リーフランドの郊外にある、小さな一軒家。
その中に、二人の人影があった。
一人は、年老いた男性だ。
白髪は肩の辺りまで伸びていて、綺麗に揃えられていた。
髭も長く伸びていたが、丁寧に手入れされているからか、落ち着いた雰囲気を与える結果となっている。
八十近いと思われる外見なのだけど、しかし、肉体の衰えは感じられない。
背はまっすぐと伸びていて、筋肉こそないものの、その体は鋼鉄のような力強い印象を受ける。
今こそが全盛期なのだと、そう肉体が主張していた。
もう一人は、十五歳くらいの少女だ。
十五ならば成人はしているのだけど、幼さが残る顔立ちのせいか、大人には見えない。
大人と主張したら、うそだ、と多数の人に言われてしまうだろう。
外見に引っ張られるかのように、体つきも幼い。
でなければいけないところは引っ込んでいて、背は低く、体も小さい。
愛らしさはあるものの、女性としての魅力には欠けているだろう。
ただ、その顔は宝石のように綺麗に整っていた。
優しく、甘く、綺麗な顔。
まぎれもない美少女だ。
「ドクトルが敗れたようだ」
老いた男が、静かにそう言った。
それを聞いて、少女が目を大きくする。
「えっ、本当に? 今日、なんで呼ばれたかわからなかったんだけど……もしかして、そのこと?」
「うむ。レナには教えておいた方がいいと思い、こうして呼び出したわけだ。忙しいところ、すまないな」
レナと呼ばれた少女は、気にしないでと手を横に振る。
「ううん、いいよ。それに、忙しいっていうなら、リケンの方が忙しいよね? ボクなんかより、色々なことをしているからね」
「まあ、色々と言えば色々ではあるが……誰かがやらねばならぬこと。ならば、大した力を持たない儂がやるべきであって、レナが気にすることではない」
「そういうものかな?」
「そういうものだ」
「って、話が逸れちゃったね。ドクトルが負けたっていうのは、本当のことなの? 確か、ドクトルにはティルフィングを与えたと思うんだけど……なにも能力を持たない低ランクの魔剣とはいえ、そこらの人が勝てるわけないのに」
「相手がまずかった」
「相手? もしかして、剣王とか魔法王が出てきたとか?」
「剣聖らしい」
「わぉ」
リケンと呼ばれている老人の言葉に、レナはやや大げさに驚いてみせた。
「ちなみに、誰かわかる?」
「最年少で剣聖の座に辿り着いた天才……ソフィア・スティアートだ」
「あー……なるほど。会ったことはないけど、色々と常識外れの噂は聞いているよ。山を斬ったとか、一万の魔物の大群を薙ぎ払ったとか。それらの噂、誇張されているわけじゃなくて、むしろ、控えめに表現されているっぽいんだよね。あー、そっか。あの剣聖が相手なら、ドクトル程度じゃあ、魔剣を手にしても歯が立たないか」
なるほど、とレナは納得した。
しかし、すぐに不思議そうに小首を傾げる。
「あれ? でも、ドクトルは素材を手に入れていたんだよね? それなら、ティルフィングの真の力を引き出すこともできたと思うんだけど……もしかして、それでも負けたの?」
「いや。どうやら、力を引き出すことには失敗したらしい。儀式を行うよりも前に襲撃を受けたようだ」
「なるほど。それじゃあ、剣聖の相手なんて務まらないか。ティルフィングは?」
「戦闘で破壊されたらしい」
「あー……ちょっと惜しいことをしたね。下級の魔剣とはいえ、素材さえあれば、中級くらいにはなっていただろうから。ドクトルにあげたのは失敗だったかな?」
「仕方あるまい。あれは、金は持っていた。金がなければ、我々も活動できないからな」
「世知辛いねー」
「それに、ドクトルも剣の腕が悪いというわけではない。今回は、相手が悪すぎた」
「最年少の剣聖、ソフィア・アスカルト……か。どんな子なのかな?」
そう語るレナは、幼い子供のような顔をしていた。
おもちゃを与えられたような感じで、とてもわくわくした様子だ。
「どれくらい強いのかな? 想像の上をいったりするのかな? うーん、戦いたい!」
レナはバトルマニアだった。
戦いの中でこそ、もっとも輝くことができて、自分の価値を見出すことができる。
命を賭けた真剣勝負なら、なお良い。
「ねえねえ、リケン。ボクを呼んだのは、ドクトルのことを教えるだけ? それだけ?」
「まったく……勘が鋭いな」
「えへへー。褒め言葉として受け取っておくよ」
「今、この街……リーフランドに剣聖ソフィア・アスカルトがいるらしい」
「え、なんで?」
「さてな。家の問題と聞いているが、詳細は知らぬ」
「っていうことは、ビッグチャンス?」
ソフィアと戦えるかもしれないと、レナはニヤリと笑う。
「この街で進めている計画は知っているな?」
「アレを使って、魔剣の増産。それと、改良でしょ?」
「うむ。剣聖が街に来たのは偶然と思いたいが……もしかしたら、という可能性もある。計画をかぎつけられては厄介だし、敵対されても厄介だ」
「そうなる前に潰せ、っていうこと?」
「焦るな。まずは、様子見だ。敵になると決めつけて下手に動けば、逆に気取られてしまうかもしれぬ。レナは、剣聖の動きを探ってほしい。儂は、できる限り、計画を前倒ししておこう」
「オッケー」
レナは気軽に頷いてみせた。
これで話は終わり。
リケンは外に出ようとして……
途中で足を止めて、思い出したように言う。
「そうそう、言い忘れていた。気にし過ぎかもしれないが、もう一人、気をつけた方がいいかもしれない者がいる」
「うん? 誰、それ?」
「フェイト・スティアートという少年だ」
その中に、二人の人影があった。
一人は、年老いた男性だ。
白髪は肩の辺りまで伸びていて、綺麗に揃えられていた。
髭も長く伸びていたが、丁寧に手入れされているからか、落ち着いた雰囲気を与える結果となっている。
八十近いと思われる外見なのだけど、しかし、肉体の衰えは感じられない。
背はまっすぐと伸びていて、筋肉こそないものの、その体は鋼鉄のような力強い印象を受ける。
今こそが全盛期なのだと、そう肉体が主張していた。
もう一人は、十五歳くらいの少女だ。
十五ならば成人はしているのだけど、幼さが残る顔立ちのせいか、大人には見えない。
大人と主張したら、うそだ、と多数の人に言われてしまうだろう。
外見に引っ張られるかのように、体つきも幼い。
でなければいけないところは引っ込んでいて、背は低く、体も小さい。
愛らしさはあるものの、女性としての魅力には欠けているだろう。
ただ、その顔は宝石のように綺麗に整っていた。
優しく、甘く、綺麗な顔。
まぎれもない美少女だ。
「ドクトルが敗れたようだ」
老いた男が、静かにそう言った。
それを聞いて、少女が目を大きくする。
「えっ、本当に? 今日、なんで呼ばれたかわからなかったんだけど……もしかして、そのこと?」
「うむ。レナには教えておいた方がいいと思い、こうして呼び出したわけだ。忙しいところ、すまないな」
レナと呼ばれた少女は、気にしないでと手を横に振る。
「ううん、いいよ。それに、忙しいっていうなら、リケンの方が忙しいよね? ボクなんかより、色々なことをしているからね」
「まあ、色々と言えば色々ではあるが……誰かがやらねばならぬこと。ならば、大した力を持たない儂がやるべきであって、レナが気にすることではない」
「そういうものかな?」
「そういうものだ」
「って、話が逸れちゃったね。ドクトルが負けたっていうのは、本当のことなの? 確か、ドクトルにはティルフィングを与えたと思うんだけど……なにも能力を持たない低ランクの魔剣とはいえ、そこらの人が勝てるわけないのに」
「相手がまずかった」
「相手? もしかして、剣王とか魔法王が出てきたとか?」
「剣聖らしい」
「わぉ」
リケンと呼ばれている老人の言葉に、レナはやや大げさに驚いてみせた。
「ちなみに、誰かわかる?」
「最年少で剣聖の座に辿り着いた天才……ソフィア・スティアートだ」
「あー……なるほど。会ったことはないけど、色々と常識外れの噂は聞いているよ。山を斬ったとか、一万の魔物の大群を薙ぎ払ったとか。それらの噂、誇張されているわけじゃなくて、むしろ、控えめに表現されているっぽいんだよね。あー、そっか。あの剣聖が相手なら、ドクトル程度じゃあ、魔剣を手にしても歯が立たないか」
なるほど、とレナは納得した。
しかし、すぐに不思議そうに小首を傾げる。
「あれ? でも、ドクトルは素材を手に入れていたんだよね? それなら、ティルフィングの真の力を引き出すこともできたと思うんだけど……もしかして、それでも負けたの?」
「いや。どうやら、力を引き出すことには失敗したらしい。儀式を行うよりも前に襲撃を受けたようだ」
「なるほど。それじゃあ、剣聖の相手なんて務まらないか。ティルフィングは?」
「戦闘で破壊されたらしい」
「あー……ちょっと惜しいことをしたね。下級の魔剣とはいえ、素材さえあれば、中級くらいにはなっていただろうから。ドクトルにあげたのは失敗だったかな?」
「仕方あるまい。あれは、金は持っていた。金がなければ、我々も活動できないからな」
「世知辛いねー」
「それに、ドクトルも剣の腕が悪いというわけではない。今回は、相手が悪すぎた」
「最年少の剣聖、ソフィア・アスカルト……か。どんな子なのかな?」
そう語るレナは、幼い子供のような顔をしていた。
おもちゃを与えられたような感じで、とてもわくわくした様子だ。
「どれくらい強いのかな? 想像の上をいったりするのかな? うーん、戦いたい!」
レナはバトルマニアだった。
戦いの中でこそ、もっとも輝くことができて、自分の価値を見出すことができる。
命を賭けた真剣勝負なら、なお良い。
「ねえねえ、リケン。ボクを呼んだのは、ドクトルのことを教えるだけ? それだけ?」
「まったく……勘が鋭いな」
「えへへー。褒め言葉として受け取っておくよ」
「今、この街……リーフランドに剣聖ソフィア・アスカルトがいるらしい」
「え、なんで?」
「さてな。家の問題と聞いているが、詳細は知らぬ」
「っていうことは、ビッグチャンス?」
ソフィアと戦えるかもしれないと、レナはニヤリと笑う。
「この街で進めている計画は知っているな?」
「アレを使って、魔剣の増産。それと、改良でしょ?」
「うむ。剣聖が街に来たのは偶然と思いたいが……もしかしたら、という可能性もある。計画をかぎつけられては厄介だし、敵対されても厄介だ」
「そうなる前に潰せ、っていうこと?」
「焦るな。まずは、様子見だ。敵になると決めつけて下手に動けば、逆に気取られてしまうかもしれぬ。レナは、剣聖の動きを探ってほしい。儂は、できる限り、計画を前倒ししておこう」
「オッケー」
レナは気軽に頷いてみせた。
これで話は終わり。
リケンは外に出ようとして……
途中で足を止めて、思い出したように言う。
「そうそう、言い忘れていた。気にし過ぎかもしれないが、もう一人、気をつけた方がいいかもしれない者がいる」
「うん? 誰、それ?」
「フェイト・スティアートという少年だ」