まずは、僕の実力をテストしたい。
 そんな話になり、場所を道場に変えた。

「では、これより力のテストを行う」
「ルールは簡単よ。私達が指名した相手と戦い、勝利すること」
「ふんっ……簡単に勝てると思うな? それと、戦士にあるまじき卑怯なことをすれば、その時点で失格だ。追い返すだけではなくて、牢に叩き込んでくれよう」
「あ、ですが、剣だけで戦う必要はありませんよ? 実戦を想定していますから、体術でも魔法でも、なんでも問題ありません」
「え……か、母さん、それは……?」

 予定外のことを言われたらしく、エドワードさんが戸惑いを見せた。
 対するエミリアさんは、平然と言葉を続ける。

「旦那さまは、なにか反論が?」
「ここは剣の道場なのだから、剣だけで戦うべきでは……」
「あら、おかしなことを言うのですね。神王竜剣術は、実戦を想定しているではありませんか。試合でも、剣以外を使うことは認められているはず。それなのに、どうして今回に限り、剣のみにしようというのですか?」
「そ、それは……」
「もしかして……スティアートくんに対して有利な立場に立ちたいから、剣だけにしようと? 旦那さまは、そのような浅ましい戦略を考えていたのですか?」

 エミリアさんは笑顔なのだけど、しかし、その目はまったく笑っていない。
 むしろ、怒っているようだ。
 妙な威圧感を覚えるほどで、いくらか気温が低下したような気がした。

「そ、そのようなことはない! ないぞ!?」
「そうですか。なら、薬を使うなどの卑怯な手を除いて、なんでもありということで問題ありませんね」
「……ない」

 がくりとうなだれつつ、エドワードさんはエミリアさんの言葉を全面的に受け入れた。
 僕としては、喜ぶべきことなのだろうけど……
 それでも、ちょっとエドワードさんに同情してしまうのだった。

「それにしても……」

 道場内を見回す。

 人、人、人。
 話を聞いたらしく、たくさんの門下生達が見学に訪れていた。

「こんなにたくさんの人がいると、ちょっと緊張するね」
「緊張する必要なんてありませんよ。フェイトなら、どのような相手であれ、打ち勝つことができると信じています」
「うん。ありがとう、ソフィア」
「ふふっ。フェイトの将来の伴侶として、あなたを信じることは当たり前のことですから」
「だからさあ……あんたら、イチャイチャする時は、場所を選びなさいよ」
「「あ……」」

 リコリスに言われて、僕とソフィアは同時に赤くなる。
 少し……いや、かなり恥ずかしい。

「えへへ。おとーさんとおかーさん、仲良し」

 でもまあ、アイシャはうれしそうにしていたから、それでよしとするか。

「では、テストを……試合を始める!」

 エドワードさんの声が響いて、僕の対戦相手が姿を見せる。
 それは……

「アクセル?」
「よう」

 気軽に挨拶をされた。

「僕は、アクセルと戦うの?」
「みたいだな。まあ、俺としてはお嬢さまの想い人に剣なんて向けたくはないんだが……師範の命令となると、断ることはできなくてな。悪いが、手加減はしないぜ」
「うん、それでお願い」
「へ?」
「勝ちたいと思うけど、でも、手を抜かれて勝っても嬉しくないからね。一応、僕も男だから、その辺りのプライドはあるよ」

 アクセルはぽかんとして、

「はははっ」

 楽しそうに笑った。

「さすが、お嬢さまが選ぶ相手というか……おもしろいな、お前。勝っても負けても、恨みっこなしだぜ」
「うん。正々堂々と戦おう」

 前に出ようとして、

「……フェイト」

 ソフィアに引き止められる。

「最近のアクセルは知らないのですが……しかし、彼は、才能がある剣士ということは覚えています。魔物に襲われて慌てていた、ということで楽観せず、気を引き締めてくださいね?」
「わかっているよ。絶対、油断なんてしないから」
「それでこそ、フェイトです。いってらっしゃい」
「いってきます」

 ソフィアの笑顔に見送られて、アクセルと対峙する。

 その際、周囲の門下生達から刺すような視線が飛んできた。
 嫉妬の感情があるみたいだけど……
 ソフィアのことで、やっかみを覚えているのだろうか?

 ソフィアは綺麗で優しくて、とても素敵な女性だから、僕のことをおもしろく思わないのは当然かもしれない。
 でも、手を引くつもりはない。
 全力で挑み、そして、認めてもらうつもりだ。

「両者、構え!」

 エドワードさんの合図で、僕とアクセルは一定の距離を保ち、それぞれ剣を構えた。

 今回は、あくまても試合。
 力を測るためのテストなので、殺傷力のない木剣を使うことに。

 それでも、アクセルから放たれる威圧感はすさまじい。
 戦場で対峙しているかのようなプレッシャーと危機感。
 覚悟なしに対峙したら、すぐに飲み込まれてしまうだろう。

 アクセルは、それほどの相手だ。

「はじめ!」

 戦闘開始。
 僕とアクセルは同時に道場の床を蹴り……

「はぁっ!」
「うらぁっ!!!」

 ギィンッ! と剣と剣を交差させた。