「そうさ。人を信じるなんて馬鹿馬鹿しい。どうせ、どう足掻いても人は人を憎み、恨み、蔑み、殺すんだ。善人ぶったところで何の得にもならない」
神室は注文していたメロンソーダのアイスクリームを柄の長いスプーンで掬い、それを一颯達の方へ向ける。
「善人ぶるの、疲れない?」
「生憎、善人ぶってるつもりはない」
「仇討ちを考えてるだけで僕からしたら善人だよ。殺された父親のために僕を捕まえようとしているんだから」
向けていたスプーンを自分の方へ戻した神室は、溶けかけのアイスクリームを頬張る。
そして、付いていたさくらんぼを咥え、器用に枝に種をつけたまま食べていた。
一颯は汐里の様子をちらりと見て、いつの間にか手を離されていたことに気づく。
そして――。
「分かった。お前を捕まえることが善人なら私は悪人になろうか」
「か、京さん!」
汐里はテーブルに足をかけて飛び乗ると、持っていた拳銃を神室に向けた。
彼女からは明確な殺意を感じる。
このまま汐里は神室を撃ち殺す。
そうなれば、彼女は人殺しになってしまう。
止めに入ろうとした一颯だったが、背中に強い衝撃を感じたかと思えば何故か身体が動かなくなった。
テーブルに飛び乗った汐里が一颯に向かって何か叫ぶが、視界がぼやける。
ぼやけた視界の中、汐里も体勢を崩して倒れるのが見えた。
「敵のテリトリーに入るときはもっと警戒しないと。馬鹿を見るよ」
見下すような態度が腹立たしい。
だが、一颯の身体は動かず、何者かに拘束された。
倒れた汐里も拘束されている。
恐らく神室の仲間だ。
いや、この店自体が神室のテリトリーだったのなら一颯達の味方はお互いだけ。
どちらも拘束されてしまってはどうしようもない。
「かな……ど、め……さ……」
汐里の意識は完全に失われている。
一颯自身も根性でどうにか保っているが、今にも途切れそうだ。
一颯はメロンソーダを飲み進める神室を睨み付ける。
「……君も眠っててよ。これから始まるゲームの為にさ」
神室の微笑みを見たのを最後に、一颯は意識を失った。