「……あの人は僕を信じてくれた。連続殺人を犯してもやり直せるって」
神室は目を伏せ、悲しげな顔をする。
連続殺人犯と言えど、まだ子供だった神室。
更生し、やり直せると太志は信じていたのだろう。
だが、太志は殺された。
その理由は次の神室の言葉で明確になる。
「僕がやり直せる訳無いだろう。僕は人を信じないし、やり直すつもりもない。あの人の想いは僕にとってはお節介でしない。そのお節介で僕に殺された。だから、お節介者は早死にするんだよ」
神室はお節介者を思い出したのか、心底不愉快そうな顔をする。
一颯は先ほど資料室で聞いた司馬のことを思い出す。
『キョウさんは奴を信じすぎたんだ。更生できると。だから殺された。奴は人を信じないし、自分本意の男だからな』
確かに司馬の言うとおりだと思った。
心底思う、神室志童という男は自己中心的な下衆な男なのだ、と。
「神室、お前……っ!」
「あっははははははははは!」
憧れの太志を馬鹿にされ、神室に殴りかかろうとした一颯を止めたのは汐里の笑い声だった。
腹を抱え、笑う汐里。
一颯は汐里がおかしくなったのかと思ったが、違った。
汐里は憎悪を通り越し、滑稽になったのだ。
神室志童という悪魔の存在を。
「お前のような奴を信じて、お父さんは死んだ?お前のような人間のクズのような奴を信じて?あー馬鹿馬鹿しいなぁ……」
汐里は椅子の背もたれに寄りかかると、天井を仰ぐ。
閉じられた目からは涙が伝い、悔しそうに歯を食い縛っていた。
一颯は椅子から身を乗り出しかけている体勢のまま、そんな汐里を見ていた。
声をかけられない。
なんて声をかけたら良いのか分からない。
自分はいつもそうだ。
何か声をかけなければならないのに、その言葉が出てこない。
汐里なら何か声をかけてくれるのに。
一颯は自分の不甲斐なさが情けなかった。
苦しむ相棒に何も声をかけられない自分に。
すると、汐里が一颯のスーツの袖に触れた。
少しだけ引っ張られる。
汐里は気にすることない、と一颯に言っているようだった。
言葉には出さないが、彼女はちょっとした仕草でこうして伝えてくることが稀にある。
二ヶ月ほど共に仕事をしているが、一颯が向けられたのは初めてだった。