薄暗い店内。
聞こえる下品な笑い声と怒鳴り声。
落ちて砕け、散らばるグラスのガラス片。
感じた痛み。





「っ!」





鈍痛と共に床に転がり、散らばったガラス片で手のひらを切ったのか鋭い痛みが走った。
直後、硬い靴に頭を踏みつけられる。
グリグリと煙草を踏み消すように、頭を踏みつける。





「弱いくせにイキってんじゃねぇよ」





「あっははは!カワイソウだから止めてやれよー」





頭を踏みつける男を周りにいる男が笑いながら止める。
止めているようには見えない。
それに、こんな奴らにカワイソウと言われるのは腹が立つ。
こんな奴らよりも自身が劣るのか、と。





「麻澄なんて女なんて覚えてねぇって言ってんだろ。売った女の名前なんていちいち覚えてねぇっての」





覚えていない?
あれだけ弄び、辱しめ、貶めたというのに。
俺の妹は自ら死を選ぶほど苦しんだというのに、この男は何も覚えていない?
ふざけている。





殴られ、蹴られを繰り返され、ぼろ雑巾のようになった俺は外へ放り出された。
まるで、ゴミのように。
外は冷たい雨が降っていた。
濡れた身体から体温が奪われていく。





「クソ……」





悔しかった。
妹の仇を討ちたいのに俺には力がない。
妹は今の俺のようにボロボロにされ、ゴミのように捨てられた。
妹なんかよりあいつらの方が余程ゴミのようだと言うのに。





ふと、雨が止んだ。
いや、違う。誰かが俺に傘を差したんだ。
その証拠に男物のスニーカーが視界に見えた。
誰だろうと顔を上げれば、不気味な仮面を着けた男がいた。





「《強欲と傲慢》」





「は?」





「仇を討ちたくないか?あいつが憎いんだろう?」






声は変えているのか、機械のように抑揚が無かった。
不気味だった。
でも、俺はこの不気味な男にすがるしかないと思った。
すがらなければ、仇を討つことは出来ないと思った。




警察は助けてくれない。
誰も助けてくれない。
助けてくれるのはこの男だけだ。
だから、俺は怪しいと思ってもすがった。





――ペルソナという男に。