情報提供者が指定した喫茶店はレトロな雰囲気を醸し出していた。
かといって、古臭い印象は見受けられない。
店主の趣味で敢えてレトロな雰囲気に作られているのかもしれない。
そう一颯は考えつつ、汐里と共に情報提供者と向き合う。





「貴方が情報提供者の神室志童(かむろ しどう)さんですね?」





「はい」






情報提供者の名前は神室志童という男性。
年齢は二十代前半から半ばといったところで、中性的な顔立ちをした気弱そうな雰囲気だ。
話によれば、彼は《ペルソナ》に殺人を唆されたらしい。
殺したいほど憎い奴はいるが、人は殺したくない。
だが、殺さなければ自分が《ペルソナ》に殺されるかもしれないと警察に助けを求めたようだ。





「お聞きしたいのですが、何故《京》という刑事を指定したんですか?それに、何処の署に《京》という刑事がいるなんて分からないはずなのに、何故うちの捜査一課にいると?」






「昔、京という名前の刑事さんに助けてもらったことがあって。だから、問い合わせをしたら、あそこの署の捜査一課にいるって」






汐里の問いに神室は目を泳がせながらそう言った。
人は嘘をつくときに視線が泳ぐ場合がある。
つまり、彼は嘘をついている。
それに、昔助けてもらったという話は本当かもしれないが、署に問い合わせて素直に警察官のことを話す受付はいないはずだ。






「そうですか。なら、その問い合わせに答えた警察官を注意せねばなりませんね。守秘義務違反、だと。名前は何と言っていましたか?」






「えっと……東雲一颯と言っていました」






一颯は「は?」とつい声を出したくなるが、汐里に手の甲をつねられどうにか堪える。
東雲一颯は一颯の本名だが、署内では浅川一颯で通したままのため、本名を知る者は捜査一課のごく一部と氷室、警察庁の侑吾を含めたごく一部。
そのため、他の部署の警察官は知らないはずだ。





「電話での応対だったので顔まではわかりませんが、名前はそう言っていました」







「だそうだが、心当たりはあるか?」






神室の話に、汐里は一颯の方をちらりと見る。
一颯は全力で首を横に振り、「心当たりはありません」と答えた。





「うちには浅川一颯という警察官はいますが、東雲一颯という警察官はいません。……いい加減、子供騙しの芝居は止めろ。――ペルソナ」






汐里は神室を睨み付ける。
すると、神室は今までの気弱そうな雰囲気から冷たい雰囲気へと変わる。
まるで、殺人犯のような殺気を纏っていた。