「二人が行方不明だって赤星から聞いて、《七つの大罪》の拠点をしらみ潰しに探した」
「そうですか、ありがとうございます。それより、これくらいのアンプルがドアの傍にありませんでしたか?京さんが毒を吸ってて、アンプルの中身が解毒剤なんです」
「もしかして、これか?」
司馬が取り出したのは確かに神室が一颯に見せたアンプルだった。
一颯は司馬からそれを受け取り、汐里に飲ませる。
それが本当に解毒剤なのか、不安はあった。
それでも信じたかった。
神室が希望を残していったということを。
「浅川、手を見せろ。血が出ている」
「俺は良いので、早く救急車を!京さんが頭を殴られたんです」
「救急車は此処に来る前に念のために呼んでおいたからじきに来る。だから、手を出しなさい」
一颯は上司の言うことに逆らえず、大人しく手を出した。
その瞬間身体に電流が走り、意識を持っていかれ、その場に倒れた。
司馬は無表情で倒れた一颯を見下ろしている。
「……お前は何がしたいんだ?」
そんな司馬に汐里が声をかける。
頭から流れた血は既に固まっているが、痛みはあるのか汐里は顔をしかめつつ、身体を起こした。
そして、司馬を睨む。
「上司にお前は無いだろう。だが、目が覚めて良かった」
「惚けるな。お前は司馬さんじゃない。お前は司馬さんに変装した神室志童だろう?」
汐里の言葉に司馬はニヤリと笑って、顔につけたマスクを剥がした。
初老のシワが目立ち始めた司馬のマスクを外した先に現れたのは、神室志童の中性的な顔だった。
神室は頭を振って、髪を乱すと短く息を吐く。
「よく僕の変装に気付いたね。変装は僕の十八番なんだけどな」
「いつから司馬さんに変装してたかは知らんが、何故こんなことをした?」
「こんなこと?司馬さんに変装したこと?」
「そっちじゃない。何故、お前は私と浅川を殺さなかった?こんな下らない猿芝居までして」
「殺すには惜しくなった、からかな」
神室はクスリと笑う。
これまで毒を吸わされてずっと気を失っていた汐里だが、実際吸わされていたのはただの睡眠作用のある薬だった。
量が多めだったようでかなり深い眠りについていたようだが、一颯が解毒剤として飲ませた液体のお陰で一発で目が覚めた。
ちなみに液体は解毒剤ではなく、原液の酢だったりする。