隼理くんの心地良いキスと美輝さんに関する悩みが混ぜこぜになっているとき。
私の部屋のドアをノックした音が聞こえた。
『姉ちゃん、帰ってるの?
開けていい?』
ドア越しから弟の悠悟の声が。
悠悟の声がして。
隼理くんはサッと自分の唇を私の唇から離した。
悠悟の声がして慌てている、私。
それに対して。
冷静な隼理くん。
私の様子を見て隼理くんは「落ち着いて」と耳元でやさしく囁いた。
隼理くんのやさしい声を聞いたら。
少しずつ落ち着いてきた。
「大丈夫」
隼理くんはそう言って、やさしく微笑みながら頷いた。
どこか余裕を感じる、隼理くん。
隼理くんは、とても頼りになる。
そんな隼理くんのことを見ていると安心する。
だから私も落ち着いて頷くことができた。
そして。
「あっ、えっと、いいよ入って」
少しだけ言葉を詰まらせてしまったけれど。
ドア越しの悠悟になんとか言うことができた。
私の呼びかけに悠悟はドアを開け部屋の中に入ってきた。
当然だけど。
悠悟は隼理くんのことを見て驚いた表情をしている。
そんな悠悟に隼理くんは素早く対応している。
隼理くんがなぜ私の部屋にいるのか。
その理由を簡潔に、そしてわかりやすく説明している。
麻川先生のときもそうだった。
突然、説明しなくてはいけなくなったとき。
隼理くんは冷静に対応することができる。
そんな隼理くんのことを見て。
ただただすごいと思った。
悠悟に一通り説明が終わって。
帰る隼理くんと隼理くんを玄関先まで送る悠悟が私の部屋を出ていく。
そのとき隼理くんは、もう一度「お大事に」と言ってくれた。
隼理くんと悠悟が部屋を出て行って。
部屋には私一人。
一人になると。
いろいろなことが頭の中に浮かんでくる。
……明日……。
隼理くんに会えないこと。
正直なところ。
少しだけほっとしてしまう。
こんなこと、本当は思ってはいけない……思いたくないのだけど……。
美輝さんの疑惑を抱いている限り。
隼理くんと会うことは。
辛いことでもあるから。
隼理くんの顔を見ると。
嫌でも。
どうしても思い出してしまう。
美輝さんのことを……。
だから。
隼理くんと会うことは。
幸せ。
と同じくらい。
辛い。
捻挫したことは痛くて辛い。
けれど。
今の私は。
足の痛みよりも。
心の痛みの方が、辛い。
……だけど。
こんなにも辛い気持ちになるのは……。
やっぱり。
やっぱり私は。
隼理くんのことが……好き……だから……。
どんなに辛くて苦しくても。
隼理くんのことが好きで好きでたまらない。
悲しいくらいに。
そう実感していた。