「ごめんな、夕鶴。
 ちょっと待っててくれな」


 隼理くんはそう言って玄関の方へ向かってしまった。


 ……なにを……。

 一体何を待っていろというの……?

 私に美輝さんを紹介することを……?
 そして、その後、私に別れを告げることを……?


 そんなこと……。

 そんなこと待っているわけないじゃない。


 ……嫌だよ……。

 隼理くんと別れるなんて……。



「夕鶴」


 隼理くんが玄関から戻ってきた。
 美輝さんを連れて。

 そして私の名前を呼んでいる。

 でも。
 全身の力が抜け下を向いている私は顔を上げる元気もない。


「紹介するよ。幼なじみでもある親友の美輝」


 幼なじみで親友……?

 よく言うよ。

 本当は恋人のくせに。


「はじめまして、佐合(さわい)美輝といいます。
 突然おじゃましてごめんね」


 ……?

 今の声……。
 美輝さん……?

 声質は人それぞれかもしれない。
 それにしても……。


 そう思った私は。
 思わず顔を上げて……。


 …………。

 …………。


「……夕鶴?」


 あまりにも。

 驚き過ぎて。


「どうした? 夕鶴」


 隼理くんが声をかけていることはわかっているけれど。


「おーい、夕鶴~」


 声が、出ない。



 この人が……。

 あの美輝さん……?