「私、(ひかる)くんのこと、好きだよ。」

 焦げ茶色、胸元辺りまでの長髪を揺らしながら、彼女は僕にそう告げた。
 驚くよりも先に、僕はなぜか泣いていた。
 その涙に対して驚いていたのは、彼女のほうだった。

 「もしかして、私、振られた?」

 まだ何も返事していないのに、彼女はだんだんと焦りを募らせているようで、落ち着きのなさが垣間見えた。

 言えない。言いたくない。
 僕も彼女が好きだ、ということを。

 「僕もだよ。」とか、「好きだ。」それくらいの言葉が、喉元でつっかかって出てこない。
 咳き込んでみても、声が出てこない。

 僕は情けなさのあまり、涙を流したまま、その場にしゃがみ込んだ。

 「ごめんごめんごめん!傷つけてごめん!」

 違う、違う、違う…。
 君は何も悪くないんだ。

 時間が経てば経つほど、彼女に対する罪悪感が波のように襲ってくる。
 自分がその波に飲まれてしまいそうで、怖かった。

 これだから、「好き」は苦手なんだ。
 伝えることも、伝えられることも、ましてやそれを感じることも。 

 すべて。

 現に彼女は、僕の不甲斐なさのせいで迷惑な思いをしているだろう。
 

 周りに誰もいないこと、それだけが心の頼りだった。