的な案が出るなんて、驚きですね」
「ソフィアは、あたしにケンカを売っているの……?」

 リコリスのジト目を無視しつつ、ソフィアが張り切り出す。

「よし! がんばりましょうね、フェイト! まずは街に出て、手柄を立てるための話がないか、情報収集をしましょう」
「うん。ソフィアのため、アイシャとリコリスのため、がんばるよ」
「それでこそ、私の大好きなフェイトです♪」

 ソフィアは頬を染めつつ、にっこりと笑うのだった。