「ふざけんなよ!このクソ野郎が!」





一颯はどうにかロープをほどこうとした。
幸い前で縛られている、歯でどうにかほどけないものかと試みる。
少しずつだが結び目は弛み、もう少しほどけると分かると力業で引きちぎった。
手首の皮膚が剥け痛みがあったが、今はそれどころではない。
足のロープを急いでほどき、隣にいる汐里を抱き起こす。





「京さん!しっかりしてください!京さん!」





頭を殴られているから身体をあまり揺らすのはまずい。
そう思い、一颯は静かに彼女を寝かせると唯一の出入り口であるドアの方へ向かった。
ドアノブを回したり、押したり、引いたりしてもドアノブは開かない。
力任せに体当たりしたり、蹴飛ばしてもみたが、鉄のドアは頑丈だ。







「クソ……っ!」





苛立ちをぶつけるように、もう一度思い切りドアを蹴飛ばした。
鉄製のそれを人間の足でどうにか出来るわけもなく、一颯はジンとする足の痛みに更に悶える。
身体が冷えきっているせいで余計にジンとした。





「京さん……」






一颯は少し離れたところにいる彼女の下へ戻る。
頭を打ち、気を失っている彼女はピクリとも動かない。
手を首筋に当てれば、脈はある。
ただ弱く、身体が冷たい。
幼なじみの死の直前によく似ていた。





動揺で呼吸が乱れる。
恐怖で身体が震える。
焦りで心臓の音がうるさい。
――落ち着け、と自身に言い聞かせるが、落ち着かない。






誰が目の前でまた死んでしまう。
自分にはやっぱり、正義のヒーロー(警察官)は無理だったのだろうか。
誰かを守りたい、助けたいなんて気持ちだけではなれなかったのだろうか。
俺は誰も守れず、助けられないのか――?









「お前だけは絶対に許さない……っ」





一颯と汐里しかいない密閉空間だから叫び声が虚しく聞こえる。
それでも、叫ばずにはいられない。
一颯は神室志童を許さない。
奴のせいで何人もの人が死に、何人もの人が罪を犯した。
アイツがいなければ――。






「絶対許さないっ!」






一颯は神室志童だけは絶対に許さない。
絶対に罪を償わせる。
例え、それが許されるやり方じゃなかったとしても。
一颯自身の《理性》が《本能》に負ける形だったとしても。









負の感情が一颯を支配しようとしていた――。















part.2に続く