「ただいまー。」

 リビングにバッグを置き、ソファに身を任せた。

 「おかえり。夕飯用意してあるから食べちゃいなさいね。」

 お母さんの声と共に、美味しそうな夕飯の香りが部屋を包んでいた。
 夕飯が並べられたところで、家族みんなで夕飯を共にし、食後、僕は部屋に戻った。


 「僕と居られる瞬間が、夜野にとって大切な時間、か。」

 ベッドに仰向けになりながら、夜野に言われたセリフを要約して何度も唱えた。
 いくら唱えても、理解できない。

 言葉としては理解できる。
 ただ、僕は17歳だ。そもそも、様々な経験に乏しい。
 だから、夜野の言葉に対して、心を躍らせているのか、はたまた、どこかに抱えている寂しさに胸を締め付けられているのか、全くわからない。
 夜野の言葉について、僕はどのように考えを張り巡らせば、【夜野雫】という人間を誤解せずに理解できるのだろうか。


 夜野とは、高2でクラスメイトになってから仲良く…同じ委員会に入ったことで言葉を交わす仲になった。
 初めの頃は、一方的に夜野が意味のわからない話をしてきて、僕がそれに対して適当に相槌を打つ、そんな毎日当たり前だった。
 いつの日か、僕は夜野の話を聴くことが日課になり、夜野はさらに話を充実させていっているようだった。

 夜野が目の前に存在していること、それが僕にとっての日常となった。

 でも、夜野の話は必ずどこかでストッパーが作動する。
 夜野は"これ以上話してはいけない"、と僕に非言語で伝え、僕はそれに応答する。

 もしも、これがペアのダンスとかだったら、互いの足を踏んで、互いに怪我をするだろう。
 まさに、そんな状態が、今の僕ら2人の関係性なのだ。

 目的地は同じでも、辿り着くまでの道が別々。
 どこかに転がっていそうな簡単な"何か"。
 僕はそれを探している。

 夜野も同じように、大切な"何か"を探しているように思える。