親子喧嘩が再発してしまったため、テストはうやむやに。
「ごめんなさいね。話をまとめてきますから、スティアートくんは、こちらで待っていてくださいね」
そんな話をエミリアさんにされて、俺とリコリスとアイシャは客間に戻った。
ソファーに座り、のんびりとクッキーを食べて、メイドさんが淹れてくれた紅茶をいただくのだけど……
ドゴンッ!
ガガガガガッ!!!
ドガシャアアアアアーーーーッ!
ちょくちょく、轟音が響いてくる。
その度に、地震が起きたかのように床が揺れていた。
剣聖と道場師範の喧嘩なので、すさまじい。
でも、二度目ということもあり、もう慣れてしまった。
アイシャも怯えることはなくて、笑顔でクッキーを食べている。
「アイシャ、クッキーの欠片がこぼれているよ」
「えっと……?」
「じっとしてて……うん、これでよし。綺麗になった」
「ありがと、おとーさん」
「どういたしまして」
「あんたら、こんな時なのに、ホント平常運転ねぇ……」
そう言うリコリスも、両手でクッキーを持って、ハムスターのようにカリカリと食べているから、人のことは言えないと思う。
「ところでリコリス、さっきのはどういう意味なの?」
「さっき?」
「ほら、エドワードさんのことを、子離れできない、って言っていたじゃない」
「ああ、そのこと。それがどうかしたの?」
「どういう意味なのかな、って」
「どうもこうも、そのままの意味よ。あのおっちゃん、ぜんぜん、子離れができていないじゃない」
「そう……なのかな?」
エドワードさんのことを思い返す。
領主……そして、道場主にふさわしい威厳を備えていた。
そんなエドワードさんが子離れできていないと言われても、なかなか納得することができない。
「あのおっちゃんがフェイトを認めなくて、あれこれと難癖をつけているのは、ソフィアを取られたくないからよ。だから、子離れできない、って言ったの」
「そういう意味で、僕に文句をつけていたのかな……? 僕は、そんな風には見えなかったんだけど」
「甘い、甘いわね。このスーパーリコリスちゃんアイをもってすれば、人間の考えていることなんてお見通しよ!」
スーパーリコリスちゃんアイって、なんだろう?
「っていうか、あのおっちゃんは、すっごいわかりやすいと思うわ。怒ってごまかしてるけど、娘がかわいくてかわいくて仕方ない、っていう感じよ」
「そう、なのかな……?」
「そうよ。このリコリスちゃんが言うんだから、間違いないわ。っていうか、それくらいも見抜けないから、フェイトは昔、騙されたりしたんでしょ」
「うぐ」
そこを突かれると弱い。
「しかし……そうなんだ。うん、それならよかった」
「あんた、認められないっていうのに、なんで笑っているのよ?」
「もしかしたら、親子仲が悪いのかな? って不安に思っていたんだ。でも、少なくともエドワードさんはソフィアのことを大事に思っているわけで……そういうことなら良かったなあ、って思ったんだ」
「お人好しねえ……ま、それがフェイトらしいか」
カリカリと、リコリスはクッキーを食べる。
それから、妖精サイズのカップで紅茶を飲み、話を続ける。
「そんな心配をしてるなら、安心していいわよ。なんだかんだで、あの親子、仲が良いと思うわ」
「なら、よかった」
「で、フェイトはどうするわけ?」
「どうする、っていうのは?」
「あのおっちゃん、ソフィアを手放したくないから、絶対にフェイトのことを認めないと思うわよ? あれこれと文句をつけて、交際を認めるなんてこと、ないと思うわ」
「それは困るなあ……」
あれ?
ふと、疑問に思う。
「でも、手紙だと、ソフィアの婚約者を決めた、ってあったけど……」
それが本当なら、自分からソフィアのことを手放していないだろうか?
そんな疑問を口にしてみると、リコリスはチッチッチと指を横に振る。
「甘い、甘いわね! パンケーキに練乳とはちみつと砂糖をかけたくらい甘い考えだわ!」
「おいしそう……」
なぜか、アイシャが反応していた。
ちょっとよだれが垂れている。
うん。今度、パンケーキを作ってあげよう。
「おっちゃんが決めたのは、あくまでも婚約者でしょう? 娘を嫁に出すとは言っていない」
「つまり……?」
「あれは、ソフィアを呼び戻すための餌ね。ああいうことを書けば、絶対にソフィアが戻ってくるって思っていたんでしょうね。で、戻ってきた後で、やっぱり婚約はなし、ってことにすればいいのよ。自分でセッティングしたんだから、それくらいできるでしょ」
「なるほど」
リコリスの言うことが正しいなら……
僕がエドワードさんに認められる可能性は、限りなく低いだろう。
ゼロと言ってもいいかもしれない。
「どうするの? おっちゃんがあんな感じなら、あたしは、ここにいるだけ無駄だと思うけど」
「かもしれないね」
「その顔……諦めるつもりはないみたいね」
「うん、そうだね」
認められる可能性はゼロに近い。
それでも、僕は退きたくない。
「ここで、ソフィアを連れてどこかへ行く、っていう選択もあると思うよ。でも、そうなると、エドワードさんとの間に決定的な溝ができちゃうと思うんだ。それは、寂しいよ。親子なんだから、やっぱり仲良くしないと」
「そのために、がんばる、っていうの?」
「そうだね。がんばろうと思う」
どうにかして、エドワードさんに認めてもらい……
そして、ソフィアはエドワードさんと仲直りをする。
また、仲の良い親子に戻る。
それがベストだ。
「あれもこれも欲しいなんて言っていると、全部、取りこぼしちゃうわよ?」
「そうならないように、がんばるよ」
「成功する根拠は?」
「ないけど、がんばるよ」
「はぁ……」
やれやれと、リコリスはため息をこぼした。
でも、すぐに、ニヤリと笑う。
「ふふーん、面白いじゃない」
「なにが?」
「そこらの人間だと、困難にぶつかった時、大抵、妥協しちゃうわ。こうするしかない、全部を拾うのは無理だから諦めないと……っていう感じでね」
「それは、仕方ない流れだと思うけどね」
「でも、フェイトは違うじゃない。あくまでも、強欲に全部掴み取ろうとしている……うん、面白いわ! そんな人間、見たことない。よし! このスーパー天災ミラクル美少女探偵リコリスちゃんの頭脳を貸してあげる。一緒にがんばりましょう」
「ありがとう、リコリス」
でも、今、天才のところが別の不吉な文字になっていたような気が……?
「ちょうど時間もあることだから、対策を考えましょう」
「うん、三人で色々とアイディアを出してみようか」
「ふえ……わたしも?」
「お願いできないかな? アイシャだからこそ、思い浮かぶアイディアがあると思うんだ」
「うん。おとーさんとおかーさんのために、わたし、がんばる!」
娘がかわいすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
でも……そうか。
エドワードさんは、こんな気持ちなのかな?
もしも、アイシャが嫁に行くとしたら、僕はなにがなんでも反対してしまうかもしれない。
ちょっとだけ、エドワードさんの気持ちがわかるのだった。
「ごめんなさいね。話をまとめてきますから、スティアートくんは、こちらで待っていてくださいね」
そんな話をエミリアさんにされて、俺とリコリスとアイシャは客間に戻った。
ソファーに座り、のんびりとクッキーを食べて、メイドさんが淹れてくれた紅茶をいただくのだけど……
ドゴンッ!
ガガガガガッ!!!
ドガシャアアアアアーーーーッ!
ちょくちょく、轟音が響いてくる。
その度に、地震が起きたかのように床が揺れていた。
剣聖と道場師範の喧嘩なので、すさまじい。
でも、二度目ということもあり、もう慣れてしまった。
アイシャも怯えることはなくて、笑顔でクッキーを食べている。
「アイシャ、クッキーの欠片がこぼれているよ」
「えっと……?」
「じっとしてて……うん、これでよし。綺麗になった」
「ありがと、おとーさん」
「どういたしまして」
「あんたら、こんな時なのに、ホント平常運転ねぇ……」
そう言うリコリスも、両手でクッキーを持って、ハムスターのようにカリカリと食べているから、人のことは言えないと思う。
「ところでリコリス、さっきのはどういう意味なの?」
「さっき?」
「ほら、エドワードさんのことを、子離れできない、って言っていたじゃない」
「ああ、そのこと。それがどうかしたの?」
「どういう意味なのかな、って」
「どうもこうも、そのままの意味よ。あのおっちゃん、ぜんぜん、子離れができていないじゃない」
「そう……なのかな?」
エドワードさんのことを思い返す。
領主……そして、道場主にふさわしい威厳を備えていた。
そんなエドワードさんが子離れできていないと言われても、なかなか納得することができない。
「あのおっちゃんがフェイトを認めなくて、あれこれと難癖をつけているのは、ソフィアを取られたくないからよ。だから、子離れできない、って言ったの」
「そういう意味で、僕に文句をつけていたのかな……? 僕は、そんな風には見えなかったんだけど」
「甘い、甘いわね。このスーパーリコリスちゃんアイをもってすれば、人間の考えていることなんてお見通しよ!」
スーパーリコリスちゃんアイって、なんだろう?
「っていうか、あのおっちゃんは、すっごいわかりやすいと思うわ。怒ってごまかしてるけど、娘がかわいくてかわいくて仕方ない、っていう感じよ」
「そう、なのかな……?」
「そうよ。このリコリスちゃんが言うんだから、間違いないわ。っていうか、それくらいも見抜けないから、フェイトは昔、騙されたりしたんでしょ」
「うぐ」
そこを突かれると弱い。
「しかし……そうなんだ。うん、それならよかった」
「あんた、認められないっていうのに、なんで笑っているのよ?」
「もしかしたら、親子仲が悪いのかな? って不安に思っていたんだ。でも、少なくともエドワードさんはソフィアのことを大事に思っているわけで……そういうことなら良かったなあ、って思ったんだ」
「お人好しねえ……ま、それがフェイトらしいか」
カリカリと、リコリスはクッキーを食べる。
それから、妖精サイズのカップで紅茶を飲み、話を続ける。
「そんな心配をしてるなら、安心していいわよ。なんだかんだで、あの親子、仲が良いと思うわ」
「なら、よかった」
「で、フェイトはどうするわけ?」
「どうする、っていうのは?」
「あのおっちゃん、ソフィアを手放したくないから、絶対にフェイトのことを認めないと思うわよ? あれこれと文句をつけて、交際を認めるなんてこと、ないと思うわ」
「それは困るなあ……」
あれ?
ふと、疑問に思う。
「でも、手紙だと、ソフィアの婚約者を決めた、ってあったけど……」
それが本当なら、自分からソフィアのことを手放していないだろうか?
そんな疑問を口にしてみると、リコリスはチッチッチと指を横に振る。
「甘い、甘いわね! パンケーキに練乳とはちみつと砂糖をかけたくらい甘い考えだわ!」
「おいしそう……」
なぜか、アイシャが反応していた。
ちょっとよだれが垂れている。
うん。今度、パンケーキを作ってあげよう。
「おっちゃんが決めたのは、あくまでも婚約者でしょう? 娘を嫁に出すとは言っていない」
「つまり……?」
「あれは、ソフィアを呼び戻すための餌ね。ああいうことを書けば、絶対にソフィアが戻ってくるって思っていたんでしょうね。で、戻ってきた後で、やっぱり婚約はなし、ってことにすればいいのよ。自分でセッティングしたんだから、それくらいできるでしょ」
「なるほど」
リコリスの言うことが正しいなら……
僕がエドワードさんに認められる可能性は、限りなく低いだろう。
ゼロと言ってもいいかもしれない。
「どうするの? おっちゃんがあんな感じなら、あたしは、ここにいるだけ無駄だと思うけど」
「かもしれないね」
「その顔……諦めるつもりはないみたいね」
「うん、そうだね」
認められる可能性はゼロに近い。
それでも、僕は退きたくない。
「ここで、ソフィアを連れてどこかへ行く、っていう選択もあると思うよ。でも、そうなると、エドワードさんとの間に決定的な溝ができちゃうと思うんだ。それは、寂しいよ。親子なんだから、やっぱり仲良くしないと」
「そのために、がんばる、っていうの?」
「そうだね。がんばろうと思う」
どうにかして、エドワードさんに認めてもらい……
そして、ソフィアはエドワードさんと仲直りをする。
また、仲の良い親子に戻る。
それがベストだ。
「あれもこれも欲しいなんて言っていると、全部、取りこぼしちゃうわよ?」
「そうならないように、がんばるよ」
「成功する根拠は?」
「ないけど、がんばるよ」
「はぁ……」
やれやれと、リコリスはため息をこぼした。
でも、すぐに、ニヤリと笑う。
「ふふーん、面白いじゃない」
「なにが?」
「そこらの人間だと、困難にぶつかった時、大抵、妥協しちゃうわ。こうするしかない、全部を拾うのは無理だから諦めないと……っていう感じでね」
「それは、仕方ない流れだと思うけどね」
「でも、フェイトは違うじゃない。あくまでも、強欲に全部掴み取ろうとしている……うん、面白いわ! そんな人間、見たことない。よし! このスーパー天災ミラクル美少女探偵リコリスちゃんの頭脳を貸してあげる。一緒にがんばりましょう」
「ありがとう、リコリス」
でも、今、天才のところが別の不吉な文字になっていたような気が……?
「ちょうど時間もあることだから、対策を考えましょう」
「うん、三人で色々とアイディアを出してみようか」
「ふえ……わたしも?」
「お願いできないかな? アイシャだからこそ、思い浮かぶアイディアがあると思うんだ」
「うん。おとーさんとおかーさんのために、わたし、がんばる!」
娘がかわいすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
でも……そうか。
エドワードさんは、こんな気持ちなのかな?
もしも、アイシャが嫁に行くとしたら、僕はなにがなんでも反対してしまうかもしれない。
ちょっとだけ、エドワードさんの気持ちがわかるのだった。