力比べをするかのように、アクセルと鍔迫り合いを繰り広げる。

 剣の柄をしっかりと両手で握り、右足を一歩前に出して踏み込み、力で押し切ろうとする。
 ソフィアは、僕はSランク並の身体能力があると言ってくれた。
 なら、多少、強引にいくことは問題ないはず。

 しかし、アクセルも負けていない。
 力には技術で。
 そう言うかのように、こちらの力をうまく受け流してしまう。

 手応えはゼロ。
 空気を切ったかのように、スルリと剣が抜けてしまう。

 その隙を見逃すことなく、アクセルは斬撃を叩き込んでくる。
 でも、それは見えていた。
 木剣を横にして、盾のように構える。

 アクセルの斬撃を受け止めた後、足払いを繰り出す。
 簡単に倒れてくれるほど甘くはないのだけど、それでも、これ以上の攻撃はまずいと思わせることができて、アクセルは一度後ろへ引いた。

「その程度か、小僧。技術はなく、力だけで押し切るなど、剣士にあるまじき愚行! 誰に剣を教わったか知らぬが、貴様もその師も、どうしようもないな!」

 僕の問題点をしっかりと見抜いたらしく、エドワードさんがそんなことを言うのだけど……

「……お父さま。フェイトに剣を教えたのは私なのですが、へぇ……私はどうしようもないのですか。どうしようもない娘なのですか」
「え」

 僕に剣を教えてくれたのは、ソフィアなんだよね……
 なので、当然、ソフィアはものすごい不機嫌に……というか、殺気すら放つ。

「エドワードさん。僕の剣の師はソフィアですが、僕がまだまだなのは修行途中だからです。なので、責めるのなら僕だけを」
「う、うむ……」

 ソフィアの殺気に当てられ続けているせいか、エドワードさんは、ダラダラと汗を流していた。
 よくよく見てみたら、エミリアさんにも殺気をぶつけられていた。
 妻と娘に、「ふざけたことを言うなら殺す」と言われているようなもので……
 ちょっとかわいそうだった。

「どこ見てやがる!」
「油断はしていないから大丈夫!」

 アクセルが斬りかかってくるけれど、それをしっかりと受け止めた。
 ソフィアとの未来がかかっているのだから、油断なんてしない。

「ちっ、やるな。剣技はまだまだだが、身体能力がデタラメに高いな」
「ありがとう。アクセルも、剣はすごいね」
「まあな。これでも、何年も道場に通っているからな。さすがに、素人には負けてられねえさ」
「あれ? 僕が剣を握って少しだっていうこと、話したっけ?」
「こうして、やりあえばわかるさ。剣筋は、ソイツの人柄が出るものだからな」
「へー」

 試合の最中なのだけど……
 こうして、アクセルと話をするのは楽しい。

 思えば、同世代の同性の友達がいなかったからなあ。
 アクセルならぴったりだ。
 試合が終わった後、友達になってくれないかな?

「よし、がんばろう」

 そのためにも、まずは勝たないと。

「はぁっ!」
「うらぁっ!!!」

 互いに気合を吐き出して、何度も何度も剣をぶつける。
 激突を繰り返して、技をぶつけ合う。

 僕は力に優れていて。
 アクセルは技に優れている。
 一長一短で、なかなか勝負の決め所が見つからない。

 うーん、強敵だ。
 ソフィアと出会ったばかりの僕だったら、たぶん、すぐに負けていただろう。

 でも、今は、それなりの修羅場を潜ってきたという自負がある。
 それが僕を成長させて、強くしてくれていた。

「神王竜剣術……」

 僕は、一度大きく後ろへ引いて、剣を上段に構えた。

 ここで勝負をつける。
 その意思、気合を入れて、剣の柄を強く強く握る。

 それを見たアクセルは、ニヤリと笑う。

「いいな……うん、すげえやりがいがあるよ、お前。ここで潰すのは惜しいが……でも、俺も剣士だ。負けられねえよ!」

 アクセルも剣を上段に構えた。
 同じく、勝負をかけるつもりなのだろう。

 うん、予想通り。

「壱之太刀……」

 男同士しか通じないような、妙な共感。
 互いに小さく笑い、

「「破山っ!!!」」

 同時に、必殺の技を繰り出した。
 極大の一撃が真正面から激突する。

 ガァンッ!!!

 ただの木剣なので、技の威力に耐えきれず、共に半ばからへし折れてしまう。
 アクセルは、ちっ、と舌打ちをして……

 一方の僕は、さらに一歩、前に踏み出した。

「なっ!?」

 互いに技をぶつければ、こうなるだろうと予想していた。
 だから、迷うことなくすぐに動くことができた。

 アクセルの懐に潜り込むと同時に、肘打ちを見舞う。
 彼の体がぐらりとよろめいたところで、その眼前に折れた木剣を突きつけた。

「勝負あり……だね」