「浅川、お前の友人は強く、優しい奴だな。でも、最低な奴だ……」
汐里はmicroSDカードを握り締める一颯を一瞥すると、視線を反らす。
「結局、お前を悲しませてる」
一颯の目からは涙が溢れている。
啓人は最期に一颯へ恨み言を遺して自らの命を絶った。
しかし、実際は違った。
彼の親友は親友を嫌ってなどいなかった。
ただ、守りたかったのだ。
――刑事になるという一颯の夢を。
親友が犯罪者など一颯を苦しめるだけだと考えたのだろう。
だから、死を選んだ。
死んだところで親友が犯罪を犯し、死んだという事実は変わらない。
結果的に一颯は悲しみ、苦しんでいる。
「アイツ、昔から詰めが甘いんです……。何かやっても一つ抜けてて、完璧にならない」
「そこはお前も人のこと言えないな」
「否定は出来ません……。でも、だから、俺は啓人といるのが一番楽しくて、居心地が良かったんです」
「でも、それが小田切紗佳には気に入らなかったようだがな……。もしかしたら、小田切紗佳が生きていたら、お前は殺されていたかもしれないな。……嫉妬に狂う化物に」
「だからって、啓人が紗佳を殺す必要は無かった!なのに、俺の夢の為だけに何で……ッ」
一颯はその場に膝をついて、床を何度も叩く。
後悔は溢れるばかりだ。
自分の夢は刑事になることだった。
誰かを守るためになったはずなのに、守れなかった。
むしろ、許されることではない形で守られてしまった。
「古賀啓人のやったことは許されない。だが、それはお前を守るためだったんだ。お前を苦しめる形だったとしても、お前を守りたかったんだ」
汐里は一颯の横に膝をつくと、頭を優しく撫でる。
一颯よりも一回りは小さい手だが、暖かく優しく、強さを感じる。
「今は蹲って、泣いても良い。だが、必ず立ち上がれ。それが古賀啓人が望んだお前の苦しみだ」
「……刑事でいる限り、逃れなさそうな苦しみですね」
「そうだな。お前はずっと刑事でいないといけないな」
一颯は涙を拭うと顔を上げる。
その目にはまだ後悔は滲んでいる。
だが、決心はついた。
これからも刑事で居続ける。
自身の為に失われた大切な二つの命を無駄にしない為に――。